救世主の幸せ

『世界を守った救世主は世界で一番不幸になりました』のif
上記の話を先に読むことを推奨




あの日、剣を構えた勇者はこれまでに見た事のないほどの真剣な表情で私に斬りかかってきた
有りがたい話だ、『さっさと終わりにしてしまいたい』そう願っているのだから
けれど意識を保つ事すらやっとの私にとっては身体の自由が普段より利くわけがなく、中途半端に攻撃を防ぐだけとなってしまっていた
一撃、二撃、勇者の魔力が籠る剣で受ける傷は通常の物よりも治りが悪い
魔王にだって致命傷は避けたいし、出血多量で死ぬことはある

正直、攻撃を受けて血が大量に流しふらつきながらも勇者に対抗しているこの丈夫な身体は少し憎たらしいことこの上ない
歴代の魔王の負の塊とは恐ろしいなと戦闘中にも関わらず1人思いふける

「俺の魔力全部注ぎ込んで、その腕叩き切ってやるっ」
ぼんやりしたその瞬間に勇者の剣は振りかざされており、これまでにない魔力が宿り光り輝き、そして私の右腕に落とされた
あまりの痛みに意識が揺らぎ、その場に倒れこむ所を受け止められる

「ごめん、やっぱ魔王が居ない世界とか今さら興味なんかもうないんだ」
ちらっと見えた勇者の表情は先ほどまでと違い、酷く悲しそうに見えた

「ほんとに馬鹿な人だ」
言葉は届いただろうか?
分からないまま私の意識はそこで途絶える事となる

**

「んっ、ここは・・・?」
目が覚めると自分が拠点としていた所では無くなっていた
着ていたはずのマントは白い無地のワンピースになっており、はっと右腕を見ると包帯が根元で巻かれており腕は無く、うっすら疼く事が現実だとは思わせてくれる
改めて周りを見た渡すと木材で作られた小さな部屋
置かれた状況を考えていると扉が開かれた

「起きたか、魔王」

「・・・本当に勇者なのか?」
血の気が引くのを感じながら近くにあった鏡を慌てて覗き込む
赤い瞳は元の青い瞳へと戻っており、銀の髪の毛はまるで人間のように黒い髪の毛へとなっていた
反対に勇者の黒い髪の毛は銀色であった

「何したんだよ・・・私はあの時斬られて致命傷を」

「そうだ。致命傷を負った後は歴代の負の塊と魔力が溢れだしかけていた。けど、魔王から貰っていた魔力を増大にするお守り使い切ったんだ」

魔力の半分を自分に、歴代の魔王さん達のアレは全部あの拠点である城の奥底に封じてきたそうだ
その際に魔王の魔力の半減の影響で髪の毛は黒へ、逆に魔力が増えた勇者は銀へ

「瞳の色、綺麗な青に戻ったな。黒い髪も似合ってる」
私の長い黒髪に触れてそんな暢気な声を出すものだから気が抜けてその場にへたり込んでしまった
でもあの絶望的な状況から助かったのだ

本物の勇者であり、救世主だったわけだ

「無茶したなぁ、バカ勇者が」

「酷いなぁ、でも俺は元々勇者なんて柄じゃなかったんだから仕方ない」

へらへら笑うこいつの顔をまじまじと見るとそこにはもう悲しそうな表情はなかった

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