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111:「石」のオブジェクトを操作しているときの「重さのなさ」

前回に引き続き,この動画について考えてみたい.LEDウォールで撮影対象を取り囲んでしまい,撮影環境を表示する.そのとき,LEDウォールは映像表示装置であり,照明となっている.単に映像を合成するのではなく,映像を照明として使っているのが,リアプロジェクションなどの映像を用いた合成とは異なるところであろう.床以外の面を映像で囲まれた環境で撮影を行っているのであるから,そもそも映像合成とは異なるものなのだろう.人やバイク,砂は映像の光をリアルタイムに反射するオブジェクトとして置かれているに過ぎない.

撮影の「光」を変化させたければ,LEDウォールの映像を変化させればいいし,さらなる変化が必要であれば,物理的ライトも使えばよい.ライトの光もLEDウォールからのコンピュータで計算されて生み出された光も,光としては同じである.どんな光であれ,人,バイク,砂は反射する.とは言っても,LEDウォールの隙間に置かれた物理的ライトはどこか寂しそうでもある.しかし,これからLEDウォールと物理的ライトを組み合わせた面白い映像がつくられていくのだろう.

LEDウォールで等倍で風景が表示されていて,そのなかで「石」のオブジェクトを操作しているときの「重さのなさ」が気になった.もちろん,私たちは日々このような「重さのなさ」をディプレイで体験しているわけだけれど,それが等倍のオブジェクトになると,少し感覚がズレる気がする.今まではディスプレイのなかの小さなオブジェクトだから「重さのなさ」を意識することがなったのかもしれない.「重さ」云々の以前に,「石」のオブジェクトは地面をすり抜けたりしているわけだから,全くもって物理世界にとっては異物なわけだけれど,それが放つ光は,物理的光と合流していく.そのときには異物感は取り除かれている.

異物といえば,この映像を紹介している記事のなかにあるLEDウォールが表示している「グリーンバック」がある.LEDウォールだから,もちろん「グリーンバック」も表示できるわけだけれど,これもまた表示されているのが等倍の風景であるから,どこか奇妙な感じをつくりだしている.デスクトップのウィンドウの重なりと同じなのだけれど,「グリーンバック」が風景に異物として存在しているように見える.そして,この「グリーンバック」は,映像を合成されると消えてしまい,そこにあるのは「自然な映像」である.


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