🪲山形一生インタビュー

このインタビューはJSPS 科研費 JP 20H01203「ライフ／デス・アートの美学」の助成のもとで行われたものです．

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「認知者」とメディアアート

[水野]
「認知者」というのは、キャサリン・N・ヘイルズが提唱した概念です。彼女はヒトを含めた生物、そして、コンピュータを世界を認知する存在として捉え、これらを「認知者」と呼びました。コンピュータは計算的存在として、環境を非意識的領域で認知していると考えられます。人間は意識にのぼることがない非意識の領域でも環境を認識しているのですが、コンピュータも意識はないけれど、非意識レベルの環境の微細なデータをセンサーで捉えてリアクションをとっているという感じですね。だから、ヒトとコンピュータというのは非意識の領域で繋がっている同等の存在＝認知者として呼べるようになります。メディアアートを含めたコンピュータを用いた作品というのはコンピュータ単体として考えるよりも、ヒトとインタラクションをするというかたちで環境を認知している認知者として捉えるのがいいのではないか、と私は考えています。

「認知者」という考えを前提にして、山形さんの作品を参照しながら、ヒトとコンピュータとの関係を聞いていきたいと思います。例えば、山形さんはで3DCGやドット絵で作品を制作していて、3DCGで作品を制作しているときに3DCGとともに世界を認識しているという感じがあるのか、そして、それはコンピュータとともに世界を認識してる感じなのかというようなことを聞いていきたいと思っています。また、このインタビューは科研の研究グループ「ライフ／デス・アートの美学」の一環で行っているので、3DCGの作品では絵画とか彫刻とは異なる作品の「生と死」というのがあるのではないか。絵画や彫刻では破損とか欠損などがあると思いますが、コンピュータの作品だと物が壊れてないけど動かないという「調整中」の状態がありますが、この状態は作品にとって生なのか、死なのかということなどを、山形さんに聞いてみたいと思っています。

3DCGはテクスチャのみを描画する

[水野]
山形さんのコンピュータを用いた作品には、美術批評家のきりとりめでるさんが指摘するようなドット絵と物理世界を精密に模した3DCGの二つの種類があると思います。まずは、3DCGについて聞いていきたいと思います。山形さんはi-dのインタビューで「3DCGは表面のテクスチャのみを描画するのが基本で、中身は完全な空洞です」と述べています。私はこの言葉がとても気になっています。山形さんはこのように言っていますが、作品では3DCGの「空洞」を見せること、例えば、谷口暁彦さんの作品のような貫入をさせて、オブジェクトがテクスチャでしかなく、中身が空洞であることは明確には示していないと思います。言葉と表現の違いから、山形作品は「完全な空洞」をどうにか充填しようとしているのではないかと、私は考えました。例えば、ペットボトルの作品《Water》はずっと見ていると、ペットボトルや水が透明ということもあって、何を見ているのかがだんだんわからなくなってしまう感じがあります。でも、透明が「空洞」ということではない気もします。山形さんが3DCGの特徴だと捉えている「完全な空洞」を、山形さん自身はどのように捉えていますか？　
[山形]
僕がこのインタビューに答えたのは、もう4年ぐらい前だと思います。谷口さんとかは、過去の作品とかで空洞を見せてるわけですよね。3D空間におけるカメラにオブジェクトが近づいてくるとくっついてしまうんですね。「ニアークリッピング」というのですが、オブジェクトの中身が見えてしまって、3DCGの表面は薄っぺらいポリゴンで覆われているだけで中身は空洞なんだというのがわかる。作品としてその表現を使うというのはわかります。でも、僕がそういった表現を作中では使わないというのは、まさにその通りですね。それに対して、まず一つ回答できることとしては、空洞を見せるような表現はアートライクではなく、ゲームライクなんですよね。PlayStationなどでゲームをしてる世代とかからするとその表現は「あるある」で、走ってプレイしていたら敵とぶつかっちゃって、そのぶつかった瞬間だけめり込んで、中身が見えちゃうみたいな感じです。プレイ中の「あるある」として、私たちは結構消化していて、だからそれを作中でもう1回再生産するというのは、その経験に対して何かを更新するものじゃないと僕は思っています。だから、愚直にあんまり使えないです。でも逆を言えば、もう知ってるんですよね。3DCGによってつくられたキャラクターやモノを見たとき、私たちはそれらが表面の集積によって現出しているつくりものということを知っています。そして同時に、ゲーム空間で生き生きと動いたり操作したりすることができる存在としても同時に認知しています。それによって、奇妙な関係性が立ち上がっていると思います。僕はその辺のステージで戦ってるところはありますね。だから、例えば《Water》でやってることとしたら、水野さんとかもうわかると思うんですけど、細密に見ると傷がペットボトルに付いているんですね。その傷のテクスチャーは一つのものしか使ってないんで、全部同じ傷なんですね。
[水野]
そうなんですか！
[山形]
実はそうなんです。みんな同じ傷なんですね、完璧に同じ傷を負っていて、それは1枚の画像、傷の画像を共有してるという感じになっているんですよね。だから、3DCGの経験で表面しかないことを示すニアクリッピングのようなダイナミックな表現を使うというよりは、何をリアルに感じるのかという表現に僕はシフトしている感じがありますね。僕は3DCGをどこまでのレイヤーや深度でリアルに見るのか、何か現実の写真の経験と同じように見るかとか、その辺の「揺れ」を見てますね。だから、《Water》を結構遠目から見ると写真の経験とか広告の経験で、僕らはペットボトルの対象を「写真だ」と鑑賞してしまうのですが、傷などの細密な部分を見ると「これCGだ」みたいな揺れ動きがあります。そういった解像度の深度で見方が変わることとかにもすごく関心があります。
[水野]
びっくりした。《Water》は今、パソコンの壁紙になっているんですが、傷が一つしかないのに気づかなかったです。
[山形]
エビアンとクリスタルガイザーがわかりやすいと思います。傷は同じなんですよね。菱形みたいな傷がクリスタルガイザーにありますね。それがエビアンの方の蓋の方にも見える。同じ傷なんですよね。
[水野]
気づいた人いますか？
[山形]
山本悠は気付きましたね。「おい！傷が同じじゃないか」って言ってましたね。別に気づかなくても全然いいんですけど、でも、3DCGを細密に見ていくと、急にだらしなさが露呈してくるっていうか、一気にボロボロっと何かつくられた、どういうふうにつくられてるかっていうのが露わになってくるんですよね。
[水野]
すごく面白いですね。3DCGが一気に崩れるというのが、テクスチャの内側に入るってことではなくて、サーフェイスの傷の作り方で3DCGということが露わになる。物理世界だと同一の傷ができることの確率なんてもうほとんどないですからね。
[山形]
そうですね。
[水野]
3DCGだと傷をコピペできるから、同一の傷をそのまま違うオブジェクトに貼り付けることができる。さらに興味深いのが、同一の傷がオブジェクトの表面にいっぱいついてることは現実のオブジェクトではあり得ないけれど、まさにそのことによって、このペットボトルがリアルにある存在の証になってるっていうことになって、リアリティを持った表現になるということですね。
[山形]
このような表現は、3DCGでは「汚し」って言われるんですよね。ジオラマとかと同じでウェザリング表現が、3DCGだと大事と言われている。現実の世界って汚れてるから、3DCGでも汚してるとリアルに見えるよねっていうことです。それらは僕らが普段、物を知覚してるときに、どのような経験を積んできたかの蓄積によってそれらしさが形成されるわけですよね。だから、僕が何か3DCGを作るときは、現実よりは、むしろ写真とか広告とか、そういう普段僕らが平面の世界におけるイメージ・表象というものの経験の蓄積をなるべく反映させるんですね。だからライティングとかもかなりスタジオの方に寄っていってるんですね。スタジオでは大体3つライティングするので、3DCGでも同じように3つのライティングとかすると、現実では光源が3つもあるというのは本来あり得ないんだけど、本物らしく見える。僕らの経験がもうそういう写真や広告等を何回もリフレクションをして経験しているから、3DCGの経験もそれに対して呼応しているんですよね。だから、僕は現実を観察することはなくて、広告とか写真を観察して、3DCGを作っています。僕はこの辺りのことをいつも面白いなと思ってますね。
[水野]
3DCG自体を元々流通してるイメージを観察したものからつくることで、より本物らしいと感じるというのは、面白いですね。
[山形]
僕らが感じる本物らしさっていうものが、現実で知覚されたというものではなくなっている。当たり前だけど、画像や映画などで経験したものが現実の代替になっている。だから、ハリウッド映画は有名ですけど、ほぼ8割、スタジオ撮影もグリーンバックで撮影されて、全部3DCGになっている。だけど、僕らはその映像を3DCGだともう感じないレベルまで来てるわけですよね。多分脳では「これ3DCGだ」とわかっているけど、そんな野暮なことを考えずに映像にノって見るわけです。そうなってくると、その映像の経験は現実の舞台が描かれているがゆえに、現実のものとして経験するわけですよね。その相互作用のなかでいろいろな経験がリフレクションされて、虚偽・真実・現実というのものがもう問えなくなってきている。
[水野]
確かにそうですね。少し前までは授業映像を教えてるときに、映画のメイキングを見せると、学生が驚くということもあったけど、それも普通になってしまっている感じになっていますね。ハリウッドは日常のシーンもグリーンバックでも撮ってますもんね。確かに、私たちはそれを現実だと思うようになっていっている。でも、山形さんはそのような映像を見ていると「これはCGだな」と気づきますか？
[山形]
気づきますけど、わざわざ「これがCGだ」というふうには思わないです。むしろ現実らしさとか、僕らが経験してるときの「わあ、リアル！」、その本当になんとなく感じる「わあ、リアル！」というものが、僕は面白いなって思っています。「わあ、リアル！」は完全に作られてるものなんですよね。だからスターウォーズとかですら、僕らは「わあ、リアル！」っていうんですけど、そのリアルってもはや現実ではないにもかかわらず、「リアル」と感じているんです。それは本当にいろんな映像メディア・写真メディアの経験によって形成されている「リアル」なんですよね。だから、3DCGで映像を制作するときは、ハンドブラー、カメラの手振れをシミュレートするんですね。手ぶれによってリアルに見える、手ぶれ一つだけで、リアルになる。あとはその傷とかの「汚し」もそうです。このような細部に僕は注目してるかもしれないです。だから、映像作品とかもハンドブラーは絶対に入れてますね。完全に完全に静止した定点カメラみたいなものを、僕は作品で1回も使ったことがない。必ず手ぶれの感じをシミュレーションして、プログラムを書いて、映像を出してますね。
[水野]
手ぶれをコンピュータでやるというところが、山形さんっぽいところなんですよね。エキソニモの《Heavy Body Paint》では、千房さんが絵の具の瓶を撮影して、彼の身体が揺れているんですよね。カメラの手ぶれによって、ディスプレイに表示されている絵の具の瓶がまさにそこにリアルにあるように見えた。けれど、山形さんの場合は、手ぶれもプログラムを組んでしまって、コンピュータが「手ぶれ」を起こしているということですね。このように聞くと、山形さんのエクリヲのインタビューで回答されていたことの多くが分かった気がします。

《Water》について

山形一生《Water》2020

[水野]
引き続き《Water》について、私が考えたことを話しますね。インタビュー準備として、山形さんがホームページに掲載している作品を上から見ていったんですよね。Webの作り自体が山形さんっぽいなと思いながら、作品を見ていきました。山形作品を改めて見ていくと、3DCGのテクスチャ／サーフェイスとその向こうにある「空洞」を強く意識するようになりました。《Water》は無色透明のミネラルウォーターのペットボトルを描くということで、その中身は何もない＝空洞であるということを端的に表現していると感じました。そして、《Water》を見ているうちに、生が死を包み、死が生を包み、物質が生と死とを包むというようなことを思ったり、目の前の3DCGはプリントされる前は物質ではなく、プリントされる前は情報の塊になっているのかなどとと考えたりしました。このような作品をつくる山形さんは3DCGのようなデジタルオブジェクトを作っているときにどのようなことを考えているのかがとても気になりました。先ほど話してもらった「傷」のことも関連していると思うのですが、作品制作をしているに生と死とか、物質と情報とかそういったことを意識したりするのでしょうか。
[山形]
《Water》を作ったときの頃を思い返すと、最近は行けてないけど、僕はしょっちゅう東南アジアに行っています。そのときに各国のペットボトルのパッケージを集めています。それは3DCGの画像のために集めてもいるんですけど、単純に「水」というモチーフが歴史的に面白いなっていうふうに思っています。例えば、《Water》に使っているのは、日本で流通しているボルヴィックとか、あとコントレックスなどですね。調べてみたら、それらの水は実際にはそこから取ってないんですね。日本でも有名ですけどその富士山の山脈から云々ってやつも、本当に富士山由来の水が入ってるかなぐらいのところから汲んでいる。国境の問題と同じような話で、ちょっとでもその領域とか、概念にかすってたら、もうそこの水だよねみたいな感じです。だから、「水」は概念においてフィクションなんです。僕らがパッケージされて飲んでる水というのは、その地の山々とか自然とかを想像して飲まれるけど、実際はそんなことなくて、色々な水と混ぜられたりとか、意図的に違うところからホースで汲み取ってきたりとかして汲まれていて、イメージと物質とがかみ合わさっているものになっている。
イメージと物質とが共犯関係を結んで、一つのイメージが体験を満たしている。そのあたりのことで、僕はまずイメージとして、水のペットボトルだけを使って、作品を作ろうと思ったんですね。僕らが普段目にしている海外の水、日本に住んでいるにも関わらず、フランスやフィジーの水を飲んでいるという状況そのものが、そもそもおかしな話だと思いました。そこからスタートしようっていうことで、ペットボトルから始めましたね。制作している最中に傷をつけるとそれっぽく見えるようになるけど、傷は既存のテクスチャーを1個使うだけにしようとか決めていきました。
そこから生と死っていう概念を考えていくと、もうこれはマジで難しいですね。生と死っていうのを考えると、それはそもそも作ってる段階で全てに当てはまるんじゃないかという気がします。これはかなり抽象的な話になるから、僕にも説明が難しい。けど、特に映像作品とかゲーム作品とかの場合は、大事なものとか命とかが終わってしまうとか、もしくは傷つけられてしまうとか、そういった部分はすごく大事にしています。僕自身がゲームのプレイヤーでも作品の制作者でもそうですね。僕が美術や作品でもっと見たい、もっとやりたいなって思ってるのは、やっぱり傷つけられたり、傷つけたいからですね。何かいい作品見ると傷ついたりするじゃないですか。「ガーン」となって、余韻でずっと「ガクン」とするわけです。僕は美術とか鑑賞体験は傷ついちゃって、もう戻れないというか、体験前の自分には戻れないものです。だから「傷つける」っていうことですね。本当にだからそれが死と考えるか。生と考えるかわからないけど、水野さんが言ったように相互作用として生と死とがお互いにあると思うのですが、そこはかなり抽象的な話だけど根幹にありますね。
[水野]
強い作品とか見ても、私は結構その場では見方が変わるってということはあまりないですね。でも、その作品についてずっと考えてると、見方が変わる瞬間が訪れますね。もうこのようにしか見えないという瞬間があります。それは今までの自分の考え方とか世界の認識の仕方が終わる瞬間で「死」とも言えるけど、その後も自分が物理的に死ぬわけじゃない。だから、新しい見方で世界を見ていくというのは「生」という感じでもありますね。やっぱり生と死の方が作品を作ってると、生と死というのは制作の根幹に関わってきますよね。
[山形]
どうしても、入ってきますね。
[水野]
私はライフ／デスアート科研グループに入っていますが、作品や美学で生と死を扱うっていうのはどういうことなんだろうと考えています。
[山形]
まず概念としてすごく難しいですもんね。
[水野]
生きてるってことは経験をしているけど、死は誰も体験したことがほぼないし、人類誰もが死を経験することになるが、誰もがその経験を語れない状態にある。
[山形]
臨死体験とかはありますけどね。
[水野]
臨死体験で身体から自分が抜けていくみたいな記録談とかありますけど、本当に死んでしまった人の話は聞けないというのもありますね。死を考える上では臨死体験はどのような意味があるのかが気になります。死は体験しようがないから、ずっと作品のモチーフや考察の対象になっていると思うんですけど、死を考えることで自分の何かが変わるかと、あまり変わらないのかな、どうなんだろうなと考えることはあります。生と死とをめぐる考えが堂々めぐになっていったときに、山形さんの《Water》を見て、もう死とか生ではなくて、物質と情報でもなくて、ここにあるこれがこれなんだよみたいな感じの強さがあった。《Water》のペットボトルに現れてくる傷の話もそうですし、なぜその水というモチーフを選んでいったかっていうのが、とても興味深かったです。水はその土地から取ってるわけではないけど、その土地の名前がついていて、まさに概念、イメージとして流通してるペットボトルのラベルと無色透明な水とを組み合わせて作品をつくっていく。しかも、写真ではなく3DCGで作品を作っていっているのですが、作品をつくっているときは情報をまとめ上げていくという感じなのですか？　それとも絵を描く感じに近いのですか？
[山形]
多分両方ありますよね。まず最初の段階は、結構情報に近いです。なるべく物体の「らしさ」を捉えようとしますね。モデリングでなるべくその物体に近づけよう、本物らしく見せようっていうふうにしていく。けど、物体が出来上がった後は、絵作りになってくるんですよね。3Dの世界に対して、カメラの1点を設定してそこから見た構図で絵を作るわけですよね。3DCGとは言えども最終的には、それは2Dであるという意味では、最後は絵作りになる。だから物質的側面と情報的側面は両方ありますね
[水野]
段階によって、情報メインなのか物質メインなのかということが変わっていくっていうことですね。
[山形]
そうですね。《Water》の作品に関しては、本当に単純な構図ではありますよね。ただただペットボトルを横から淡々と並べたというだけ。

《Skin of Surface (Husk)》について

山形一生《Skin of Surface (Husk)》2017

[水野]
研究者的に考えた質問をしますね。ゴキブリの抜け殻を使った作品《Skin of Surface (Husk)》について聞いていきたいです。結構前の2017年に発表された作品になります。
[山形]
懐かしいですね。須賀悠介さんと永田くんと僕との 3 人でやった「Seeing Things」で、永田くんも僕も「現代美術やってくぞ」という感じになりましたね。本当にはじめのはじめですね。
[水野]
私はこの作品を改めて見て、「抜け殻」というのは3DCGの生と死との関係を示唆しているのではないだろうかと考えました。抜け殻は死んでいるわけではなく、成長のために脱ぎ捨てられたものであるからです。昆虫にとっての脱皮ということから、山形作品における生と死に対する意識を探れたらいいなと思っています。また、3DCGという点から考えてみても、抜け殻は中身があるように見えて、表面しかないとも言えます。山形さんは昆虫の抜け殻をどのように考えていますか？
[山形]
これは難しい質問ですね。でもやっぱり一つ、僕も思い出深い経験としてあったのが、昆虫を飼育していて、ある昆虫を手元に残しておきたいなと考えたときに「標本」という手段がありますよね。でも、昆虫の標本というのは、僕のなかで美学に完全に反していると思っています。このことを僕は今までずっと特に言語化しないできたので、今この場でどうにか言うんですけど、標本というのは「まま」なんですよ。それ自体すぎる。つまり標本は、実際にその生きてきた生体をミイラ化して、腐らないように閉じ込めるというか、永遠に残るように保存するわけですよね。それはできないなって思ったんですね。では、どのように残そうとかと考えたときに「抜け殻」があると考えたんですね。それで僕自身、抜け殻の標本を作ったんですよね。これだと僕自身もあんまり心が痛まないというか、かつ、当たり前だけど昆虫自身も傷まないというという経験が、僕にはあったんですね。
かつ、抜け殻ってやっぱり美しいんですね。昆虫それ自体は普通に脱ぎ捨てて生きてるわけですけど、昆虫がまとっていた表面、イメージがぼろっと抜け殻として残ってるわけですよね。抜け殻は放っておくと食べられて、昆虫の栄養となるのだけれど、こういうふうに残しておくと、僕にも見えるわけです。抜け殻は人間の環世界とは本当に違う「残し方」をしてくれてる。生と死とに結びつけて言うと、僕らが死んだときとか、僕らは死んだり生きてるときっていうのは僕自身のままでしかない。洋服もあるけど。その洋服と言うのはまた何か別だと思うんですよね、本当にミノムシみたいな感じ。でも、昆虫は僕らにその身体そのものを抜け殻という別の形として残すわけですよね。それはすごく美しいなと思う瞬間ではありますね。いやこれは言葉にできないけれど、そういう経験はありましたね。
[水野]
私は《Skin of Surface (Husk)》をみたときに標本ということは思い浮かべませんでした。そして、山形さんが標本は美学に反すると言っているのが、山形作品を考えるヒントになりそうな気がします。標本のようにそのままではないかたちで残されるのが抜け殻ということですね。《Water》のときに話していた傷や3DCGの制作で、実物ではなくて写真や広告の経験を観察するという部分と通じるところがあるのではないかと思いますね。
[山形]
そうですね考えられますね。
[水野]
一度2Dにしたモノを観察するということは、表面というか2Dになっているものを常に観察し続けるということですね。抜け殻は3Dですけど、中身が入っていないっていう部分ではテクスチャに近いのではないかと思います。
[山形]
かなり近いですね。
[水野]
2Dの方に強く惹かれるというか、この部分に山形さんの指向性が強く出ているのではないかと思いますね。
[山形]
僕も本当に久々にこの作品について考えたし、このときは本当に僕もピチピチというか、本当に現代美術をやろうと思ってなかった時期だったので、僕自身がわかってないなかで作った本当にわかってない初期作品ですね。まっさらな僕ですね。でもやっぱり、この経験はかなり何かヒントがある気もしますね。展示のときに、本物の生体を展示しようとはならなかったんですよね。ここなんでしょうね。
[水野]
本物を美しいと思っているけれども、抜け殻を展示したということですね。
[山形]
本物を展示するっていうことは、やってはいけないことのナンバーワンだなって思った。美術のことで考えると、常に美術は何かのリプレゼンテーションだったわけです。何かを代替しているわけですよね。絵画っていうものも、かつての彼・彼女とかという存在を代替し、画面に封印したわけですよね。そういうふうに、常にそれそのものっていうイデアを表出できないわけです。けれど、イデアを代替している存在に対して、美しさ、本物らしさを感じたりするわけですよね。そういうふうにひとつ何かが介在してしまっているとか、もう既に欠けてしまっている状態で、イデアが立ち上がるのを見ているっていうことがやはり大事な気がしますよね。
[水野]
今言われたことは、この後に制作される3DCGの作品に通じる部分が多くあるなと思いますね。山形さんの話を聞いていると、本物を超えるようになるまで「らしさ」をチューニングしていくことで、作品化していくっていうところがあるのかなと考えました。《Skin of Surface (Husk)》では、本当に「らしさ」がそのまま展示されている。山形さんは何もしていないわけですよね。
[山形]
ゴキブリを飼育していて、抜け殻があったら、それをもらってきて、確か8個か7個だったと思うのですが、それらを並べて置いただけですね。
[水野]
抜け殻が本当にらしさの塊という感じがしますね。昆虫そのものではなくて、そして、人為的なことがされていない「らしさ」の塊という感じが、抜け殻だということも言うこともできるかな。そうすると、テクスチャという部分も含めて、今の山形さんの作品に繋がってくる作品だなあと思います。
[山形]
そうですね。僕自身も本当にそう思いますね。
[水野]
この作品を再制作するとなると、また抜け殻を集めるんですよね？
[山形]
そうなりますね、多分。《Skin of Surface (Husk)》で使ったゴキブリの日本名はわからないのですが、Gromphadorhina portentosa という種ですね。この種はもう飼育してないので無理ですけど、再制作するとしたら、今飼育している種の抜け殻を使いますね。
[水野]
作品の再制作はとても話題ですよね。
[山形]
面白い話ですよ。
[水野]
この作品をどのように再制作するのかというのは、バイオアートとも違うし、とても面白いと思いますね。再制作の話を少しすると、テクノロジーを用いた作品だと、作品制作時のテクノロジーを使ってそのまま再制作するのか、それとも、再制作時に使えるテクノロジーを使うのかということが問題ですね。作品のテクノロジーのレベルをどこに合わせるのかということも含めて、色々な選択肢があるからこそ作品の再制作が問題になってきていますね。

作品の背景のなさ

山形一生《Airport》2020

[水野]
山形さんの3DCG作品の多くは背景がないということがとても気になりました。3DCG作品には環境照明のなさ＝背景がなくて、真っ黒にしていて、デジタルオブジェクトしか存在しない世界が構成されていますよね。このデジタルオブジェクトしか存在しないという画面構成をすることに先行する思考があったら教えてください？
[山形]
背景は、僕はそこまで核心的に考えたことはなかったんですけど、第一の理由として考えられるのが、その空間にある対象を一番美しく見えやすくする方法だなっていうふうに思ってるんですよね。まず、単色のマットの背景が物自体が一番見える良い選択だと考えています。3Dの背景って、これまた技術的な話ですけど、無限なわけですよ。無限という意味は、その背景にはまた背景があるという感じですね。《Airport》という作品も背景にできますよね。もし《Airport》の手前に人物が配置されていたら、《Airport》はその人物の背景になると言えるわけですよね。このような感じで、3DCGだと背景の背景となることに、僕自身が結構ついていけないっていうのもあります。僕自身今やってることとしては、3D空間に置かれたいろんなオブジェクトの組み合わせとか、配置とかコンポジションで平面のなかで物語ったり、構造を作っていこうっていう部分に注視していると思います。だから、あまり背景にまで情報を与えないということになっていると思います。多分、作品によっては背景があるのもきっとあると思うんですけど、少ないのは事実ですね。
[水野]
地面もないですよね。
[山形]
地面はあるにはあるけど、ほぼ背景と同じマテリアルを共有していていますね。何か床に反射しているっていうか、それぐらいですよね。
[水野]
反射がなかったら本当に床がないように見えますよね。反射をさせてるのは「そこに地面があるよ」ということを示すために反射させているのですか？　反射は結構激しくしてますよね。
[山形]
僕もこうして見て、はじめてわかりましたけど、物質とか対象以外をなるべく引き込ませるようにしたいと思ってるんでしょうね。だから、床は「何の質感だよ」というような感じで、何かを反射させるためだけに設置されているという状況をつくるようなマテリアルになってますよね。僕は床が床としてあると「床がうるさい」と困ってしまうんでしょうね。
[水野]
山形さんの作品を見ていると、このような床と背景が普通だなと思ってしまうのですが、とても変ですよ。
[山形]
変だし、あり得ないと思います。ひとつ小賢しく言うとすると、このような背景と対象の経験っていうのは、僕はもう馴染み深いと思ってるんですよね。特にいわゆる商品画像とかはこのようになっていますよね。アマゾンなり楽天なり何でもいいですけど、商品画像は切り抜かれた商品の画像とどこかリフレクションが入ったものになっている。こういった商品画像を見るという経験が、もしかしたら作品制作に関与してる可能性はありますね。
[水野]
確かに、地面のリフレクションは結構Webで見たものですね。一時期なんでも反射させてましたよね。このように見てくると、山形さんの作品制作は一貫してますよね。3DCGを制作するときに現実を観察するのではなく、3次元の現実を2次元化した表象を観察して、その特徴を抽出する。そして、その特徴を3DCGの世界に取り入れるという感じですね。
[山形]
僕もそうなんだって、今思っていますね。そうかもしれないですね。
[水野]
作品制作の基底として3DCGなどの技術的につくられるイメージの層というのが、一番の参照点になっているという感じですね。ダイレクトに自然とか物理世界を参照するのではなく、まずは技術的な表象を参照するというのは興味深いですね。
[山形]
そうですね。横道にそれてしまうと、まず現実でどこかに向かう前にそもそも僕らってグーグルマップなどでイメージをまず経験してから、現実の場所に向かうわけですよね。イメージがまず先行とした認識対象としてあって、その後に現実に向かうようになっている。もうそこでそもそも錯綜しているわけですよね。現実からイメージに向かうのではなく、イメージから現実に向かっているんですよね。そこもかなり関係している可能性がありますね。いや、僕も背景とか床について、あんまり考えなかったですね。
[水野]
私は背景や床はとても意識的に選択しているのかと思っていました。
[山形]
いや、これはまさに僕自身が無意識のものとしてやってましたね。だから本当に無意識下で、こういったものが自然だと思ってるんでしょうね。物質とか対象というのを描くときに、このような背景とか床の方が良いだろうっていうのをまさに無意識でやっているのだと思います。
[水野]
物質が対象が浮いてるというわけでもなく、反射があるからそこに地面があるというのはわかる。けど、それはどこにもない場所みたいになっている。
[山形]
コンテクストが完全にないという感じですね。
[水野]
コンテクストがないと言うことでいうと、山形さんの作品は宙吊り状態にあるものが多いですよね。《Airport》のように旅の途中で、どこの場所でもないということを描く。旅そのものを描くわけではなく、旅での「移動」そのものを描くという感じが多いなと思います。
[山形]
そうかもしれない。

山形一生《AFasten your seat belt》2020

[水野]
旅のことは、どこかの展示の説明に書いてあった気がします。私も山形作品を見ているときにメモで「A地点とB地点とのあいだの空間を切り取っているみたい」とか、「どこにも辿り着かない空間を描いている」ということを書いていますね。山形さんの作品で「新しく行けるところはもう何もないって気づいて」というセリフで、ゲームが終わったことについてのものがあったりして、どこにも辿り着かないという時間を過ごすような体験を描いているなあと、最近の映像作品を見ていると感じますね。バスケのリング上でボールが回っていて、ボールがなかなか落ちてこない映像も、見ていてどこにも辿り着かないということを感じましたね。いつ落ちてくるかと思っていても、なかなか落ちてこない。けど、いつかは落ちてくるだろうと思って見ている。けど、落ちてこない。でも、最終的には落ちてくる。その落ちてこない状態が異様に長いのが、特徴的で惹きつけられる。
[山形]
そこは本当にコアかもしれませんね。

3DCGの実在感

[水野]
次は、他のアーティストのCGについての言葉を、山形さんはどのように考えるかということを聞いてみたいと思います。アーティストの原田裕規さんが「アンリアルな風景──CG作品『Waiting for』から考える」でCGについて次のように書いています。

[引用1]
まず前提として、人はCGを見ること（＝視覚）以外で知覚することはできない。ごく当然の事実だが、CGは聴くこと（＝聴覚）も触れること（＝触覚）も嗅ぐこと（＝嗅覚）も味わうこと（＝味覚）もできない。加えて、CGが視覚に特化したメディアであるということは、CGが非物質的なメディアであることも意味する。たとえば、油彩画は視覚芸術でありながら、キャンバスや絵の具という物質を伴うため、実際には表面の質感も匂いも味もある。とくに触覚的な情報は見るだけでもある程度わかるため、表面の質感をつくり込むことも油彩画にとっては重要な要素になっている。それに対してCGは物質を伴わないため、触ることができないビジュアライゼーション（可視化）に特化したメディアであると言えるのだ。p. 181
[引用2]
そのできすぎたビジュアルを前にすると、人々は感嘆（＝思考停止）するのではなく、現実の差異から、CGというメディアの特性（メディウム・スペシフィティ）を実感し、まるでCGに「触れている」かのように感じる。すなわち、レンダリング・ポルノの自嘲的な振る舞いは、非物質的なメディアであるCGに対して、ある種の実在感を与えているのだ。p. 185

原田裕規「アンリアルな風景──CG作品『Waiting for』から考える」，「広告」Vol. 416, 2022年

[水野]
見られることに特化したCGという表現の実在感を原田さんはこのように書いているのですが、山形さんは3DCGは「見られることに特化したCG」ということに対してどのように考えるのかということが聞きたいです。
[山形]
[引用1]は「3DCGは視覚だけで、それ以外の五感とかっていうものが剥奪されている眼だけのメディアだよね」ってことを言ってるんですよね。[引用2]は、でもまるで触れてるみたいだっていうことを言ってますよね、と言っていますよね。この二つは相反する考えだから、ここがどうなんだろうなとまず思いました。この二つはお互いをコンフリクトさせる意見ですよね。そして、まず僕自身が[引用1]を読んだときは「そうではないよね」と思ったんですよね。ゲームなどをしていると、コントローラーなどを通して、僕らはそのCGの物体に対して働きかけたり動かしたりとかします。だから、単一的な視覚だけという話ではないという感じです。ゲームをやってる人は本当にそう思っていて、だからこそゲームにのめり込んだり、自分自身がその物体になりきって何かを殴ったり破壊したり、触ったりして、3DCGが実体を伴ってしまっている場合が多くあると思う。だから最初の文章に関しては、そんな単純じゃないんだよっていうふうに僕は思いましたね。映画とかの「映像」という観点だとその通りだと思うけど、3DCGというのはゲームとかインタラクティブな背景としても使われてるから、そっちの方面から見てみると、実は視覚的な部分だけでは捉えられないというのはありますね。
だけど、レンダリングポルノについて書かれている[引用2]は「ある種の実在感を与えている」というのは、まさにそうだと思う。「まるでCGに触れているかのように感じる」という部分は「わかる」という一方で、捉えきれてない感じはする。つまり、僕らはやっぱり何かを経由してないと、そのCGに関与できないわけですよね。VRにせよ、コントローラーにせよ、何かしらの全く異なる媒体を通して関与するわけですよね。だから、実際触れているっていう概念で考えると、触っているのはキーボードだったりコントローラーですよ。このプラスチックに触っている。だけど、動かしてると、コントローラーっていうのがだんだん透明になっていって、メディアが透明になっていって、触れているように感じるわけですよね。そこでは結構、かなり難しいことが実は起きていて、自分を騙している。自分自身で自分自身を「これはコントローラーじゃなくて、丸々っていうキャラクターを操っているんだ、触っているんだ」という感じでシニシズム的にのっているわけですよね。自分自身で自分自身を「これはこうだよ」という感じでのらせてあげる。だから、単純に触れているという話ではなくて、僕ら自身の中で複雑にリフレクションして、何か奇妙なことが起きてるということを思った。だから、原田さんは映像メディア的な観点で語ってるんでしょうね。僕はゲームとかからCGを捉えて、CGを多面的な部分から見たけど、映像だけだと引用のテキストのように思うかもしれない。椅子に座って見るだけだから。
[水野]
確かに、そうですね。私もインターフェイス研究をしてるから、山形さんが言ったキーボードのところはよくわかりますね。自分を騙してるわけではないけど、キーボードやマウスをないものとして、ディスプレイ上のイメージを扱っているという感じで、自分自身の意識・感覚を操作してますね。特にゲームはこの感覚が強いと思います。私はそれほどゲームやらないのでわからないですが、コンピュータでの作業においても、キーボードに触れている部分を意識しないようにしたり、マウスやトラックパッドでカーソルを動かすというのは、人間がこれまでしてこなかったような複雑なことを平気でやっているという感じはしますね。
[山形]
インターフェイスデザインにおいて、僕はデスクトップとゴミ箱という概念は何かを確立させたなと思っています。全然デスクトップでもゴミ箱でもないんだけど、それらがコンピュータにおける情報の操作を代理しているイメージになっている。だから、僕らはパソコンのこと画面をデスクトップと捉えるし、デスクトップを整理するためのゴミ箱として見立てるわけですよね。だから、ゲームも含めたこの大いなる劇場は、この見立ての時点から始まってたんだなみたいなという感じですね。
[水野]
スマートフォンになってマウスやキーボードがなくなって、ディスプレイのガラスを通して、ダイレクトにイメージを操作するようになっていますよね。デスクトップメタファーが消失して、これまでとは違う形でデジタルオブジェクトに触れ始めているのかなという感じですね。マウスも介さないでデジタルオブジェクトに触れることで、私たちのインターフェイス体験がアップデートがアップデートされて、その感覚も変わってきているのかなと思います。デスクトップメタファーも大きな発明で、コンピュータというものを身近にしたんだけど、それに慣れてきた人たちに異なるコンピュータのあり方もあるんだよと提示したスマートフォンも大きな発明だと思います。しかも、スマートフォンはそのあたらしい体験を全人類的な規模で提供しているというのが、とても面白いです。そして、スマートフォン体験も15年くらいの短い間で、インターフェイスデザインの流行が、デスクトップメタファーから物質世界をそのまま模したスキューモーフィズムに変化して、さらにメタファーを使わないフラットデザインに変わってきた。今ではハプティックデザインなので触覚を使ったデザインも行なっています。この変化によって、私たちとデジタルオブジェクトとの関係に大きな影響を与えているんだろうなと考えています。
[山形]
僕が3歳くらいのときはWindows95なのですが、そのときはまさに演技の一番最初みたいなですよね。だから、僕らがそういった劇場と戯れるための練習も兼ねていたわけですよね。デスクトップメタファーのゴミ箱やデスクトップ、マウスの操作を覚えていく段階です。フロッピーディスクのアイコンがセーブできるみたいなことを学んでいった。けれど、それらはどんどん形骸化されていって、今ではフロッピーディスクなんてもう誰も使ってないから、誰も知らないんだけど「保存」のアイコンとして残っている。同様に、iPhoneとかでもフォルダがあるけれど、アイコンで使われているフラットフォルダみたいなやつは、今は誰が使ってるんだっていう感じですよね。でも、フォルダのアイコン自体は、僕らの経験上、そういうふうにも決まっているという感じになっている。歴史的にどんどん積み上がってきたものが、奇妙に伝達されて、今でも受け継がれてるというのが不気味だなと感じています。でも、そこで水野さんがおっしゃったような触覚デザインとかがあって、強く押したら反応して、変な物質性とかも感触が伴うようになっている。だから、インターフェイスの体験というのは、単純ではなくなっているのだろうなと思います。
[水野]
インターフェイスを使って、人間の感覚を騙しに来てるというのが面白いなと感じます。アップルの開発者会議でデザイナーやエンジニアが、人間の感覚の特性の研究結果を活かしているのか、まずはデザインで試してみた結果なのかはわからないけれど、「通知」を見させるために、通知音の前にハプティックで振動を一回ユーザに与えると、人間の注意が高まるので、その後に通知音とともに通知を出すと通知を見る確率はとても高くなるよと言っています。私たちは通知から逃れられないなと思いました。テクノロジーで感覚を操作していくのが興味深くて、近頃は開発者会議から研究のアイデアをもらっていますね。
[山形]
めちゃくちゃ面白いな。そのあたりはかなり考えられたことを行ってると、同時に感覚で一気にやってる部分はやっぱあるんでしょうね。
[水野]
Appleも自分たちがデザインしたとかではなくて、サードパーティの開発者がやったら、このパターンはとても成功したんだよねと言っていますね。視覚、聴覚、触覚の組み合わせ方法は膨大だから、そのレパートリーを色々と世界中で試して、その結果、あるパターンは通知がよく見られるということになるわけです。そして、通知を見させるために成功したパターンとタイミングはデータとして残っているから、成功したパターンは他のアプリでも使われて、そのパターンで世界の何億という人が通知を見ているのかもしれない。しかも今回紹介されていたパターンにおける最初の振動は、アップルウォッチを使って人が知覚できるかどうかぎりぎりの微かな振動を与えるということなんですね。私たちの感覚を騙してるという言い方は変ですけど、通知を見せた方がアプリの人としては有益だから、アプリが生き残っていくために、ヒトの感覚をうまく使うテクニックが開発されているのだと思います。このようなある種の実験が全世界的に全人類で行われていると思うとワクワクするなと思います。
話が全然ずれてしまいましたけど、山形さんにとっては、3DCGと言ったときに、その根っこにあるのはゲームというか、ゲームの体験がとても大きいことはわかりました。ゲームをやると、確かに見てるだけのメディアではないということがわかりますね。
[山形]
ゲームはデスクトップメタファーみたいなものがひどくなってるとも思うし、RPGとかだと自分自身がそのキャラクターになるという作業も入ってくるから、実はやばいことが起きてたりしますね。

山形作品における落下

[水野]
「山形作品は死なないけど落下する」と私は考えたのですが、山形作品における「落下」というモチーフはどんな意味を持っているのでしょうか？　「落下」ではなくても、MasamuneやMessegeにおけるスクロールも落下の一種ではないか？「落ちる」ということは意識して使われたりするんですか？
[山形]
僕自身が意識しているというよりは、これはすごく僕も面白いなって思うんですけど、3DCGの制作ソフトウェアがそうさせてくれるんですよね。つまり、CGというものはRigid Bodyという機能を持っていて、リギングシミュレーターなどの物理演算が得意なんですよね。歴史的にも3DCGは物理計算で扱われていたんですよね。だから、今のソフトウェアでも「あなたが作ったオブジェクトを階段から落として、バウンドさせるシミュレーションができるよ」というのが売りになっているんですね。3DCGソフトウェアを使うこと自体が、まず何かの対象を落とさせたりとか、吹っ飛ばしたりということを、常に伴ってくるんですよね。だから、「僕自身がしたい」というよりは3DCGソフトウェアがそうさせてくれると、僕は強く感じてますね。谷口さんの作品でも「ラグドール」を使って、アバターがエスカレーターをゴロゴロと転がっていくものがありますが、あれ自体もやはり3DCGのソフトウェアとか3Dというものが、私たちにそうさせてくる、そうさせるように設計されているから制作されているという事実がありますよね。僕もそこに着目して、《Airbag》はまず愚直にそういった3DCGの特有の技術として何かを落とす転がすっていう物理演算を顕著に使おうっていうところから始めましたね。実際に車の衝突の試験で使われるダミー人形をモデリングして、何か一つ映像作品をつくってみようとなりました

山形一生《Airbag》2020

[水野]
物理演算でこういう人形というか、オブジェクトを落下させるときは、物理演算で落下させるという意識だけなんですか。人間はある程度の高さから落ちたら死んだり、怪我したりするわけですけど、そのような言ったことは頭の中にはほぼない感じですか。それとも、物理法則のなかで物理オブジェクト＝人間がどうなっていくのかっていう意識が強いのですか？
[山形]
後者の方が強いですね。この物理演算を扱う技術に関しては、誰もが本当に遊び感覚とか無意識で、うん、かなり軽薄な感じでやってる気はします。「面白い！」という感じですね。3DCG特有の技術として流通しているがゆえに、もう誰もが扱えるし、誰もが1回はやる感じですね。奇妙な技術になってるんですよね。元々は理科実験とか弾道計算とかのレベルでやってたと思うんですけど、今ではそういう何かの物体を落としたり転がしたりすると面白いよねっていう感じになってるとは思いますね。僕もだからそういう一環で本当に特に僕自身からの発露ではなく、3DCGの技術から発露したものとしてやってみようってなりましたしね。
[水野]
私としては、落下の表象が「死」と結びついていた方があるといいなと思っていたのですが、そことは全く関係がないんですね。テクノロジーから出てくる表現であり、テクノロジーにやらせたいという欲求から出てくる表現というのは面白いです。
[山形]
テクノロジーの方が僕らにそういった表現を推奨してきてるわけですよね
[水野]
ラグドールのようなテクノロジーがあって、それが「落下」という破滅的な表象と結びついていて、人間が遊び感覚で使ってしまう。しかも、その状況がリアルに表象されるようになっていて、それを見るのが、楽しいっていうのも奇妙な状況だなと思いますね。私は人間が物理法則に基づいて失敗する動画を見るのが好きなんです。トランポリンなどをしていて、失敗するような動画です。動画を見ていて「きっとこうなるな」と思うと、その通りに失敗して、人間の体が本当に物理的に動いている。それはとてもとても痛い出来事なんだけれども、見ていると笑ってしまう。下手したら死ぬようなことが起こっていていて笑いごとではないけど、そのときに、人間が本当に物になってるなと感じるとなぜか笑ってしまう。人間がというか身体がオブジェクトとして物理法則のもとで振舞ってるという感じが、私はとても興味があるんだと思います。それと同じようなことが、3DCGでも起こっているのかなと思いながら、山形さんの話を聞いていました。
[山形]
僕もスケボーのトリックのミス動画とか好んで観た時期があって、階段の手すりの部分にホイールを引っ掛けて、スライドするトリックがあると思うんですけど、トリックに失敗しちゃって股間から落ちてしまったやつとか。パルクールで、ひどく失敗しちゃったやつとか、見えてしまったりするわけですよね。この辺りについては、考えたことはなかったけど、奇妙に3DCGと繋がってる部分はあるんでしょうね。
[水野]
人間は普段、意志を持って物理法則のなかで行為をしているわけですけど、失敗動画における身体はただ物理法則に則って動いている感じがしますね。もちろん、意志を持って動いているときも物理法則に則っているわけですけど、失敗動画では本当に人間が物のように動いていて、文字通りに物として動いてるように感じます。このような動画は、一部の人間を惹きつけるんだろうなと考えていました。
[山形]
本当に物みたいに四肢がぶらぶらっとなって、ふっ飛んできますもんね。
[水野]
それが3DCGだと人間に害がないというか、動きをシミュレートしたオブジェクトがその通り動いてくれる。もしかしたら、この辺りが3DCGの魅力的な部分になっているのかな。テクノロジーがこういうことできるよときて、「じゃあやってみよう」という感じにさせる魅力を持っている。
[山形]
そうだと思いますよ。テクノロジーに表現をさせられてますね。
[水野]
「させられている」というのがとても重要なのかなと思います。このような表現をやっている人は、自分でオブジェクトを上の方に置いて落とす設定をついやってしまって、あとの動きはコンピュータがシミュレートしてやってくれる。しかも、おそらくほぼ9割ぐらいの人が、実際は痛みを感じたり、死を覚えたりするような落下のシミュレーションをやっているのかなと思います。
[山形]
いや、絶対やってる。9割やってます本当に。間違いないですね。
[水野]
Twitterに流れてくる動画のように精巧なオブジェクトをつくっても、それをシミュレーションで壊すために使ってしまう。そういう衝動が3DCGにはあって、面白いなと思っています。
[山形]
間違いないですね。

行為のランダムさ

[水野]
山形作品はとてもCGならではの滑らかな動きが出てきます。動きを予測するというのは、現在の意識研究だと生きるための必須の活動になっています。脳の中に最初に予測のモデルを立ち上げると、予測と外界の状況のズレに応じて、その誤差を最小にするように私は手を伸ばしていくので、手の動きは結構バラついているという感じになっている。でも、CGは人間がやっている予測誤差ではなくて、その世界そのものがシミュレーションだから、オブジェクトに対して一直線の滑らかな動きができると思います。そこで質問したいのは、山形作品におけるオブジェクトの動きの滑らかさとその動きに関する予測、オブジェクトに対する山形さんによる制御について考えたことはありますか、ということです。
[山形]
それは制作をしていると、まさに直面する問題です。3DCGは単純に言うと、XYZの座標に点を打っていって、その点から次の点に移動せよということを色々なパーツに与えて、アニメーションができるんですね。指を動かそうと思ったら、指1本1本にある関節のXYZ座標をここからそこに移動せよという集合でアニメーションができているわけです。「✊→✋」というアニメーションをしようと思ったら、関節の座標に対して、この座標から次の座標へと指定を行っていきます。だけど、面白いことに単純にAからBへという点から点の座標移動だと動きが変なんですよ。スーッという感じで、かなりリニアで迷いのないアニメーションになるんです。車がまっすぐ進むみたいなそういうレベルのものです。でも人間の手の動きは、リニアではなくて、かなり微細なぶれとか揺れを持って動くんですね。そこでもCGにおける「汚し」というか、ぶれというものが発生しています。だからしばしば、僕は乱数のプログラミングを使っています。単純にアニメーションの設定では座標Aから座標Bに行くというリニアの設定なんだけど、そのあいだの座標を乱数で微妙に座標をずらして、ブルブルブルブルとさせて、AからBに行くようにしている。技術的な話ですけど、本来だったらめちゃくちゃ滑らかにAからBへ行くというスムースでリニアなアニメーションになるけど、そこに対して乱数をつけてアニメーションを作ってるっていうのがまずありますね。同時に、僕らの眼はアニメーションという表現に対して、とても繊細なセンサーですね。ミリセカンドの単位の微妙な動きで表現の嘘を見抜いてしまう。だから、僕はしばしばCGの映像とかで「本物っぽく見せたい」とか「これ嘘だな」というのを見せたくない場合は、乱数をつけてごまかしたりとか、場合によってはカメラの構図でかなり切り取ったりしますね。ある部分だけしか見えないようにして、「らしく」見せるとかをしています。だから人間は表情に関してはとても敏感だけど、逆に言えば表情以外の動きに関しては、ある程度雑でも結構僕らは普通に見えてしまう。だから、表情だとミリセカンド単位で「これ嘘、これは人間じゃない」とわかるけど、それ以外の部分ではそれほどでもない。そういう認知的な部分を利用して制作していますね。

[水野]
私は質問で「滑らか」と言っていたのですが、山形作品において、実際は座標というのが乱数によって結構ぶれがあるっていうことなんですね。コンピュータの2点を結ぶときもスムーズというか、計算を少なくするには、乱数でズラすよりも直線の方がいいですよね。
[山形]
間違いないです。
[水野]
でも、動きをスムーズにすると、人間はその動きが嘘だとわかる。ということは、人間というのは、行動を予測するときに頭の中でも乱数を使うというか、ズレを抱えているのかな？　人間の脳がリアルタイムに何かを計算するのに乱数をいちいち使う必要があるのかっていう気もしますね。
[山形]
単純にCGの方が現実よりも滑らかすぎるんですよね。摩擦係数とかもない。それこそ僕らの現実では骨と骨とのあいだに摩擦がある感じで動くわけだけど、CGにはそんなことはないから、とてもスムーズにスーッと手が動いていくわけです。現実はどっか若干ギクっとなったりするわけですよ。だからそういう微妙なところが、乱数でごまかせるっていう事実がまずあるんでしょうね。
[水野]
そのごまかしたものを、私は嘘だとは感じずに滑らかに感じているわけです。だから、山形作品で使用されているランダムは嘘ではないレベルで滑らかに手を動かすために使われている。
[山形]
そうですね。まさに、それこそモーションブラーやカメラのぶれによって、オブジェクトがブレることによって、それらがリアルに見えてしまっているということですよね。だからそこは映像の鑑賞体験とリフレクションしていて、本当に複雑なレイヤー構造になってしまってますよね。CGの座標をつなぐアニメーション＋乱数＋カメラのブラーとかエフェクトがある。カメラというのは現実世界みたいに何万フレームではなくて、30FPSでしかない。30の情報のなかで滑らかに見えている。たった30枚のア​​ニメーションで見せてるだけで、そこから生まれる情報だから。滑らかに見えているという事実もありますよね。
僕はフレームレートを意図的に減らしてます。昔の映画のフレームレートは24なんですね。Max/MSPとかは、フレームレートが120とか60とかになってくるのですが、僕は意図的に24にしています。これは独自の研究ですが、人間が映像体験として一番没入できる、自然に見えるのが24だったんですよ。60だとヌルヌルすぎて、その物体のいわゆる「らしさ」とかぎこちなさというのがめちゃくちゃ露呈するんですよ。60だと情報が多すぎる。120になってくると、もう本当に現実に近くなっていて滑らかすぎてしまう。奇妙だけど、フレームレートが24になってくると、だいぶ「普通に」見えてくるんすよね。つまり、欠落した情報の方が自然に見えてるっていうことが起きています。だから、僕の映像作品は24FPSにしてます。
[水野]
山形さんは格闘技のゲームはしますか。
[山形]
よくしますね。
[水野]
あれのフレームレートは120ですか？
[山形]
あれは60です！
[水野]
格闘ゲームのフレームレートを24にされると困る？
[山形]
無理です。実際に「ジョジョの奇妙な冒険」というゲームが5年ほど前に発売されたんですね。皆さんすごい期待して発売当日でめちゃくちゃ売り上げ伸ばしたんですけど、すぐにこれは「クソゲーだ」となっていきました。その理由として、フレームレートが30であったっていうのがあって、格闘ゲームはもう結構ずっと昔から60なんですよ。それこそスーパーファミコンの時代から60フレームなんです。格闘ゲームにおいて60フレームがつくるある種の滑らかさや情報の量というのは、僕らのゲーム経験とかインタラクションの情報量にかなり密接に関わっていますね。「ジョジョの奇妙な冒険」は30フレームになったことによって、ほとんどの人々がプレーにおいて「見えない」と言ってるんですよ。格闘ゲームにおいて、パンチするときには初動があるわけですよ。左手を引いてからパンチをすると言ったような。フレームレートが30だと。その初動があるにもかかわらず、枚数が半分だから、見えない。初動が早すぎる。まさにタイムリーなことに、格闘ゲームにおいて30フレームは見えないということがあります。だから、格闘ゲームのフレームレートは60ですね。だけど、映像とか映画表現は古くから24フレームだったっていう。
[水野]
格闘ゲームでは、初動などの細部を見るから、30フレームだと見えないっていうか、動きを描くに枚数が足りないという状況が起こる。けど、映画のように引きで見てるときには、24フレームとかの方が没入感が生まれる。僕たちに欠落を補わせるような形で、没入感が生まれている。
[山形]
そうですね。格闘ゲームはインタラクションが含まれてるという現実の僕らの操作に関わってくることが重要ですね。映画に関しては、僕らはただ見てるだけでよくて、インタラクションも特にない。でも、格闘ゲームは僕らの操作も含んでいるから、多分そこでフレームレートが24だと困っちゃうでしょうね、「見えない」「遅い」ということになる。
[水野]
そこまで人間は映像の動きを認識できるようになってるんですね。映画は映像として動くことが確認されたから24フレームで、テレビも30ぐらいのフレームレートだった。けれど、ゲームという映像とインタラクションする状態になってくると、まさに私たちが行為を行うということもあって、現実世界と近い状態のフレームレートではないと、私たちがゲームに対応できないということが起こっている。
[山形]
まさにそうですね。実際最近の研究で、いわゆるプロゲーマーとされてる人々と一般の人々とで反応速度が違うのかっていうのがあったんですね。画面にアクションっていう文字が出たら早くボタンを押すっていう単純な研究があったんですね。研究の結果、差はないと出たんですね。一般人とプロゲーマーとで反射における時間というのはほぼ差はない。年齢においての差は若干あるけれど、ほぼ差はないってのはわかってて、ほぼ見てから反応する限界速度は13フレームって言われます。毎秒60フレームにおいて13フレームはかかると言われますよ。いくら早くても見てからの反応で13フレームかかってしまう。だから、「ジョジョの奇妙な冒険」みたいにフレームレートが30だった場合は、見た瞬間からもう、1秒間の半分、0.5はもう遅れてんですよ。フレームレートが60だと、見てからの反応が、1秒の4分の1くらいでできる。

追記：2022/12/27
Twitterで映像作家の橋本麦さんからのコメントを受けて，山形さんがこの部分の補足説明をしてくれました．水野もコメントを受けてフレームレートについて考えたことを書いています．以下のTwitterのリンクからスレッドが読めます．

https://twitter.com/_baku89/status/1607536398760046595?s=61&t=_JWFCR_MTaAYiYVlriUi3w

[水野]
反応速度は違わないないけど、プロゲーマーがいるということはどうなるんだろう。映像を見て反応して、指を動を動かすまでが速いということになるのだろうか？
[山形]
その辺は難しいですけど、少なくともプロゲーマーに共通することはプレイを反復して行っているということですね。当たり前だけど、同じことを苦もなく何回もしていて、、そのゲームの世界における秩序や、どのようにしたら有利になり、あるいはリスクになるのかということがわかっている。結構「eスポーツ」と言われるのは間違いじゃなくて、スポーツに近いですね。反復練習が大切になっている。
[水野]
だとしたら、反復練習によって、画面上のあるパターン認識にして、次に攻撃が来るなどの検知能力が高いということになるんですかね。それは本当にスポーツに近いですね。この話で野球選手の落合博満さんのことを思い出しました。落合さんが本のなかでバッティングについて書いています。そこでは、ピッチャーが投げて、キャッチャーミットにボールが収まるまでの時間はとても速くて、ボールを見ていたら反応が追いつかない。では何を見ているのかと言ったら、ピッチャーも含めた景色のパターンを見て、そのパターンに反応するということを言っていました。これを言っているのは落合さんだけかもしれないけど、すごいなと思いました。ゲームにおいても、プロゲーマーは初動とかに反応してるのだろうけど、もっと細かいパターンの変動というのに反応しているのかもしれない。ゲームをやり込むことで、画面パターンの膨大なレパートリーを認識できるようにして、そのパターンを認識したら、瞬時に自分の手の動きのレパートリーから画面のパターンに相応するパターンを発動するという訓練がされていると考えました。
[山形]
ほぼ100%合っていると思いますね。本当にそうだと思う。
[水野]
だから、まさにスポーツですね。このように考えると、eスポーツは認識のパターンと行為のパターンとをいかに結びつけていくかが重要で、その点でインターフェイスと通じる部分もあると思いました。

ゲーム機の電源を落とすことは「死」なのか？

[水野]
私はコンピュータをヒトと同等に世界を認識している認知者として捉えています。山形さんは「コンピュータ」という存在をどのように捉えていますか？　ゲームに関する論考で、ゲームのクリア後に反応を受け付けなくなったゲームにできる唯一のことは「ゲーム機本体の電源を落とすことである」と書かれているところに、私はとても「認知者」的な雰囲気を感じました。認知プロセスが終了した存在に対して、「死」を与えるという感じです。そこから、山形さんがコンピュータというのは少し広いかもしれないゲーム機という存在をどのように捉えていますか、という質問です。
[山形]
ゲーム機もコンピュータだから、コンピュータで全然問題はないと思います。さっきの言葉の背景を言うと、RPGゲームはクリアした後、「END」と出たら、もう何のボタンを押しても無効な訳ですよ。何のインタラクションもなくなってしまう。それは当たり前で、もうこれ以上ゲームのプログラミングはされていないし、ゲームが終わったのだから何もないよということです。プレイステーションとかの90年代中旬くらいまでのRPGゲームなどで結構あった表現というか実装だったんですよね。最近のゲームはそういうのがなくなってしまって、エンディングとなったら「2周目をプレイしますか？」となっている。けれど、かつてはかなりぶっきらぼうに「終わり」だったんですよね。それはかなり僕の原体験としてあって、しかもかなり壮絶な経験でしたよね。当時の僕からすると、今でもだけど、自分が自分自身と思うようにキャラクターに没入して操作していって、そのキャラクターが世界を救ったり、物語の最終地点まで行ったりして、めでたくエンディングを迎えた瞬間にもう何もできなくなる。エンディングを迎えて、ポツンと画面から急にバリっとはがされた自分は、ゲーム機のコントローラーをカチャカチャするだけなんですね。でも、カチャカチャしても何も反応がない。自分にできることは本当にそのままほっておくか、もしくはゲーム機を切るだけ。そこではじめて物理的な介入が行われるわけですよね。生と死とで考えるならば、かなり物理的な死ですよね。自分で首を絞める感じですね。何のメタファーも通さずに、電源落とすわけですから。多分こんなことを当時の開発者は何も考えてなかったと思うけど。
[水野]
今はゲームを買ったからにはどんどん楽しみたいってのがあるから2週目とかが出てきたんだろうけど。確かに昔は本当に「終わり」で終わりですよね。これは映画やテレビよりも強烈な「終わり」の体験ですよね。ゲームはクリアするまでに映画とかより時間もかかってるし、自分でキャラクターを操作してることもありますね。
[山形]
言語化するのはすごく難しいですけど、かなり経験としては大きいですね。でも、冷静に考えれば、突然そこで物理的介入が行われるというのは、とても効果的な表現方法ですよね。それに対して、近年のゲームはシームレスなんですね。コンピュータでゲームを起動したり、携帯でもやるし、そもそもコンピュータという存在が。常にバックグラウンドで何かが動いていて、マルチタスクが行われている。だから、コンピュータでゲームをするし、インターネットを見るし、映画を観るしとなっているけど、かつてのゲーム機はゲームしかできないんですよね。それもあって、電源を落とすということ自体がかなり強烈な体験でしたね。今では、コンピュータも携帯も、電源を落とさないで使うことが当たり前になっている。だから、物理的に電源を落とすという表現は、当時だからこそできたんでしょうね。そこでは、かなり複雑なことが起きてるという気はしていますね。
[水野]
確かに今のコンピュータは電源を落とさないで、スリープ状態にしますよね。Macbookだと何も気にせずにディスプレイを閉じるだけですね。だから、電源を落とすというイメージは全くないですね。
[山形]
最近僕が見た研究が面白かったです。コンピュータはシャットダウンした方が良いのか、それともスリーブの方がいいのかという研究があって、結果としては、スリープの方がいいということでした。その理屈としては、シャットダウンした場合、その後の電源投入が遅ければ遅いほど、コンデンサとか他のパーツにダメージがあるという話なんすよね。コンデンサなどは待機電力を残しているけど、もし電源投入がない状態が長いと劣化するんですよ。だったら、スリープの方が電気が常に通じてるわけだからいいよねということですね。だから毎日シャットダウンして、毎日電源つけるんだったら、シャットダウンしてもいいけど、そうではないのだったら、スリープの方がいいということになっていました。つまりそれは、電源を落とさない方がいいという話ですよね。生と死のメタファーで言うんだったら、死なない方がいいよっていう話になってますね。
[水野]
電源は、生と死を頻繁に繰り返すところですよね。スリープ状態でも、ずっと生かしておいた方がいいと言うことですよね。
[山形]
ゲームでもそうなっていて、ゲームも最近だとコンピュータや携帯で行われてるから、もうわざわざ電源を落とすっていう感じではない。アプリケーションを落とすことはあるけど、それは何かまた別な感じなんですよね。アプリケーションを落とすのは、スリープに近い感じがしている。電子機器の電源を落とすっていう行為自体が、近年においてはもう相当レアなんすよね。
[水野]
電源を落とすと言うことが「死」と結びついた倫理的な問題ではないでしょうが、私たちはコンピュータっていう存在に対しての「死」を宣告する状態はなくなりつつありますね。コンピュータをヒトと同等の認知者として扱うような考えが出てきたのと同じ時期に、デバイスの電源を切ると言う行為がなくなってきたと言うことになりますね。
[山形]
まさにそこに「スリープ」と言う表現が来たと言う感じですね。
[水野]
スリープ＝寝ると言うことで、コンピュータの擬人化が起こっている。「電源を落とす」と言うのは、マシンに対して行う感じですが、スリープは違う。
[山形]
シャットダウンは「シャットダウン」じゃないですか。ここは面白いですね。「シャットダウン」を「スリープ」としてもよかったですよね。
[水野]
「電源を落とす」と言うことを「スリープ」と言って、「今は寝ているよ」と言う感じで、電源オンで「起こす」と言う感じにすることもできたのにしなかった。電源オフで通電しなくなると言うことは、アプリを落としたり、本体を待機状態にするのとは異なる状態と認識していたのでしょうね。コンピュータ自体に、人間で言うと血液が通っていない「死」の状態に近いから、「スリープ」と言う言葉は与えられなかったと言うことが考えられますね。
[山形]
「再起動」という概念も人間には適用不可能ですからね。
[水野]
「スリープ」と「シャットダウン」だけでも調べていくとおもしろそうな感じがしますね。
[山形]
コンピュータはアンビバレンツに人間的要素が適用可能なところは適用させるし、そうではないところはそうしないというという感じで、本当に半分人間半分機械みたいなサイボーグ的なものとして使われてるんですね。
[水野]
初期の段階から、人間に近くないところは物理的な「電源を落とす」という言葉が与えられていった。コンピュータに「スリープ」と言われるような休止の機能がなかったのかもしれないけど...　あるいは、「電源を切る」という他の家電に合わせた表現にしたということも言えなくないですね。でも、その後で休止の機能を「スリープ」という言葉で導入したということが、ヒトとコンピュータとの関係を考える上では大きい感じがしますね。電源を落とさないで、常に待機状態にしておく。コンピュータを含めた「電子機器未使用時の節電状態」を「スリープ」と名付けた。このように考えていくと、山形さんがゲーム機のスイッチを切るときに「自分で首を絞める」という感じを受けるというのも、とても印象的ですね。電源を落としたらもう本当に真っ暗ですからね。シグナル0となるわけですから、かなり残酷なことをさせられてますよね。

ドット絵のかすかな動き

[水野]
ゲームに関する論考「キャラクターへの同一化と引き剥がし」において、山形さんは映像やイメージに対して「生命たり得る諸要素」が使われていると指摘していますよね。「生命たり得る諸要素」は、山形作品でも「微かな動き」として使われていると思います。私はドット絵形式の作品にその傾向が顕著だなと思いますが、山形さんはどのように考えていますか？
[山形]
これはさっきのフレームレートの話とかにも、ほんの少しかする話ですね。実際、ドット絵の世界はほんの1ドットの上下の動きで「呼吸のはあはあ」みたいな動きをつくって、そのキャラクターが生きていると認識可能な表現になるわけですよね。僕は1ドットの微かな動きが生命になり得る部分として、とても大事だとテキストを書いたときに考えたんですよね。近年のハイリアルな表現で、現実の諸要素の動きを模倣している方がどちらかというと嘘くさく感じてしまうっていうのは本当に不思議だなと思っています。むしろハイリアルな表現と対比的な、8ビットの解像度の低い表現で1ドットの上下の運動だけで、生命を感じさせる表現ができて、そこに生命を感じるということは、僕らの認知とか認識的な部分としてすごく面白いことが起こっていると思いますね。だから、僕はゲームをつくるときは、3DCGを使ったハイリアルな表現ではなくて、ドット絵の方向に行っていますね。ドットの方が生命とか痛みということに対して、僕らの認識とか、想像に寄っていて、よりいっそう表現として深度があると考えています。
[水野]
先ほど、ドット絵がフレームレートと関係があると言われているのは、24フレームの方が見ている方の想像力で補うことが必要になるということと同じということですよね。
[山形]
今の私たちが生きている現実世界の思想としては、イメージや映像の方がより情報量を担保して、それらを体験している側の想像性を補うような出力になっている。そうではなくて、どんどん映像を体験している側の負荷を増やしてあげて、映像のイメージがどちらかというと欠落している方が、映像を体験している側に与えるものは大きいと、僕は考えているんですね。
[水野]
3DCGでもドット絵でも共通しているなと、インタビューをしていて感じましたね。
[山形]
僕もこう話してきて、「そうなんだ」という気持ちですね。
[水野]
山形さんは作品を見る人を信頼しているんですね。
[山形]
僕は信頼してますよね。本当に信頼してますよ。永田くんは逆で信頼してない本当に（笑）それが僕と永田くんの面白いところだと思います。僕は作品を体験している人を信じたいから、意図的に作品のルールを提示しないですね。人によってはそれは「不親切」と言われたりもしますが、僕は「信頼」して説明なしでやっていますね。

山形一生《Blanketed Cubes》2022

[水野]
《Blanketed Cubes》に関しては、突き放してる感じもあるけど、ゲームをしていくとルールがわかってくるというのは確かにあります。最初は確かに戸惑うけど、いずれわかるかなと思ってやっていると、ルールがわかってくる。それがもしかしたら篩なのかもしれないですね。私はあなたを信頼してるから、ここまではあなたが乗り越えてきてね」という感じで、山形作品を体験するときの篩になっている。ここで篩い落とされるなら、別に体験しなくてもいいよという感じ。
[山形]
メッシュとしてはかなり大きいかもしれなくて、ほとんどの体験者が落ちてしまうかもしれないけど（笑）
[水野]
でも、篩を設けるというのは、山形作品に一貫していて、作品世界をつくっている感じがありますね。長い間、質問に答えてくれてありがとうございます。準備した質問は以上になります。

《Artificial Mother》と《Masamune》

山形一生《Artificial Mother》2015

[山形]
この流れで追加の質問とかあったりしますか？
[水野]
最後に「見ている人を信頼している」という言葉を聞けたら、私としては満足しています。ここを文字起こしで残すかどうかはまた別の問題ですけど、山形さんが削除してしまうかもしれないけど、いい言葉を聞けたなと思います。無理やり生と死とに結びつけるのも違う感じがしています。では、お言葉に甘えて、山形さんのホームページにある最初の作品《Artificial Mother》について聞きたいと思います。
[山形]
うわー、これを聞かれるとは思わなかったよ。
[水野]
2次元的に見えている作品が、いきなりレイヤーが重なっていく感じが不思議で、気がつくと立体感が出ているという感じ。
[山形]
ドットにドットを重ねていますからね。
[水野]
これ見てると相当不思議なんですよね。
[山形]
もうちょっとで変わりますよ
[水野]
少しでも目を離すと、いきなり変わっていて、前に何をどう見ていたのかがわからなくなるところなんですよね。
[山形]
今、変わった。
[水野]
私はこの作品を知らなくて、ホームページで作品を見ていったら最後に《Artificial Mother》があって、見てみるととても不思議な体験をしたわけです。とても初期の作品だけれど、今の山形作品に通じるサーフェイスと立体との関係があって、見入ってしまいました。これは最初期の作品ですよね？
[山形]
もちろんホームページに上げているのは「Selected Works」なので、これ以外にも最初期の作品はあるけど、これは許してます。この作品、もう7年前なんですね。
[水野]
この作品が「Selected Works」の最初にあるのは、私的にはとても納得です。
[山形]
僕も今日水野さんと会話する過程で。この作品を改めて見てみると納得する部分がありますよ。7年前はまだ博士課程に進んでいないから、相当前になると思いますね。
[山形]
まだ3DCGもやってないし、Max/MSPとか音楽の方によっていましたら、作品をMV的な感じで作ってますし、音楽も自分で作っているという感じで、全部自分でやっていますね。だから、良くも悪くも難しいことを考えずに、本当に自分の審美性に従って、なるべく自分自身に嘘をつかず、自分がいいと思ってるものをかなり素直にやってますよね。しかも、かなり素直に恥ずかしげもなくやってますよね。
[水野]
結構詰まってる感じですね。
[山形]
原初的な部分ですね。どうしても作家は経験を重ねていくと、いろいろな政治性とか「らしさ」の部分で、自分自身の作品や言葉というものをどんどん強固にしていきますけど、この作品にはそれが不可能ですよね。でも、この作品に関しては、僕自身が本当に原初的に行ってるから、僕自身も不可能ですね。僕自身も今見ても、他人の作品のようにいいなと思いますね。

山形一生《Masamune》2018

[水野]
あとは質問じゃないんですけど、作品を鑑賞して。考察してくださいという課題に《Masamune》を出しました。180人ぐらいの受講生がいて、6名が《Masamune》を選択して、レポートを書いてくれました。「無限に続く想い」という印象的なタイトルのレポートや、パソコンとスマートフォン両方で見た体験を書いてくれた学生もいました。
[山形]
今回のインタビューの「生と死」において、《Masamune》はピッタリですね。この作品においては、生も死も永遠に引き伸ばされているんですね。作品の最初にある映像のシーンは、いわゆるJRPGで歴史に残る伝説的なシーンなんですね。まさかゲームの最初からずっといて、ヒロインと思っているキャラクターが死ぬなんて、当時のプレイヤーとかゲームの慣習において、衝撃をもたらしたものですね。この後、実際のゲームでは、剣がヒューと落ちていって、グサッとキャラクターに刺さって死んでしまいます。そのシーンを永遠に伸ばし続けている。スクリーンを上から下にスクロールしていくという経験を、セフィロスの剣が上から下に落下していくということを重ね合わせて、それが永遠に続くようにプログラムしています。文字通り「生と死」が主題で、どちらにもならないけど、どちらもずっとあるという感じですね。
[水野]
《Airport》のような移動中という感じですね。生と死とがどっちにもならない状態をつくり上げて、スクロールという形でそのどっちつかずの状態を体験させるというものになりますね。ゲームでの生と死の表象において、《Masamune》が扱っているシーンというのは、山方さんだけなく、日本中のプレイヤーが衝撃を受けたわけですよね。ゲームのメインキャラクターが、ゲームのなかで死ぬのかという。
[山形]
今ではキャラクターが途中で離脱するっていうということは、あまり珍しくないですが、当時において、RPGとはいえどもゲームなんで、プレイヤーが丹精込めて育てたキャラクターが完全にデータから消えてしまうということはなかったんですよ。あまりにも暴力的すぎて。それを97年で行っていて、かなり衝撃的でした。本当にもうこのキャラクターが使えないんだみたいな。自分のパーティーの仲間として、普通に操作もできたのだけれど、本当に突然死ぬ。それが単なる演出とかイベントじゃなくて、完全にデータから消えてしまって、一生再開しないっていう。だからデータを消すという話ですね。キャラクターのデータを消すっていう、歴史的に見てもかなり衝撃的な出来事でした。ゲームをプレイしていた僕にとってももちろん違わずそうでした。
[水野]
その経験を作品化した？
[山形]
そうですね。今もですけど、スクロールのような上から下の経験というものを、今の僕らの世代はかなり内面化していると思います。上から下に向かう経験で何ができるかということは考えていますね。だから最近だと、展覧会の「パンゲア・オン・ザ・スクリーン」の記録のウェブも上から下にスクロールするようになっていますね。スクロールしながら展示を見ていくと、気づけば宇宙に行ってしまうみたいな、この経験は、まだまだ何かやれるなというふうに思ってます。
[水野]
上から下へのスクロールは、スマートフォンメインになってさらに強化されて、続いていますよね。Twitterなどのタイムラインが、ずっとスクロールし続けていくようになっている。さらには、TikTokでは上から下に次々に映像を流していく感じですよね。終わりがない感じですよね。
[山形]
「終わりがない」ということが本当に今らしさなんでしょうね。むしろ「終わりがある」と「冷める」でしょという感じ。だからゲームも、もうエンディングがなくなってしまったゲームがサービスになったので、サービスが続く限り、あたらしいコンテンツが増え続けて、終わりがない。終わりはサービス終了のお知らせと同時になっている。「終わりがある」という方が今らしくないんですね、本当に。

メディアアートの死と「戦闘不能と死亡は違うから」

[山形]
「メディアアートの死」ということを、水野さんに聞かせてもらって色々と考えたんです。メディアアートの「調整中」や、メディアアートの再制作もできないとかありますよね。作品の生と死っていうということは、結構たくさん扱われてるんですね。でも、作中のものであったり、描画のなかで描かれてるものとしての「生と死」というのが多いんですね。メディア的にその「生と死」を扱ったもの、作品の中で生と死を概念化して扱っているものが少なくて、僕は本当に参りました。まず1番目はナムジュン・パイクの《TVブッダ》ですね。ブッダがテレビに映る自分を見てるという形でリフレクションをしている。僕も調べていくときに知ったのですが、この作品は色々なシリーズがあるんですね。いろんなブッダがあって、それは多分現地で手に入るブッダで作品をつくっているということですね。このあたりのブッダはアジア圏内だと思います。この作品はメディア的に見れば、カメラやモニターなどの機材を通して、ブッダが自らを見るという形式はわかりやすいけど...
画像検索をして見つけたのが、ウィリアム・アナスタシー《Transfar》です。TVモニターが自らの生と死として電源ケーブルがささったコンセントを見ているというものですね。これはまさにメディアアートにおける生と死の概念形成としては、一番よくできてるなっていうふうに思っています。メタファー構造として自分の電源供給されている状況を見つめていて、モニターに映してもいる。この作品が終わるときにコードが抜かれて作品が終わるし、映像も終わるしみたいに、完璧にコード化されているなという発見がありました。この作品にもう少しメタファーを組み合わせたのが、これですね。でも、作家名がわからなかったです。おそらくロシアの作家だとは思うんだけど。これと似たような作品だと、日本の高見澤峻介もやっていますね。熱エネルギーを電気変換して、LEDのろうそくを試しているっていうものです。高見沢くんの方はこれとは違って、愚直にサーバーを熱エネルギーで作動させるというものですよね。この作品は熱エネルギーでLEDっていう、なんかすごい奇妙な変化ですよね。メディアアートとの生と死の概念としてはかなり通底している事例だなっていうふうに思っています。
この辺は概念構造としての生と死なんですけど、ブルース・ナウマンの《100生きて死ね》は、直島のベネッセハウスミュージアムで見れるんですけど、この作品は技術的な話ですが、オレンジのネオン管が切れてしまったら、修復は永遠に無理と言われていますね。ネオンのオレンジのガスがロストテクノロジーになってしまっているから、ネオンでの修復不可能って言われています。ビル・ヴィオラのこの作品は、右側に映っているおばあちゃんが自身の母で、左側に映っているのが自分の子供だったかな。誕生した子供と死に向けっている母を対立させて映像をつくっているんですが、これは単純に作中の表象ですよね。メディアアートの生と死っていう概念で考えると、物語的なイメージの話というよりは、構造的な部分なのかなと考えました。そうすると事例が広く捉えればあるのかもしれないけど、僕が見た感じだと結構少なかったですね。だからすごく難しいと思ったんですけど、ひとつ面白いと思ったのが、ニューミュージアムの運営してるRhizomeがネットワークシミュレーターやっているんですね。当時のOS環境で作品を走らせるやつです。
[水野]
私も発表で使うサイトを保存したことがありますね。
[山形]
オリア・リアリナの《My Boyfriend Came Back from the War》は97年の作品だから、RhizomeのサイトではWindows95のOSとブラウザで走らせるんですよね。でもそれが保存の概念として、彼らが考えていることだと思うと、結構また感慨深いですね。つまり、発表当時の状況をそのままを出すのが「正しい」という話なんですよね。でも一方で、今の環境でも見れるわけです。メディアアートという概念がネットアートにまで及ぶとしたら、どこを切り取るかで全く変わってしまうわけですよね。発表当時を「正」と考えるんだったら、次の年には作品が死んでる可能性があるわけですよね。ネットアートはOSが変わったり、ブラウザーが変わったりすると見えなくなってしまうから。そうなってくると、（ネットアートというものは）生と死というものが、どっちつかずに覆われたまま存在しているというのが、僕の考えとしてあります。ネットアートなどの画面上のメディアアートは単純ではなくなってきてるんだなと思っています。従来のメディアアートは物事としてはシンプルだから考えやすいのかもしんないです。ブラウザ上のメディアアートも調べていて、面白いなと思いました。
あとは、僕自身の関心領域になりますけど、RPGにおいて「戦闘不能」という状況があるんですね。キャラクターにはパラメータが用意されていて「HP」という数字が、敵の攻撃によってどんどん削られていく値が「0」になったら「戦闘不能」という状態になって、キャラクターのイメージがバタっと倒れて横になるみたいな。そこで「復活のアイテム」とかを使うと「HP」が戻って、キャラクターがまた動き出す。ここで「戦闘不能」は「死亡」ではないんですね。「戦闘不能」というのは、あくまで「戦闘には参加できない」という状態で、「生きてはいる」が「瀕死」みたいな感じだと思うんですよ。そうじゃないと、先ほど話した《Masamune》のエアリスの死の説明がつかないんですよ。もしエアリスがセフィロスの正宗で貫かれて「戦闘不能」になった状態、つまりHPが「0」になった状態だったらならば、復活できるわけじゃないすか。だけど「死亡」になってしまったというのは「戦闘不能」とは違う次元に行ってしまったわけですよ。これは僕の原体験として大きいんですが、僕が小学校3年生くらいの時に小学校6年生くらいのおねちゃんみたいな人が幼なじみにいたんですね。その子がFFVIIまさにプレイしていて、僕はエアリスの死に立ち会ったんですね。小3の僕は「これ、復活の薬使えばいいのにね」と言ったわけですよ。そうしたら「生き返るよね」と言ったら、小学校6年生でちょっと大人だったその子はこう言ったんですよ、「戦闘不能と死亡は違うから」と言ったんですね。小3の僕にはそれが理解できなかったんですよ。僕は「戦闘不能と死というのは同じ」と思っていたんですね。概念として、その違いがわからなかった。今思い返しても、「戦闘不能」と「死」とが異なるということは僕に影響を与えていますね。ゲームで「死」が二重の扱われ方をしているんですね。「死」に段階あるという感じですね。つまり、インタラクションとして不可能な「死」という概念と、データ上で削除される「死」という概念があって、生と死とが複雑に多層化されているんだなと気づかされたんですよね。これが「メディアアートの死」に関して、僕の調べた結果ですね。
[水野]
ドラクエだと戦闘不能のときに棺桶に入りましたよね。
[山形]
入ってしまいますね。
[水野]
棺桶を引きずっていたイメージがあるんですね。ドラクエ2とか3とかかな？
[山形]
今でもそうですね。
[山形]
ドラクエは「戦闘不能」の状態を「死亡」ということで表していることになるのかな？
[山形]
ドラクエの概念では「死亡」という言葉はないんですよ。死亡なのかな、戦闘不能なのかな？　でも、ドラクエの場合は蘇るんですよ。教会に行って魂を呼び戻すんですよ。
[水野]
そういうことは、私たちが言う意味での「死亡」ではない。物理的には死んでいる、魂が抜けた状態ということ？
[山形]
そうですね、魂が抜けた状態ですね。
[水野]
魂と身体は別々で、魂だけが戦闘によって身体から離れてしまったから、教会に行くと、魂を身体に引き戻せる。なんか日本だから受け入れられるような。
[山形]
ソウルの概念が違いますよね。「魂」という感じで、かなり東洋的な感じがします。こういうことも含めて、ゲームは生と死とがかなり織り混ざってるメディアだからこそ、奇妙なことが起きちゃってるんですよね。
[水野]
ゲームで、育てたキャラクターが死んでしまうと使えないというのは衝撃的なことなんですよね。ファイアーエムブレムも最初そのような設定があったと思います。私はファイアーエンブレムをプレイしたことはないんですが、ゲーム雑誌とかですごく衝撃的な設定だと書かれていたことは覚えています。
[山形]
そうですね、過激な設定でしたね。
[水野]
ゲームではいつだってキャラクターが生き返るものだと思って行動してるから、無茶させてしまうというのはよくあることだと思います。死んでしまっても、蘇りましたとか、リセットしましたという感じですね。でも、そこで蘇らないという設定で、しかも戦闘シミュレーションゲームで、死んでも物語は続いていくというのが印象に残っています。
[山形]
だから、ファイアーエンブレムは死亡とデータの削除とが密接に繋がってるっていう事例ですよね。
[水野]
ゲームにおいて、データ削除で全くなくなってしまい、再生できないというのは「死」ですよね。ネットアートに戻ると、エキソニモの展示「UN-DEAD-LINK」において、初期のネットアートをどのような形で再展示するかの選択が興味深いです。現在のコンピュータを使うと処理速度が速くて、地球が回転しているGIFで地球が速く回りすぎるということが起こるんですね。だから、どのハードウェアを使うのかということが再制作で重要になってくることがある。今回の展示では、倉庫にあった作品発表当時のコンピュータを使って展示しているものもあれば、処理速度が気にならないものは今のコンピュータを使っているなどの選択をしていました。展示で重要な決断は、初期ネットアート作品を再制作する際に、インタラクティブな状態で復活させないという点だったと、エキソニモは言っています。ネットの作品だからインタラクションが重要なんだけれど、今回はあえてインタラクションなしで作品を生き返らせた。その状態は過去の作品を知る人には「残骸」などに見えるほどの衝撃を与えたけど、私としては現状に合わせて、作家が作品の復活の状態を決められることに希望があるのではないかと思い、その方向性で論文を書きました。山形さんが先ほど言ったように、ネットアートやメディアアートの作品は、作品をめぐる技術やネット環境がどんどん変わっていくから、どの状態で、どのように見せるかで選択するテクノロジーが変わってくるので、再制作をすることとが難しいんですよね。
[山形]
学芸の思想が発表の当時の状態をいかにして綺麗に保つのかということが基本らしいんですよ。そうすると、その基本をメディアアートにも適応するとなると、やはり発表当時のものを残すということになりますよね。そうなってくると、発表当時の再現するということは技術がどんどん変わっていくので、限界があると思います。学芸の保存に関する部分が追いついてないんでしょうね。
[水野]
作品を当時の状態のまま保存しようということもわかるけど、今の状況とはそぐわないところが出てきていますよね。コンピュータを介した作品では難しくなってしまう。それは絵画でも同じだと思うんですけどね。何百年前の技法や絵の具では、今使えない色などがありますから。そこは特例で使っていいよとなるのかもしれないけど。絵画や彫刻はタイムスパンが100年単位かもしれないけど、メディアアートとか本当に1年で駄目っていうときもあるから、大変だなと思います。だから、発表当時の状態を保存するというのは、だんだん難しくなってますよね。ブルース・ナウマンのネオン管もそうですよね。ダン・フレヴィンの蛍光灯も同じ状況ですよね。メディアアートでいうと、パイクの作品のブラウン管のモニターもそうですよね。
[山形]
本当にブラウン管はどんどん壊れているらしくて、僕が3年くらい前に韓国で見たパイクの作品も「調整中」になっていました。
[水野]
福岡のキャナルシティにあるパイクの作品が復活しましたね。ブラウン管を買い集めてやったけど、興味深いのは、映像を表示するプログラミングの解析をして、その原理がわかったという点ですね。映像をブラウン管に分配する仕方のコアの部分が理解できたと記事に書いてありましたね。アナログの手法で映像を分配していたけど、そこを解析して、動作原理を理解していくというのはとても面白い事例だと思います。
[山形]
それは面白いですね。
[水野]
ソフトウェアとして、作品の核を取り出してくるところですね。同じようなことは、エキソニモの赤岩さんも言っていました。ソフトウェアという具体的なことでないのですが、作品のコアを継承すればいいんだよと言っていました。作品が多少変わったとしても、作品の魂が継承されていればいいという感じかなと思います。それを今回の展示は自分たちでやったのかなと思います。作品のインタラクション部分をカットするという判断を自分たちで下したわけですから。でも、本人たちもいずれ死んでしまうから、そのときにどうするのかという問題は出てくるでしょうね。京都芸術大学の学生たちがエキソニモの展示をするということに、彼らはニューヨークにいたから、学生たちに作品を再制作するように言ったんですね。それで学生たちは色々と証拠を集めて行って、自分たちで解釈して、再制作した作品を展示する展覧会がありました。私はその展示のトークに出たときに「エキソニモがいなくなった後に作品が改変されることを、彼らはよしとするか」という質問を受けました。彼らの感じだと「魂を継承していればいい」と言いそうだけど、やはり「魂の継承」という部分が相当難しい問題だなと思いますと答えましたね。
[山形]
いや本当にそうです。そこは作家の領域ですから。
[水野]
野心的なキュレーターなり、批評家が展示の意図に沿った改変というのもできる可能性が出てくるわけですからね。その意図がエキソニモの意図に沿っているのかを誰が判断するのか。彼らと同時代を過ごした人がいれば、まだ判断できるかもしれないけど、みんないなくなったらどうなるのか？　レオナルド・ダ・ヴィンチとか誰もう知らないじゃないすか。
[山形]
そうなってくると、本当に祈りみたいな感じになりますよね。あの人だったらきっといいよねという感じで変わっていく可能性はありますね。
[水野]
こういうことが起こるとしたら、もう今の意味での「保存」ではなくなっていくのかなと思いますね。今の保存は発表したときの作品の「同一性」を保つっていうのが重要視される。けど、作品の素材が手に入らなかったり、素材が脆かったりするので、同一性を保つことがそもそもできない作品の保存はどうするのかとなると、保存の概念の方を少しづつ変えていく必要が出てきていると思います。

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作家の言葉

[水野]
作家にどこまで聞いて、それをどのように作品分析に活かしていくというのは難しいもんですね。山形さんが言う通り作家の言葉が全てではないことはありますけど、やっぱり作家の言葉は強いですね。
[山形]
いやだから僕らとしては、水野さんにはそれを超えて欲しいんですよね。作家の言葉をリフレクションするのは、何かある種の教典というか、神話の中の物語という感じになってしまう。だけど、作家もやっぱり間違ってると思うし、作家の言ってることも作家が見た自分の作品であって、それはひとつの環世界に過ぎないんです。僕は作品を捉えるってことは全員でやるべきだと思うんですよ。僕も作家だからギャラリーなり、ミュージアムとかに出品するときに、学芸の人とかから作品について聞かれるわけですよね。作品の意味はとか、これは何ですか？とか。でも、「僕に聞かなくていいのにね」っていうふうに毎回言っちゃうんです。
[水野]
キュレーターの人とかは多くの作品を扱っているなかで、作品に対する解釈を強い強度を持って、作家の言葉をひとつずつ超えていくのは難しい作業だとは思います。山形さんが言う「みんなでその作品の見方を作っていく」というのは、その通りだなと思います。私も今はインタビューしてますけど、作家にはなるべく聞かないように書きますね。本当にわからないときに、事実確認ぐらいは聞きますけど。展示で見てきたことで書くというのが基本ですね。作家が作品で表現したいことがあるように、私は私の世界の見方を反映させて書くことが多分にあります。それが作品の正確な記述ではなく、作家が意図する記述ではなくても、こういう作品の見え方・解釈の仕方はあるでしょうという感じもあるよねという感じですね。そういう感じで、作家と意見のやりとりができたらいいなと考えています。
[山形]
うん、わかりますね。

作品体験の手がかり

[山形]
こうやって一緒に考えられていくと、僕もすごく助かりますね。水野さんの話を聞いて、ああなるほどっていうふうに考えて、それを自分の中でリフレクションさせられるから、すごく助かりますね。やっぱり僕自身も自分の作品のことはわかってませんからね。
[水野]
山形さんの作品は、とっかかりが少ないタイプの作品ですよね。
[山形]
僕もそうだと思う。僕自身もわかってないことばっかりですね、僕と永田くんはよく話すし、たくさん遊ぶから比較対象になっちゃうんだけど、永田くんは作品作るときにworkflowyのようなノートで完全に要素を全部構成するんですね。これはこうという感じで、テキストで論理立てるように作品を作っていきますね。だから作品の全てが何かしらの文脈や説明可能な状況としてあって、パズルのようにカチャカチャって映像を作っていっていきますね。僕は比較の対象として永田くんの作品を見ているし、すごく面白いなあと思いますけど、僕はそのようには全然できなくて、むしろ作品を作っていくとどんどん離れていっちゃうので。でも、やっぱり永田くんもある程度作っていくと、思ったようにはいかないと言っていています。永田くんは違う方向にいったなとなっても、少しこっちに来いよという作業がありますね。でも、僕は寄せないです。僕は作品に「もう行ってこい」と言いますね。だから、水野さんが言ったように作品のヒントが少ないとか、とっかかりがないっていうのは、僕にとってもそうなんですよ。学芸の人とかにも「この作品は？』って聞かれると、「僕もわからない」っていうふうになってしまう。
[水野]
でも、作家はそこで答えないといけないっていうことがありますよね。
[山形]
僕は作家なので言おうと思ったらなんとでも言えますよ。けれど、それは神話的な一つの答えではないですし、神のお告げでもないです。僕が見た一つの作品の見方でしかない、と思ってますよね。そこがすごく難しいですね。
[水野]
私も論文を書いていると、結構「えい！」ってなりますね。最初書こうとしていたものと、最後に出来上がるものはだいぶ違いますからね。「ライフ／デス・アートの美学」で一緒の増田展大さんがすごく整理された論文を書いていて、とてもいいなと思っています。アーギュメンツにデジタルオブジェクトについて書いている論文などいいなと思って、真似て書こうとするのですができないですね。私は自分がわかってる範囲を超えて、自分がわからないことが書けたときが面白いと感じてしまいます。増田さんにも同じような状況があるのかもしれないけど、僕にとっては増田さんの論文はきっちり整理されていて、なおかつ読んでいて面白いという点で、とても憧れます。
[山形]
水野さんが今おっしゃったように、美術の世界だと結構説明可能的なものが好まれる傾向にあるなって、僕は感じています。僕が作家の経験を通して感じているのは、学芸の人とかから「この作品は？」と聞かれたりして、それに対しての応答を含めて、作品の評価が決まってきているということです。だから、作家が自分の作品がいかにして政治的に関わっているかとか、いかにしてこういうふうに行動できるかっていうものが評価に繋がったりとかしている。でもそれは作品鑑賞とは別の何か、作家自身のパフォーマンスが含まれている鑑賞体験になってしまっているんですよね。それはどうなっているんだってふうに僕は思っています。僕はそっち側を否定するしかないんですよ。僕自身が作品を手放しているがゆえに、僕自身がその作品の全てを語ってしまうことは、自分自身が作品を否定することになってしまう。そうなってくると、僕の作品は結構扱いづらいわけですよ、学芸の人たちからすると「わからないな」ということになる。だから苦しいですよね。僕自身は、作家になろうと思ったら説明可能的な部分にどんどん寄せていかなければいけないのかなと思ってる時期がありました。今も結構その揺れ中にいますけど、どうにかして、歯向かっていこうと思ってますね。
[水野]
山形さんなら求められたら、自分の作品について説明できそうですね。
[山形]
説明はできるけど、それは巡り巡って何かおかしなことになっちゃってると思う。あえて厳しいことを言うとすれば、学芸の人たちに「もうちょっと自由に語ってええんやで」と言ってあげたいですよね。厳しく言うんだったら「さぼるなよ」っていうふうに言いたい。
[水野]
それは重要な姿勢だと思います。私は学芸員が働く美術館とは離れたところにいるから自由に書けているところはあると思います。だからこそ、どんどん書いていきたいなとは思いますね。
[山形]
エキソニモとかもそういうところですごく救われてるところもあるんだろうなとは思いますね。僕もやっぱりそれは同じですね。学芸の人とかと話をするということは、評価や今後の活動の場になるので、そういう意味では研究的な立場の人が書くのとは違うんですよね。