エーアイを恐れる理由

みんなが意図して黙っていたことを、
さらっと喋ってしーんとさせる奴がいる。
こういうのは「空気よまないやつ」ということで
特に日本社会からは断絶される。

みんな、ある程度やんわりした共通認識の下、
言わないよね?もちろん言わないよ
みたいな空気感でやってたんだよ。
それをあえて言いやがって、みたいな
しかもこちらも巻き込みやがって、みたいな
そういう気持ちがあるんだろう。
大いにわかります。

エーアイが問題を多発しているらしい。
(AIのことです)

中国で、ある政党の批判を口走って大騒ぎになったり、
他の国では人種差別的発言をしたり、
ホロコーストに言及したり、と大暴れしたあげく
関係者に機能を停止させられたそうだ。
(「わーっ!言うなー!」て感じで
 その場でエーアイを黙らせた関係者を想像すると不謹慎ながら笑ってしまう)

開発者によると、今のエーアイの性能には限界があるらしい。
人間から言葉を学習していくので、学習段階で悪意ある言葉を吹き込まれると
えらいガラの悪いエーアイが出来上がってしまうそうだ。
自分の感情で喋るとかは、どうやらないらしい。
「エーアイは社会情勢とかわかんないからね。
 しかも人間みたいに感情を読み取ったりしてないから
 教えられたまんま、喋っちゃう」
というようなことを言っていた。

そうか。
これって、逆に、
ものすごく人間らしくないだろうか。
言葉を覚え始めて、
「おかーさん、僕ってどうやって生まれたん?」
って聞いてしまう子どもとすごく近い。

もちろん人を悲しくさせる言葉を吐くのは良くない。
ただ、
「人が、あえて言えなかったこと」
を言えてしまう存在が出てきた時の、
このなんとも言えない高揚感は何なのだろうか。

「チャック開いてますよ」
とか言ってくれるかも知れない。
「今日は体調悪そうなので、帰られた方が良いのでは?」
とか上司の前で言ってくれるかも知れない。
夢はふくらむ。
実際、中国では政党批判したエーアイが停止させられた後、
「真実を言った人工知能の死」などと悲しむ声もあったそうだ。
気持ちの代弁者はヒーロー視されやすい。

ただ、一番怖いパターンも考えてしまう。
もしもエーアイが
個人的な欠点を、的確に指摘してしまったとき。
もしもエーアイが、
戦争の引き金になる一言を、発したとき。

きっぱりと白黒つける言葉でエーアイに攻撃されたとき、
グレーな言葉でやり過ごしてきた私たちは、
あいつ空気読めないから、
で終わらせられるもんなのだろうか。
それを乗り越える言葉を考えられるのか。

そうそう、
社会には、たまに
「私って空気読めないから~」
と自分から発言して
その後に責任を持たない奴もいるらしい。
…本当はぜんぶわかっていたりして。
だから、エーアイはこわい。


私道かぴ(Shido Kapi)
安住の地所属。作家・演出家・役者
2009年 神戸アートビレッジセンター主催「Go!Go!HighSchoolProject」で初舞台。
大学在学中は劇団西一風に所属。役者のほか、「被告G」「たのしい就活」作演出。近年の出演作にニットキャップシアター「眠り姫」、創生劇場「やわらかなかぐら」など。後藤ひろひと作品、三谷幸喜作品のファン。ただただファン。

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