5/19 べたつく頬にあたる夜風

大島くんの家に、忘れ物を取り行った。
会う前までは、未練なんてこれっぽっちもなくて、大島くんがいない生活に慣れたと思っていた。好きだとも思わなくなっていた。でも久しぶりに会うと切なくなってしまった。

彼の隣は居心地が良かったんだ。
別れてから彼以外の男友達とデートしてみたけど、余計大島くんの隣が楽で楽しかったんだと実感した。忘れ物を受け取り家を出たあと、後ろ髪を引かれてしまい、駐輪場で動けなくなった。

今から部屋に戻って「復縁しよう」と言おうか。次こそうまく行くはずだと説得しようか。抱きしめられた状態で眠りたい。会わなかった数週間の話をしたい。復縁できたとしてもきっとまたいつかうまくいかなくなるのはわかっている。それなのに、彼のもとに戻ろうとしている自分がいた。

ただ、向こうは私と別れて清々しい表情をしていた。きっと重荷だった私から離れることができて、自分の趣味だけに時間もお金も使えることになって、嬉しいのだろう。

自転車スタンドを外して、また立てて、外して、を繰り返し、姉に「駐輪場から動けない」とラインを送った。涙が溢れた。いつまでもこんな恋愛依存的な心地よさに浸っていてはだめだ。今一度自転車スタンドを外してまたがり、思い切ってひと漕ぎした。

一度漕ぎ出すと、駐輪場に、大島くんのいるマンションに戻ろうとは思わなかった。涙はしばらく止まらなかったが、雨上がりの夜風が乾かしてくれた。


家につくと、姉からは「一時の気の迷いだ」「帰れ」とラインが入っていた。「頑張って帰ってきた」と返信すると、「えらい」と言う言葉と、ポムポムプリンの「がんばったね!」というスタンプが送られてきた。

恋愛依存から抜け出す1歩を踏み出せたのだろうか。
元ゼミ生や先生との集まりで、今後も顔を合わせることになるだろう。すぐには無理だけど、いつか晴れ晴れとした気持ちで会えるようになるときが来るはずだ。

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