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魔法少女★ミソラドエジソン ③

ご一読ください。

この作品は個人的に作られた非公式ファンフィクションです。ミソラドエジソンを題材にしておりますが実在の人物や団体様などとは一切関係ありません。

本作の無断転載等は何卒ご遠慮願います。


魔法少女★ミソラドエジソン ③


ヤミに対する恐ろしさですっかり意識が向いていなかったけれど、光の中から突然現れたり、杖の先から何か出したり、数メートル上にある屋根から落ちてきても平気そうな様子だったり。

何もかもが普通じゃない。

こちらのほうが別次元の世界に迷い込んでしまったかのようだけど……

改めて、今起きている出来事を処理しきれず、人懐っこい笑みを浮かべる女の子を呆然と見上げる。


その笑顔の向こう側。アーケードにぽっかりと開いた空洞に、黒い影が横切った。

ヤミが少女を追ってきたのだ。

ヤミには宿主とする人間の位置を感じ取ることができる。一度ヤミの侵食を受けると逃れるのが容易ではなく、ココロを支配されてしまうのはそのためだ。


ヤミを少女に近づかせるわけにはいかない。その交戦中、攻撃をかわしたところでアーケードの屋根から落下してきたのが「ぺっと」という名の女の子である。


ヤミは穴から身を乗り出すと、翼を閉じて空気抵抗を殺ぎながらこちらへ向かって滑空してくる。
狙いはぺっとだ。残虐な爪先が素肌の覗く左肩に迫る。


「ぺっと、後ろ!」
ななは叫びながら開いた右手を素早く掲げた。柔らかな陽射し色をした光の輪が瞬時に現れ、ぺっとを包み込む。

光輪に触れたヤミの爪は弾かれたように方向を変え、危うくぺっとにまでは届かなかった。


ななが出現させたその光はシールドの役割を果たし、勢い良くぶつかったヤミの体ごと弾き飛ばしてしまう。
ヤミは地面と平行に数メートル飛ばされたあたりで、ぐるりと身をよじらせる。四足での着地体勢をとり鉤爪で石畳を捉えるも、そのまま惰性で地面を滑っていく。


完全に静止する前に、ヤミを追ってきたびびが攻撃を仕掛けた。れいかが来たのとは反対の通りから路地に入り、風を切って駆け少女たちを追い越しヤミと対峙する。

地面を強く蹴り、煌びやかな宝石を施したクラウンが載るロッドを遠慮なしに振り下ろす。
魔法ではなく単純な打撃。ヤミはそれを片手で受ける。


鋭い爪にかめら取られそうになるロッドをすぐさま持ち直すと、今度はスウィングさせるように振りかざした。
「プリンセスグリッター!」
声に共鳴するように冠の中央にはめられたダイヤが光る。無数の微細な鉱石がキラキラと集まり始め、先程と同じくクリスタルのカーテンがそよいでくる。

ヤミは折り畳んでいた羽をバサリと広げ、向かってくるダイヤモンドダストに大きく羽ばたかせた。
風が渦を巻いて舞い上がり、生じたつむじ風が結晶を蹴散らしていく。勢いを殺された鉱石たちは霧散してしまう。


「ちょっとしぶと過ぎん!?」
「やんな」
頬を膨らませるびびにぺっとも不服げに答える。話しながらも臨戦態勢を取ったままヤミの前に立ち、少女を守る壁となっている。

目立つ怪我などは見られないが、ここへ来るまでにも攻防を重ねていたことは窺えた。思う以上に苦戦しているようだ。


二人をよそに、ヤミは次の手を打ってくる。
荒々しく両手を突き出すと、腕は本来のリーチを超えた長さにまで伸び、びびとぺっとを目標に定めグングン長さを増していく。


二人が臆することはなかった。
ぺっとが目配せしてれいかとななに合図を送る。二人は頷くと、少女の体を支えつつヤミと距離を取っていく。


うねりながら伸びる黒い腕は攻撃の構えに入ったびびを避け、ぺっと単体に狙いをつけた。

さらに背中からもう二本の腕が生え、四本に増えた腕がぺっとの首元にまつわりつく。

引きはがそうと試みるも絞めるように力が加わり、首を掴まれたまま持ち上げられる。
「ぐ……っ」
足が地面から離れる。
圧迫される首に自身の体重がかかり、加重する息苦しさに表情を歪ませるぺっと。それを見たヤミは愉悦げに笑った。


「くっ……! もう、ぺっとちゃん怒らせたら怖いんだから!」
目をいからしてヤミを見据えるぺっとの手に三日月をモチーフとしたステッキが出現する。それをヤミに向けると間を置かずに詠唱に入る。

幸い手も口も自由。
唱える言葉もごく短いもの。もう反撃に出る僅かな時間すら与えない。


ドクン―――

ぺっとは自分の体の奥底から、大きな力が波打つのを感じた。それは強大に、広大になっていく。
最大にまで膨れ上がれば、準備は整ったことを意味し、――あとは解放するだけだ。

―――さあ、向こうとつながった


かざしたステッキに意識を集中させると三日月に並んだ3つの石が黒く染まる。

その刹那、ヤミの背後に黒い球体状のものが現れた。重力場を歪ませたような抗えない圧力をはらんだ物体がすっぽりとヤミの体を包み込む。

「――ッ!?」
これはいったい何だ。その疑問を発する一刻の隙きもない、一瞬ことだった。

ヤミを完全に取り込んだ黒い球体はシュルリと体積を失っていき、遂にはヤミの存在ごと空間から消失してしまった。

跡には、静寂だけが残る。


ぺっとが得意とする召喚魔法のうちでも桁違いの威力を持つのがこの「ナイトメア」だ。

闇よりなお深い闇、その先の漆黒の穴の門番。
取り込まれた先は「無」そのものである。

召喚にはつなぐ相手に応じた言霊を必要とするが、ステッキを媒介することで短縮が可能となる。
また魔力増幅のための道具であり、召喚時に反動としてかかる体への負荷を軽減させてもいる。


大きく息を吐いて体の力を抜き、喉元を軽くさするぺっとにびびが駆け寄った。
「絶好調じゃん!」
「ありがとー、でも久しぶりやったし7,8割りくらいかなぁ」
たまに呼ぶと拗ねちゃうんだよね、と呟き、少女たちのほうへ歩き出す。

その発言にきょとんとして固まるびびだったが、遅れてその場を後にする。


ぺっとがどうやって目も口も表情もないあの物体の機微を感じ取っているのか、きっと答えは闇の中だ。


―――――


④へ続く

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