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魔法少女★ミソラドエジソン ④

ご一読ください。

この作品は個人的に作られた非公式ファンフィクションです。ミソラドエジソンを題材にしておりますが実在の人物や団体様などとは一切関係ありません。

本作の無断転載等は何卒ご遠慮願います。


魔法少女★ミソラドエジソン ④


ヤミの気配が消えたことを感知してからややあって、びびとぺっとがやってくるのが見え、れいかはほっと胸をなでおろした。
「二人とも、無事で良かった」

この世界の住人にはない特異な力と身体能力を持ち合わせていても、彼女たちは決して不死ではない。ヤミとの戦いでいつ命を奪われてもおかしくないのだ。


れいかに続いてななが二人の前に進み出る。
「この子ももう大丈夫だよ」

足元をふらつかせる少女の手を取ろうとしてななはその膝に擦り傷があることに気づく。
「あなたケガしてたんだね」

軽く身を屈ませ、うっすら血が付いた膝頭のあたりに左手をかざすと、そこに一羽のひな鳥が現れた。

ロウソクの火のような優しい光をまとう、黒くつぶらな目をした鳥は、翼端で傷を撫でるようにフワリと羽ばたいてみせる。

するとたちどころに破れた皮膚が再生し、痛みも消えていく。傷痕もなく、最初から怪我などなかったかのようだ。

目を丸くする少女にななは笑顔を返す。


ヤミとの戦いを終え、少女の無事を確かめるように四人は頷き合い、安堵の笑みを深めた。


その様子を見ていた少女がおずおずと口を開く。
「あの、私……、っ……ごめんなさい」

感情の整理がつけられず、何を言ったら良いのか、言葉が出てこなかった。


自分の生み出したものが彼女たちを襲い、危険な目に合わせてしまったことへのいたたまれなさと相俟って、ただ胸がつぶれてしまいそうだった。
堪らえ切れず頬に涙が伝う。


少女へ一歩、歩み寄るびび。
「泣かないで、あなたは悪くない。人のココロは弱いから、誰しもがヤミに連れて行かれそうになることがある。
でも、信じて。人のココロは光輝く強さも持ってるから」

びびのひと声、ひと声が強く、優しく胸に響く。


希望の光も、絶望の闇も、どちらもあなた自身の中に持っているもの―――
あなたが希望を求めた時、光が生まれ、ヤミは消し去ることができる。


「あなたのココロも、ほら、もう光に満ちてる!」
青い大きな瞳でまっすぐに少女を見つめ、差し出した手の人差し指で胸を示す。


少女は指差された自身の体に視線を注いでハッとした。

いつの間にか、消えかけていた手や足が色を取り戻し、本来あるべき感覚も確かに認識できている。それどころか体全体が淡く光を放っていた。


少女は自分の胸に手の平を置いて深く息をする。


温かく鼓動を打つ胸――
――送り出される血液の温度を全身に、指の先にまでしっかりと感じる。


このリズムと温度が命の喜びだ。
生命力に溢れたこの体に宿る、たくさんの感情――喜び、悲しみ、怒り、幸せ、
様々に移ろう想いたちがこの目に映る世界を美しく彩ってくれている。


苦しみ、虚無、孤独感の中では喜びを見い出すのは難しい。
けれど、苦しみが何かを知らなければ、何を喜びと感じられるだろう。

冷たい冬を耐えた蕾が春を迎えて開くように、
雨上がりに虹が出るように――
嫌いな自分をきっといつか好きになれる、苦しさも孤独も乗り越えた先にいる自分を、信じていける―――

要らないものなんて、何ひとつないんだ 。


「それに、もしまたココロがヤミに奪われそうになっても、私たちがついてるから大丈夫!」
花が咲いたように笑い、ウィンクしてみせるれいかに、びび、なな、ぺっとも同意を込めて微笑んだ。


少女は大きく頷き返し、涙を拭うと清々しい笑顔を見せる。
曇りなく笑うその表情には希望の光が溢れている。


仄暗い景色に見えていた街並も色とりどりに煌めく姿に戻っていた。


―――……ビー!ビー!ビー!

『ゲート閉鎖まで、あと0.55md。ゲート閉鎖まで、あと0.55md。……あと0.5md――』


規則的に鳴るアラーム音に続いて、先程と同じ電子合成音声がカウントダウンを告げ始めた。

「それじゃあ私たちはもう行くね」
びびの言葉に四人は音のするほうを振り向くと、その先から差してくる光明に向かってきっぱりとした足取りで歩いていく。


あれはきっと彼女たちの世界へと続く扉なのだろう。
真っ白な光は扉の先を隠すかのように、四人のシルエットだけを浮かび上がらせる。

帰ってしまうんだ。少女は直感した。
「あ……あなたたちは」
思わず漏れた声に続く言葉は少女自身にもわからない。

その呟きに、光を放つゲートの前に並んだ四人は少女を振り返る。

「私たち、ミソラドエジソンです!」


ゲートが閉じていき、四人の姿が扉の奥に消えていく。
彼女たちは、この世界に生きる人々のココロを照らすように、笑いかけていたに違いない。


Fin.

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