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イシバシさんとメロンの香り

落ち続ける6月

メロンの甘い香りが漂ってくるカフェのカウンター席

レジから聞き覚えのある声がした


ん?イシバシさんかな

勤めている雑貨店で顔見知りのイシバシさん
カフェとスイーツとおしゃべりが好きなおじさんだ
会うと、新しいお菓子がどう、とか
夜勤あけで、とたわいもない話をする


隣に座っていた学生さんが立ち上がって
こんにちは、と話しかけに行った
(知り合い?イシバシさん、顔が広いな)


受け渡し口の近くに座っている私にも気づいた


「あはは、みんないるね」


まるで話の続きをするように
イシバシさんが歩いてくる


こんにちは、イシバシさん。


「なぁ、メロンの知ってるか?」


知ってます、新作の。なんだか恥ずかしくって
ついコーヒーばっかり飲んじゃうんです

「なんだよ、恥ずかしいって。
 俺はこういうの絶対飲むよ」

あはは、知ってます。
だってイシバシさんだもん


ほんの2、3回かけ合ったあと
パステルグリーンのドリンクが届く


「お待たせいたしましたぁ」

クリームにフタをする前に
すっと手渡してくれる女の子
手際よくテイクアウトの紙袋も添える

カシャ、カシャ、と
スマホのシャッター音がしたあと
何も言わずに女の子がドーム型のフタをした


ニコニコ、と
言葉を交わしている

「んじゃ、」


くるりと振り向いて
私にも手をあげた


落ち続ける6月

人に会うとちょっと元気になれる


見つからないようにうつむこうとした自分が
少しだけ遠く感じる

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