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未来からリジェクトされないために

文書・ハンコ・対面 テレワーク阻む「アナログ役所」3つの慣習

行政で仕事をしていると「民間では非対面でハンコレスが進んでいるのに役所に対応するためだけにハンコを押しに出社しなければいけない」というお叱りをよく受けます。先端的なデジタル技術をどんどん取り入れて行政を変えていかねばなりません。

デジタル化には情報をペンと紙ではなくパソコンなどのデジタル機器で作るデジタイゼーション、作った情報を紙ではなくデジタルのまま流通、共有、協働作業をするいわばプロセスのデジタル化のデジタライゼーション、顧客体験を根本からガラッと変えていくデジタルトランスフォーメーションの3つのステージがあるそうです。

コロナ禍の中で社会経済活動を維持するために非対面非接触への仕事のシフトが一気に進みました。企業側は第二段階のプロセスのデジタル化「デジタライゼーション」に突入しています。

行政も文書や資料を作成するときはPCで作ります。デジタリゼーションはできています。しかしながらせっかく作ったデジタル情報を隣町の相手に渡すときに、PCで作ったものを「わざわざ」プリントアウトして「わざわざ」プリンターまで取りに行って「わざわざ」ファックスで送信し、受け取った側は「わざわざ」ファックス機まで取りに行き、「わざわざ」自席に持ち帰り、「わざわざ」情報をPCに入力し「わざわざ」シュレッダーで廃棄するなんてことが発生してるのかもしれません。あくまでもわかりやすく単純化してみた一つの想像ですけど。

これらの「わざわざ」のプロセスをデジタル化することに挑戦することが我々の現在地です。

この表は講演でよく使う資料です。

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デジタルトランスフォーメーションで蝶のように華麗に羽ばたいてみたい志はあります。ソサエティ5.0ですね。しかし蝶になるにはまず蛹(サナギ)にならないといけない。蛹に当たるのがプロセスのデジタル化「デジタライゼーション」です。そして今我々は蛹にもなりきれてない毛虫の状態のです。

コロナによって我々はようやく蛹への脱皮をする重要性に気がつきました。その脱皮への挑戦を始めたところなのです。そしてソサエティ5.0の社会に蝶として羽ばたく準備段階としてまずは蛹になるべく都政の構造改革「シントセイ」を開始しプロセスのデジタル化へ挑戦します。

さてプロセスのデジタル化を阻むものの代表的なものの一つがハンコです。他にもコピー、対面の会議、ファックス、現金決済なども同様です。

ハンコというプロセスがあると、ハンコを押すにはパソコンで作った情報をわざわざ紙にしないといけないし、それを郵送したり窓口に持っていかないといけない。そして民間急速に普及しているハンコプロセスを解消するのが電子署名のサービスです。

民間企業ではコロナを契機にクラウド型の電子署名が進みました。しかしながら行政はなかなかこれが実施できませんでした。そんななかでついに

クラウドサービスを活用した電子契約等の実証実験について

GMOグローバルサイン、セコムトラストシステムズ、弁護士ドットコムの3社の電子署名サービスでのハンコレスの取り組みを開始します。
小さな一歩ですが滑らかな行政サービスにつながり広がるように取り組みます。

実現にあたっては企業の皆さんや自治体、そして東京都も規制改革会議に持ち込んだりして訴えてきました。11月に開催された内閣府:第3回 デジタルガバメント ワーキング・グループで提出した東京都の資料です。

クラウドを活用した電子署名の推進について

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国の方も迅速かつ真摯に対応いただいた結果、クラウド型電子署名が利用できるようになり今回の実証実験にいたります。

この変更の過程を通じて大袈裟かもしれませんが新しい技術を行政や社会に取り入れるプロセスが垣間見れました。クラウド型電子署名サービスを地方団体でも認めてもらうまでに、これまでに多くの事業者、地方団体、国の皆さんの調整があったそうです。

ちなみに私の秘書は道路の仕事の出身なのですが巨大な書類の束を運んで捺印するために腰を壊しそうになったそうです。行政だってハンコが好きだから何でもかんでもハンコというわけではなく、それしか現実的に認められている技術がないというのもあるわけです。もちろん慣習的なものもあるのでそれは改めます。

地方自治体や民間の現場が実務をしている中で課題に感じる。それを解決する技術を知る。しかし制度がついてこない。そのギャップを取りまとめて国に提案する。国も検討して下さってルールが変わる。現場に新技術が実装される。地方自治の仕組みの中でこうやって社会が1mmづつUPDATEされていくんだなと感慨深い案件でした。


インターネットサービスはプラットフォーマーと呼ばれる例えばA社やG社のルールの上でサービスが作られます。いくら素晴らしいサービスを作っても彼らのレギュレーションから外れるとリジェクトされて世に出せません。

行政のデジタルサービスは法律や条例や通達というある種のプログラム言語みたいな緻密な国語で作られた空間で動作します。新しい行政デジタルサービスを採用したくても、行政のルール空間からリジェクトされないようにしないと動かない。そうするといくらテスト環境で動いても社会実装できないので社会的インパクトが無になる。

スタートアップの新しいサービスは既存のルール空間の中でいろんなことにぶつかりやすいです。検索エンジンの著作権もネットオークションなどもみんな最初は大変でした。最近でも民泊やライドシェアもそうだったし今回だとクラウド型電子署名サービスもそうです。
だから新サービスを行政のルール空間に取り込んで社会に出すには「制度のイノベーション」を起こすことが必要です。

では制度イノベーションを起こすにあたっては何が大事なんだろうか?

多分ですが、正論を理詰めで言うだけではうまく行かない。今回はコロナ禍というのがあって「ハンコレスは必要だし今すぐ進めよう」とか「テレワークしてるのに行政のハンコのためだけに出社でケシカラン」というセンスメイキングができていたのも大きかったと考えています。
ナラティブでセンスメイキングがなされていてそこに技術やサービスの提案(決して新しいものでなくてもいい)がタイミングよくなされると制度イノベーションが起きてルールが書き換えられサービスが社会実装できる。

そういえば、ずいぶん昔に復興イベントのツールド東北を立ち上げた時に現地での民泊NGでした。復興支援に行って現地の人の家に泊めていただいてタダ飯&宿泊無料で自転車乗るって言うのはあまりにあまりでではないですか?と言うことでイベント民泊が解禁になったことがあります。あれもいろんなナラティブが寄せられてセンスメイキングの下地ができてたんだなあと。

「ツール・ド・東北」きっかけに「民泊」の規制が緩和 10年継続開催へ有償宿泊を制度化

ちょうど馬田先生との朝活動で教わった「未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則」が実地で垣間見れた良い経験になった。

民間時代は行政に対してどうして明らかに人々の役に立つ良いサービスで海外ではやってるのに日本ではやらないのだろうか?と素朴に不思議に思ってた。それは「制度のイノベーション」が起こせてないからです。

ICT業界の人はデジタルを使った行政サービスのプロダクトイノベーションを起こすのが得意な人たちです。しかしながら、その基盤になる制度のイノベーションのおこし方については熟知していかなったり苦手だったりひょっとして軽視しがちなのかもしれない。ひょっとすると圧倒的に良いサービスを作れば多少グレーな感じでも社会が指示をしてくれて結果的に受け入れられるようになると信じてる人もいるかもしれません。

逆に行政マンは制度のイノベーションのおこし方や実務への落とし込みについては知っているすごい人がたくさんいるが、デジタルサービスでのイノベーションは苦手です。

いくら未来を作る技術やサービスがあっても制度が追いつかねば未来からはリジェクトされる。いくら未来を生み出すサービスがあっても民意のセンスメイキングがなければ未来からリジェクトされる。

民間のデジタルサービスのイノベーターと行政の制度イノベーター、二種類のイノベーターが邂逅し、そこに世間も含めたセンスメイキングが加わった奇跡のタイミングで初めて社会が動く。

そして行政の分野で未来を実装するにはデジタル技術と制度、二つの世界の革新者の交差点を作らないといけない。自分は革新者タイプではないのですが、幸いにしてデジタル側に知己も多く色々な情報も入ってきてそしていまは行政側にいる。

二つの世界の人々の交差点をつくる貢献を果たしていきたい。

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