自分が最も欲しいものが何かわかっていない奴は、欲しいものを手に入れることが絶対できない

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「自分が最も欲しいものが何かわかっていない奴は、欲しいものを手に入れることが絶対できない」
コインロッカーベイビーズ 村上龍

30年以上も前に読んだ「コインロッカーベイビーズ」の一文なんだけどいまだに覚えているくらい刺さっている。10代から20代前後の多感な時期の読書体験ってそれだけ強烈なんだろう。

今でも「本当に欲しいものって何だ?」はプライベートでも仕事でも最初に自分に発する問いだ。それは自分の状況や考えの変化とともに変わっていくかもしれないがそれでも現時点での本当に欲しい状態は出来るだけシェイプしないといけない。

仕事面において自分が今、取り組んでいるのは「行政のDX」。

デジタル技術そのものはトンカチやノコギリやガスコンロや自動車のような便利な道具にすぎない。道具を使って自分は本当は何を変えたいのか?どんな状態に変えたいのか?が大事だ。

ではそもそもDXとは何か?
DXという言葉の本家でもある経済産業省では「IDC Japan 株式会社は、DX を次のように定義」を援用して以下のように定義している。

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること

経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~

総論としては反対する余地はない。

しかしながら広域自治体の東京都にとってはデジタルトランスフォーメーションとはどういうことか?それはどんな意味合いを行政に持っているのか?と考えるとやや解像度が粗い定義だなと考えていた。
元々DXという言葉は新しい概念でフワッとした言葉になりやすい。それは新しい概念の誕生初期の致し方ないことでもあるんだけどできるだけ自分の現在の仕事に引き寄せてシェイプしてみたのが以下。

東京都政の行政のDXとは?どんな状態になればいいのか?
「情報技術を活用して、行政サービスの顧客体験を飛躍的に改善。リリース後もデータを見ながらQuality of Service を追求する永久運動が
行政組織の中に定着している状態」


逆に「これはそうじゃない」という逆定義。


not this:
1.情報技術をつかわずに顧客体験を改善すること。
電話受付のマニュアルを作成して顧客の問い合わせの体験を改善した。
とてもいいことだけどDXではなく改善活動。
2.デジタル化はしたけど顧客体験は飛躍的に変化してないこと。
業務フローを紙からワークフローのツールに変えたとか、ハンコレスにしたが印刷して自署してスキャンしてPDFでメール添付で送り返してねとか。
これらはデジタル化ではあるが顧客体験の!するほどの変化ではないので。後者はむしろ悪化してる可能性も。
3.リリース後の改善の永久運動化がないケース
素晴らしく顧客体験の改善するアプリケーションをリリースしたが、その後は次年度予算がくるまでは継続的改善をする習慣が組織の中に生まれないケース。
4.データが改善の元になってないケース
行政のデジタルサービスの改善はしてるがデータではなく直感と経験で改善しているケース。改善はすばらしいことなのだけどデータ利用の視点が不足。

整理すると「情報技術」「顧客の体験価値の改善」「データ利活用」「永久運動にする組織文化」が4つがタグになる。この4つのタグのどれかが欠落することなく行政のデジタルサービスを推進することが自分の仕事だ。

どんな情報技術を使うのか?
それによって顧客の体験価値はどう変わるのか?
体験価値の変化はどう数値データ化するのか?
継続的な改善はどうなされるのか?
あたりが鍵となる問いになる。

また、「体験価値」をかえるにはまずは顧客の定義をしなければいけない。ドラッカーが「我々の顧客は誰か?」を重視していたけどそこは行政のデジタル部門も同じだろう。
行政の情報部門の顧客は誰か?を定義しなければ価値を提供することはままならない。自分自身は14ヶ月ほど今の仕事をしているのだが現在は以下の3つの顧客層を想定している。

一つめは都民13,963,751人。これに加えて情報部門は通勤してくる方や国内や海外から旅行に来る方、都内で事業を営む法人や事業所、NPO、学校の生徒や今は生まれてないけど今から未来に生まれる未来都民も視野に入れて広義な東京都民で考えないといけないだろう。
二つめは職員。働いている都庁の職員、都立学校の先生や消防や警察の職員も。これだけで168,795人。さらには入都を希望している学生や社会人の人たちへのデジタルサービスを活用した採用活動や面接の提供も必要になる。最新データだと学校の教師希望だけで11,346人が応募してきている。
三つめは東京都の基礎自治体。東京都には東京都区部(東京23区)、多摩地域(26市と西多摩郡3町1村)、島嶼部(大島、三宅、八丈、小笠原)の4支庁(2町7村)がありそれぞれに地域住民にデジタルサービスを提供する職員がいるのでその支援。

整理すると現段階での自分なりの行政のDXの勝利の状態の定義はこうなる。

「都民、職員、基礎自治体の3つの顧客へ情報技術を活用した行政サービスを提供して顧客体験を飛躍的に改善。リリース後もデータを見ながらQuality of Service を追求する永久運動が行政組織の中に定着している状態」

この状態を生み出せたら勝利。この状態に到達しなかったら全ての手続きがデジタル化されてもマイナンバーが普及しても自動運転車やドローンが飛び回るスマートシティになっても勝利ではない。

冒頭のコインロッカーベイビーズの引用に戻ると、「都民、職員、基礎自治体の3つの顧客へ情報技術を活用した行政サービスを提供して顧客体験を飛躍的に改善。リリース後もデータを見ながらQuality of Service を追求する永久運動が行政組織の中に定着している状態」のデジタル部門を都庁という組織に持つことが、そんな文化を都庁全体に広がることが「自分が最も欲しいもの」だ。

4月からデジタル局(仮称)が誕生する予定だ。
単に名前が変わるだけではなくこのような状態を生み出せるチームを作る。


参考資料:
東京都の職員数

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東京都の都立学校への応募者数
応募者の総数は11,346名で応募者数は減少(925名減)し、応募倍率(採用見込者数に対する応募者の割合)は、3.9倍(昨年度3.8倍)

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