日向坂×セイバー #49
◇ 菜緒
「本気でだよ。本気の一騎打ち」
数メートル先に立つ美穂がまた言った。湖から少し歩き、開けた場所で対峙している。
「なんのためにこんなこと」
「負けた方が相手の言うことを聞く。いい?私がが勝ったら菜緒に言うことを聞いてもらう」
一方的にそんな条件付けをされても戸惑うばかりだが、美穂は返事は受け付けないとでも言うようにライドブックを開いた。
『玄武神話』
「変身!」
仕方なく菜緒もライドブックを取り出し、開く。
『ジャアクドラゴン』
「変身」
両者変身し、改めて対峙する。
「はあっ!」美穂が、こちらに向かって駆けてくる。
◇ 陽菜
「陽菜、起きてる?」
「はいっ」反射的に返事をするが、実際は今の声で初めて目を開けた。
「ほら、やっぱり起きてないじゃん」明里が笑うのが聞こえる。「何時だと思ってるの?みんなもうとっくに起きて動いてるよ?」
「起きてたよ」なんとなく悔しくて、嘘をつく。
「なんか陽菜、雰囲気変わった?」
「え?今日?」
「いや、いつからかわからないけど、なんか変わった気がする」明里は陽菜の全身を舐めるように眺めた。「全体的に大人っぽくなったかな」
「ありがと」
「あ、それより、一緒にリベラシオンに行こうと思って来たんだった」明里がポンと手を叩く。「陽菜来れる?」
「どうしよう、まだ何も準備してないんだけど」
「いいよ、待ってるよ」
「メイクもしなきゃ」剣士であっても陽菜も女性だ。いや、陽菜に限らず仲間たちは皆、緊急時以外はメイクをしてから活動を始める。
「いいんじゃない?どうせリベラシオン行ったら汗かくし、そんなに気にしなくても」そういう明里は既にメイクを済ませていた。
「でもなんで急にリベラシオン?」パジャマを脱ぎながら訊ねる。
「最近、私たち強化ライドブック使うようになったじゃん?あ、強化ライドブックっていうのは大石橋さんが言ってたんだけど」
「話長いよ」そう言ったのはもちろん本気ではなく、軽くからかっただけだ。
「ひど!そんなことないよ」明里のリアクションはやはり見ていて面白く、からかいがいがある。
「じゃあ簡単に言うと、その強化ブックを使いこなせてないんじゃないかって」
そういうことか、と納得した。アイテム頼りで、実力が追いついていないと考えたのだ。
「私は使いこなせてるよ」やはり何だか悔しくて、言ってみる。
「でも、ソロモンに負けたよね」
「丹生ちゃんこそ、めっちゃ飛ばされてたじゃん」
「だから特訓しようって。このままじゃソロモンには勝てないよ」
確かに明里の言う通りではあった。意地を張るのはやめて、頷く。
制服はスカートとパンツの二通りがあるが、今日はスカートに脚を通した。
ふと視線を感じて明里を見ると、明里が下着を着けた陽菜の胸元を見ていた。
「何?恥ずかしいんだけど」
「陽菜さ」明里は視線を逸らさない。「大きくなった?」
「何それ」恥ずかしくて、急いで制服を着ると「支度してくる」と部屋を出た。
◇ 愛萌
「え?美穂が?」
彩花がこくりと頷いた。「今日は二人で話したいんだって」
「彼女ならさっき、土豪剣を持って行ったぞ」大石橋が出て来た。「煙叡剣も音銃剣もメンテナンス完了だ」と、彩花に煙叡剣を渡す。
「わあ、ありがとうございます!」彩花が煙叡剣を受け取って嬉しそうに歯を見せた。
「ねえねえ、前から思ってたけど、煙叡剣ってめっちゃオシャレじゃない?」
「思った。でもめい、音銃剣もピンクでかわいいから好き」
「いやいや、聖剣なんだからかわいいだけじゃなくてやっぱりかっこよくないと。そこでこの時国剣界時よ。槍にもなるし、長物にはロマンあるよねえ」
ああでもないこうでもないと先輩方が騒ぎ始めるのを尻目に、愛萌はロビーを出た。
湖に来ると、既に菜緒はいなかった。しかし、目を閉じて感覚を集中させると、すぐ近くにいることを察知出来た。
近づくにつれ、重い金属音が聞こえてくる。
「そんなもの?ほら立って!」
美穂の声だ。
立ち上がるカリバーの姿が見えた。あれが菜緒だろう。
菜緒の剣を、美穂が腕で防ぐ。跳ね返した後で両手で土豪剣を掴み、横に振った。動きが大きいからか、菜緒はさっとジャンプして身体を横にし、躱す。その勢いで再び剣を振り下ろしたが、美穂は避けもせず正面から受け止めた。
闇黒剣月闇は強力な聖剣であるから、通常はバスターと言えど勝つことは難しい。しかし、今はむしろ美穂の方が圧倒していた。
『月闇必殺撃!習得一閃!』
斬撃と共に竜が飛んだ。しかし、これまた美穂は躱すことも防御することもせず、装甲だけで受け止めた。
それを見た菜緒が、一歩後ずさった。その間に美穂はライドブックを取り外し、土豪剣に読み込ませる。
『玄武神話!ドゴーン!』
周囲の地面から岩石が集まり、一瞬のうちに土豪剣が巨大化した。菜緒が思い出したように二、三度斬撃を飛ばすが、美穂はビクともしなかった。
『会心の!激土乱読撃!ドゴーン!』
巨大な土豪剣が、一直線に振り下ろされた。その真下にいた菜緒は、咄嗟に必殺を放ち迎え撃とうとしたが、土豪剣に押し切られて倒れた。
菜緒の変身が解けるのを見て、美穂も変身を解いた。
「私の勝ちだね」菜緒に歩み寄りながら、美穂が言った。
「……何が望み?」
「決まってるでしょ」菜緒の前まで来た美穂は、雷鳴剣を差し出した。
「また私たちと一緒に戦って」
菜緒がはっと息を呑むのが、ここからでもわかった。その後で、さっと目を逸らす。
「今更そんなこと出来るわけない」
「なんで?」
「なんで……?だって私は」
「菜緒がどう思ってるか知らないけどさ、私たちはみんな、菜緒のことを大切な仲間だと思ってる」美穂は静かに、でも力強く言い切った。
「菜緒の剣士としての強さも、責任感の強さも、私たちは知ってる。そんな菜緒だから、また一緒に戦いたいって思ってるんだよ」そう言うと美穂はちらっとこちらを見た。どうやら愛萌に気づいていたらしい。
「いつまででも、私たちは待ってるから」それだけ言うと、美穂は立ち去って行った。
座り込んだまま雷鳴剣を見つめる菜緒に、愛萌はそっと近づいていく。
「まな……」菜緒が気づいてこちらを見た。
◇ 優佳
「でも音銃剣ってさ、ライドブックもお菓子じゃん?やっぱりかわいいよね」優佳がロビーに入った時、彩花が音銃剣を眺めながら言った。
「なんの話してるの?」
「どの聖剣が一番好きかって話」久美が答えた。
「めい音銃剣がかわいくて好き」
「ああ、確かに芽依ピンクのもの好きだもんね」芽依の私物は大半がピンク色で、かわいらしいキャラクターがプリントされているものも多かった。
「やっぱり私は自分の煙叡剣が好きだけど、確かに音銃剣もかわいいなあって」彩花も音銃剣を手に取る。
「あれ、そういえば金村は?」史帆が思い出したように言った。「ずっと私たちが音銃剣持ってるけど」
「今日は学校だって。ひよたんも」久美が答える。
「えー、こんな時にも学校はあるんだ」史帆は驚きと感心と呆れが混ざった表情を浮かべる。
「もうそろそろ終わるころじゃないかな」久美が言った直後にドアが開いたので、二人が帰ってきたのかと思いきや、顔を出したのは陽菜だった。
陽菜とは今日は初めて会ったな、と思っていたら「おはようございます」と陽菜が言うのが可笑しくて、皆で笑い声を立てる。
「河田さん今すっぴん?」彩花が訊ねると「はい」と陽菜が答える。
「メイクしてあげよっか。じゃあ奥の部屋入ってて」と嬉しそうに彩花が言い、それに従い陽菜が部屋に入った時、机の上の本が光った。
「レジエルだ!」
彩花の声で、一瞬にしてその場の空気が変わった。数日ぶりの出現に、緊張が走る。
「芽依、この前のあれ、もう一回やろう」と史帆が声を掛け、「大石橋さん、雷鳴剣ください」と手を差し出す。
しかし、大石橋曰く雷鳴剣は何故か美穂が持って行ったとのことで、仕方なく史帆は時国剣のみを持ってロビーを出た。
上空には、再び巨大な本が現れていた。
「なんでまたあれが……」
「それが俺の力だ」レジエルの声が、どこか以前と違って聞こえた。「何度邪魔しようと無駄な話だ」
レジエルがライドブックをセットする。
「変身」
『KAMEN RIDER SOLOMON!』
史帆たちもすぐにライドブックを開く。
「変身!」
一斉に変身し、向かっていく。
◇ 愛萌
「まな……見てたの?」
相変わらず、菜緒は目を合わせてくれない。
「ねえ菜緒。美穂の繰り返しになっちゃうかもだけどさ」菜緒の前に膝をついて座る。「また一緒に戦ってくれない?」
菜緒はしばらく黙っていたが、やがて俯いたまま口を開いた。
「……もう私には何も出来ない」
「どういうこと?」
「やることなすこと、全部失敗した。儀式にまなを巻き込んで、丹生ちゃんがいなければまなは消えてた。最後の策だった道連れも失敗した。もう私には何も出来ない」
「……あのね、菜緒」両手を肩に置く。
「諦めるのは簡単だよ」
「諦めるのが、簡単……?」菜緒の目が一瞬にして怒りの色を帯びた。
「諦めるのが簡単?そんなわけないでしょ!ずっと悩んで、解決法を探して、もがいて足掻いて、そうやって出来るうちはまだマシだった!でももう今は手も打ち尽くして、出来ることは全部やろうとして、それでも失敗して、諦める道しか残ってない、それが簡単だって?いい加減なこと言わないで!」
菜緒と出会ってから、彼女が声を荒らげたのを初めて見た。それだけで、彼女がどれだけ本気で、必死だったのかが伝わってくる。
だから、こちらも覚悟を決めて、再び口を開く。
「諦めるのは、簡単だよ。でも」無理やりこちらを向かせて、目を合わせる。「菜緒には似合わない」
菜緒の目には、まだ憎悪とすら言える光が宿っている。
「私が知ってる菜緒は、何かを諦めて立ち去るようなことはしない、最後まで立ち向かう責任感が強い子だから。それが厄介でもあるんだけどね」
「私はまなが思ってるような人じゃない。一人じゃ何にも出来ない、ただの高校生にすぎない。剣士になったなんて調子に乗って、強くなった気でいて、未来を知って自分だけがそれを変えられるなんて自惚れて、失敗して、全部投げ出そうとして。力なんてないくせに自惚れだけは人一倍で、大切な仲間すら守れない。私は……私が、大っ嫌いだよ」
俯いた菜緒の震える肩から手を離し、愛萌は指を折り始めた。
「私、菜緒の目が好き。黙ってると鋭くて、近寄り難い美人さんだけど、仲良くなると全然そんなことなくて、笑うとふんわり優しくなるの。でも知らない人に話しかけられると人見知り発動で伏し目がちになったり、とし姉さんにお尻触られると恥ずかしくてあちこち泳いじゃったり、かわいいところもあるんだ。しかも、ウインクが両方ともめっちゃ上手。私に勝るとも劣らないね」
菜緒の返事はない。だから、勝手にそのまま続けることにした。
「菜緒の髪が好き。基本的にサラッサラで綺麗で、なのに前髪だけは絶対に崩れないんだ。どんなに激しい戦闘の後でも、リベラシオンに入ってたって、決して崩れないの。街を歩いてる時に強風が吹くと、前髪だけは完全キープなのに周りの髪は颯爽と靡いて、アニメかってくらいに絵になるんだよ。
菜緒の寝顔が好き。普段は人に対してずっと気を張ってる菜緒が、寝てる時だけは子供みたいに無防備な顔になるんだ。菜緒が寝てる時、悪戯でほっぺとか唇に触ってるの、気づいてなかったでしょ?
菜緒の笑顔が好き。菜緒には笑顔がいっちばん似合ってる。普段のクールビューティな雰囲気もとっても素敵だけど、いや、だからこそ、そんな菜緒が笑ってると、世界の何もかもがどうでも良くなるくらい嬉しくなっちゃうんだ。目元なんてほんとに優しくて、口角がキュッと上がるのも可愛くて、実はちょっと八重歯だったりもして。そんな笑顔が、好き」
俯いた菜緒が、ようやく声を発した。
「何が言いたいの……?」
「別にー?菜緒が自分のこと嫌いだー、なんて言うからさ。菜緒にはこんなに素敵なところがあるんだーって、私が知っているってことを知って欲しくなって」
「まなに何がわかるの……?いくらそんな甘やかすようなことを言ったって、自分のことは自分が一番よくわかってる!」
「菜緒は自分のことしかわかってない!」
今度は愛萌が、声を荒らげた。
「菜緒は、私が菜緒をどう思ってるのか知らなさすぎる!菜緒は、私が見ている菜緒をどれだけ知っているの!」
気づけば、菜緒が顔を上げていた。久しぶりに目が合う。
「菜緒が誕生日に消えた時、私がどんな気持ちだったかわかる?やっと会えたと思った菜緒が、一緒にいてくれなくて、私がどんな気持ちだったか、わかってるの?」
「私は、まなに生きてて欲しかった!だから自分が消える覚悟までした。それなのに、全部失敗した。全部知ってて、何も防げなかった」
「それでも今、私は生きてここにいる。それに、菜緒が私を助けようとしてくれた、それだけで私がどれだけ嬉しかったか……きっと、菜緒にだってわかりっこない」
「そんなことを言ってられる場合じゃないの!」菜緒が激しく首を振る。「わかってるの?このままだとまなは消えちゃうんだよ!私はまなが!」
髪を振り乱す菜緒の言葉を遮って、強く抱き締めた。
「ごめんね?」
菜緒の言葉が止まった。
「私が菜緒を戦いに巻き込んだせいで、辛い思いばっかりさせちゃった。私のせいで、菜緒が自分の命まで犠牲にしようとした。そうまでして私を救おうとしてくれた。でもね」
涙が溢れて止まらなかった。一度言葉を切って、呼吸を整えてから続ける。
「私は、菜緒のいない世界なんて嫌だよ。菜緒を犠牲にして得た命なんて、欲しくない。わがままなのはわかってる。でも、私は菜緒と一緒に、菜緒がいる世界を生きていきたい。だって」そこまで言って、笑顔を作る。
「だって、菜緒が好きだから」
腕の中で、菜緒の身体が小刻みに震えるのがわかった。前に比べて、痩せたように思える。
「私が……?こんな、私なんかが……?」
「菜緒が良いの。菜緒じゃなきゃ、嫌なんだよ」
知らず、腕に力が入る。この腕の中の温もりを、手離したくない、と願う。
「だから私は、菜緒に幸せでいてほしい。菜緒が幸せなら、私も幸せなんだ。これも、私のわがまま。私が幸せでいたいから、菜緒にも幸せでいてほしい。だから菜緒も、私のためじゃなくて、もっと菜緒自身のために戦ってほしい。本当に菜緒がやりたいことは何?きっと、心ではもうわかってるんじゃない?」
「……なんで私なんかを、そんな風に思えるの?私の事、情けないとか思わないの」
「んー、正直ちょっとは思うよ。無理して全部背負い込んで潰れてって、成長しないなあってね。けど、情けないと思うのと一緒にいることは、矛盾しないと思う」
「でも、私は何も出来ない。何一つ、救えない」
「私がいるよ。菜緒がずっと救おうとしてくれた私が、今こうして無事に生きてる。それじゃあ不満?」
しばらくして「……ずるいよ」と震えた声が聞こえる。
「ずるいよ。わがまますぎる」
「そうだよ?実は愛萌は、わがまま姫なんだよ」
腕を解いて、菜緒に笑顔を見せる。菜緒の頬にも涙の跡があったが、彼女も笑顔だった。
「じゃあもう一つわがまま言わせてもらうね」立ち上がって、菜緒に手を差し伸べる。
「これからは、私のためじゃなくて、菜緒自身のために。『一緒に』戦ってほしいな」
◇ 史帆
やはりソロモン攻略の糸口はなかなか掴めなかった。史帆自身は本来の自分の聖剣を使っているため前回より力を発揮出来ているはずなのだが、風と雷のコンビネーションほどの連携は難しく、さらにはソロモン自身の本気度が増していた。逆に言えば前回は本気を出していなかったことになるわけで、それが何より恐ろしい。
後ろでは久美が、心配そうに戦いを見つめている。
先程、美穂に敵出現の連絡をした際、「今日は久美さんも来てください」と美穂に言われたらしい。
「私が?なんで」
「いいから、来てください。絶対ですよ?」美穂はそれだけ言って、電話を切ったらしい。
『界時抹消!再界時!』
界時抹消を発動し、相手の背後に回る。直後に蹴りが飛んでくるのが見え、連続で界時抹消を発動する。
飛び上がり、上から槍を突き出そうとした瞬間、腹に鋭い痛みが走った。
「神にはお前如きの攻撃などお見通しだ」レジエルがこちらにゆっくりと歩いてくる。腹に刺さったのはソロモンの持つ剣だった。予測して先置きされたらしい。
「としちゃん!」彩花が叫ぶと同時に、視界が煙に覆われた。晴れた時には、腹に刺さった剣は消えている。
『狼煙霧虫!』
彩花が相手の視界を奪った直後、優佳が光の剣を掲げた。
『最光発光!』
煙に覆われた視界の中に光が見えたからか、ソロモンが優佳の方へ剣を投げたのがわかった。
『界時抹消!』優佳を界時抹消で飛んでくる剣から逃がす。剣を手放し無防備になった所に、回転しながら芽依が突っ込んでいくのが見えた。
『翠風速読撃!』
初めて有効な打撃が入ったように見えた。しかし、全員の連携でようやく一撃を叩き込めるレベルでは、勝つことは難しい。
ソロモンの手には、いつの間にか再び剣が現れていた。これで元通りになってしまった。
突如、銃声が響いた。ソロモンの身体に火花が散る。
「金村!ひよたん!」
学校が終わった後でノーザンベースに行き、そこで気づいたのだろう。それから、明里と陽菜はどうしたのだ、と気にかかる。
◇ 明里
明里はその時、ようやくロビーに戻り、光る本を発見したところだった。その横に水勢剣が置いてあるのを見つけ、陽菜が出動していないことに違和感を覚える。
「陽菜ー!いるのー?」
すぐに奥から陽菜が出てきた。「どうしたの?」
「どうしたの、じゃなくて、なんで出動してないの」
「あっ、本当だ!」本を見て陽菜が慌てた声を出す。「あや姉さんがメイクしてくれるって言うから待ってたんだけど」
「普通気づくでしょ!もう、いいから行くよ!」陽菜を引っ張ってロビーを出る。
◇ 美玖
美玖とひよりが戦闘に参加した直後、明里と陽菜の声が聞こえてきた。
「情龍神撃破!」
「レオ・ブリザード・カスケード!」
相打ちのようにして、ソロモンと二人がそれぞれ後方に飛んだ。
「剣士如きが……」立ち上がったレジエルは、力任せに斬撃を飛ばしてきた。
『激土乱読撃!』
突如、目の前に大きな壁が立ちはだかった。斬撃がそこに衝突し、相殺された。
「美穂!」
菜緒以外の剣士が全員その場に揃った。改めてソロモンと向き合い、斬りかかっていく。
九対一ではさすがに優勢になるかと思ったが、甘かった。せいぜいが互角といったところで、攻略には至らない。
『SOLOMON STLASH!』
不意を突くように、ソロモンが必殺を放ってきた。その場の全員が大きく弾き飛ばされる。
痛みに呻きながら立ち上がろうとしている時、足音が聞こえてきた。美玖にはそれが、待ち望んだ彼女の足音だとすぐにわかった。
雷鳴剣を腰に装着した菜緒は、仲間たちの前まで来ると、真っ直ぐにレジエルと向き合った。
「雷鳴剣?どういうつもりだ」レジエルが訝しげな声を出す。
「私一人では、何も出来なかった。みんなに迷惑もたくさんかけた。一生かかったって償い切れないくらい。でも、そんな私に、また一緒に戦おうと言ってくれた仲間がいる。そんな仲間たちと、一緒に戦いたいって、そう思った」
菜緒の声は力強く、決意が込められていた。その言葉を聞いていると、俄に視界が明るくなるような気がした。
「私の願いを叶えるために、私はみんなと一緒に戦う。それが私が決めた、私の未来」
そう言うと菜緒は、後ろを振り返った。
「久美さん」左手に持った闇黒剣月闇を、軽く掲げた。
久美は嬉しそうに微笑むと、菜緒の元へ歩き出す。
闇黒剣を持っていた菜緒の手も、受け取る久美の手も、とても力強く見えた。まるで闇黒剣を通して、意志の伝達が行われているかのような、単純な力以外の何かが込められて見えた。
「人の想いが、未来を創る。そうですよね?」菜緒が囁くように言った。
久美が頷くと、菜緒の口角が僅かに上がった。久々の菜緒の笑顔に、久美の顔も綻ぶ。
「じゃあ、行きますか」久美が軽快に声を掛けて、菜緒の横に並び立つ。
『ランプドアランジーナ』
『ジャアクドラゴン』
同時にライドブックを装填すると、菜緒は抜刀し、久美は柄でバックルのボタンを押した。
「変身!」
声を揃えた二人が変身した。
これで全ての剣士が揃った。
「よし!久々に全員集合ということで!」久美が拳を突き上げた。「行くぞ!」
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