日向坂×セイバー 特別編 #1

※特別編は剣士たちのリフレッシュ旅行を描いた話です。戦闘シーンは一切ございません。

  ◇ 愛萌

 「着いたー!」
 歓声を上げて、皆がバスを降りていく。
「河田さん大丈夫?」
 久美と彩花に支えられた陽菜が、最後に降りてきた。酔い止めを飲まなかったらしい陽菜は、山道を走るバスの中で酷い車酔いにやられた。ブックゲートですぐに来ても良かったのだが、道中も大事な思い出だろうという意見から交通機関を利用して来ていた。
「ごめんなさい……大丈夫です」ふらふらと歩く陽菜は、全く大丈夫そうではなかった。
「えーっと、ここで一枚記念写真撮ろうと思ってたんですけど」既に玄関前にカメラをセットした美玖がこちらを振り向いた。玄関前では邪魔になるかと思われたが、そもそもこの旅館は秘境的な存在であり、尚且つ十二月下旬という時期は若干半端らしく、他にほぼ客はいないらしかった。ちなみに趣味で写真をよく撮影している美玖が、今回の旅行のカメラマンだ。「陽菜、大丈夫そう?」
「うん、大丈夫。写真くらいなら」よたよたと歩くと、一列目に腰を下ろした。
「他一列目、誰行く?」
 話し合いの末、実際は話し合いという程のものでもなかったが、身長が低い順に芽依、陽菜、優佳、明里、美穂が一列目に座り、残りが二列目に並んだ。
 愛萌は左端にいる菜緒を見つけると、真っ先にその横に並んだ。
「えっへへー、隣もらいっと」ウインクしてみせると、菜緒がくすっと笑ってくれた。
「じゃあ撮りますよー」カメラを三脚にセットした美玖が声を掛ける。タイマーで撮るらしい。
 シャッターを押した美玖が、駆け寄って列に並ぶ。そこからそれぞれが心の中でカウントダウンしながら、笑顔を作ってポーズを維持する。
 しばらくカメラが動く様子がなく、おや、と思ったところで「ねえ、これ何秒?」と史帆が言った。「ってか、シャッター押し忘れてない?」
「確認します」と言って美玖が一歩踏み出した直後、フラッシュが焚かれた。
「え、うそ」美玖が動きを止める。その様子が可笑しくて、皆で大笑いした。
 タイマーの秒数を確認し、再度美玖がシャッターを押した。
 あと一秒のところで、「くしゅんっ!」と小さく聞こえた。あっ、と思った時にはフラッシュが光る。
「誰?芽依?」久美が聞くと、口元を手で押さえたままの芽依が「え、ごめん」と謝った。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
 仕切り直して三度目。先程のくしゃみよりも少し早く、笑い声が聞こえた。思わずそちらに目が向いた時、パシャッと音がする。
「ねえ芽依、ちゃんとしてよー」先輩方が揃って口を尖らせる。
「ごめんなさい!ごめんなさい、次はちゃんとやります」芽依が髪と呼吸を整える。
 その後も、直前に虫が飛んで来たり、今度はひよりが笑い出したり、何故かタイマー設定が解除されて美玖が映らなかったり、そんなことばかりを繰り返して、ようやく二、三枚ほどまともな写真が撮れた頃には、もう昼過ぎだった。
「一旦荷物置いたら、最初の予定の場所に行こうか」
「はーい」久美の指示に、皆で声を揃えて返事をした。
「あ、私手続きして来なきゃ」久美が自分の荷物をまとめて、小走りで中に入って行った。
「じゃあ私代わりに河田さん連れてくよ」史帆が座ったままの陽菜を後ろから抱きかかえて立たせようとしたが、突然動きを止めた。
「としちゃん?どした?」彩花が訊ねると、唖然とした表情の史帆が振り返った。
「やばい。後で話す。まじでやばい」
「え?何それ」怪訝な顔をしながらも、彩花はそれ以上聞こうとはしなかった。

  ◇ 菜緒

 「なあなあ、最初の予定ってなんやったっけ?」
 最初、それが自分に向けた質問だとは気づかなかった。が、何気なく後ろを振り返るとそこには芽依しかおらず、そこで自分が問われたのだと気づく。「なんですか?」
「今からどこ行くんやっけ?」
「えーっと」カバンからしおりを取り出す。元々予定はLINEで共有されるはずだったのだが、愛萌が紙のしおりにこだわったためにこれが作られることとなった。
「いちご狩りですね」最初に聞いた時は、下旬に入ったとはいえ十二月にいちご狩りは早いように思えたが、調べたところもう十分に楽しめる時期らしかった。
「あ、そうやいちご狩り。やったー」嬉しそうに芽依が笑うのを見て、「いちご好きなんですか?」と訊ねる。
「めっちゃ好きー。なおちゃんは?」
「私も好きです。いちご」
「そうなんや。いっぱい食べような」
 なんともあっさりとした会話を終え、二人も皆に続いてバスに乗り込む。

 到着して簡単な説明を受けると、すぐにいちご狩りスタートとなった。
 皆がわっとビニールハウスの中へ走り出す。こういう時に真っ先に走り出すのは大抵先輩方の方で、若いというより子供のような元気さを失わない先輩方が愉快で、自然と口元が緩む。
「私いちごを練乳で食べたことないんだよね」ハウスに入って少しすると、隣に並んだ久美が言った。
「じゃあ今日が初ですか?」
「そう。いちご練乳デビュー」そう言う久美は何とも嬉しそうで、それから「どれが良いと思う?」と聞いてきた。
「どれ、というのは?」
「練乳デビューに相応しいいちご。私こういうの優柔不断になっちゃうから、こさかなに選んでほしいんだ」
 菜緒はしゃがみこんで、近くのいちごを見比べていく。
「これとかどうですか?」
 指さしたのは、特別大きくはないが濃く色づいた、形の綺麗ないちごだった。
「お、めっちゃ甘そう!」早速久美がそのいちごに手を伸ばし、もぎ取った。
 練乳を付けたいちごを咀嚼する久美の顔を窺っていると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「めっちゃおいしい!ベストチョイスだよ!」菜緒の手を取り、ぶんぶんと上下に振る。「こさかなに頼んでよかった!」
 いちごを選んだ程度でここまで喜ばれるとは思っておらず、戸惑いもあったがやはり嬉しかった。
「なによりです」と微笑み返し、今度は自分のいちごを探す。
「あ、いたいた。菜緒ー」
 振り返ると、美穂がこちらに駆け寄ってきた。
「あ、デビュー果たしましたか?」美穂が久美に訊ねると、「そうなの、めっちゃおいしかったー!こさかなが選んでくれたんだよ」と菜緒の肩を叩く。
 何となく照れ臭くて、「で、何で菜緒探してたん?」と話題を戻す。
「ああそうだ、あっちに別の種類がいっぱいあったんだよ。食べ行かない?」
「え!行く行く!」菜緒より先に、後ろにいた明里が反応した。「行こ、菜緒!」と手を取って、今にも駆け出さんとした。
 隣のハウスは先程いた場所よりも一回り大きく、種類も多かった。
「この種類は旬が少し早くて、ちょうど今が食べ頃らしいよ」隣で優佳が教えてくれた。
「ほんと、カゲって何でも知ってるよね」反対隣の彩花が感心すると、「いや、さっきここの農家の人に聞いたんだよ」と笑う。
「あ!こしゃー!」今度は誰かと思えば、ものすごい速さで史帆が走ってくる。
 かと思えば、「はい、口開けて」と言われ、困惑するばかりだ。
「はい?何ですか?」
「いいから、口開けて。あーんって」
 仕方なく言われた通りに口を開けると、その中にさっといちごを放り込まれた。驚いて反射的に口を閉じる。
「かーわーいー!」史帆がばたばたと騒ぐのを見た菜緒はただただ反応に困るばかりで、曖昧な苦笑いを浮かべることしか出来ない。
「としちゃん、なにやってんの……」優佳もさすがに引き気味に見えた。彩花は既に遠くでいちごを物色していた。
 その時、突然視界が光った。何かと思えば、カメラを持った美玖がやってくる。
「タイトル『呆れる菜緒』」と言いながら菜緒に見せてきたカメラの画面には、苦笑している菜緒が綺麗に写っていた。
「何撮ってん……」
「いいじゃん、こういうのも思い出だって」美玖は聞いてもいない。
「あ、じゃあさ、三人で写真撮ろうよ」ひよりがこちらに気づいてやってくる。「同い年の、2002年組で」
「おー!それいいね」美玖が賛成し、優佳にカメラを渡す。「お願いしていいですか?」
「もちろん!はい、並んで並んで」と早速カメラを構えてくれる。そこで、はっと気づいた様子で「みんな、せっかくだからいちご持った方がいいんじゃない?」と提案してきた。
 いちご狩りに来ているのだから最もだ、と三人ともが思い、近くで適当ないちごをもぎ取る。
「揃ったね。いくよー、はい、チーズ」
 シャッターを切る音がする。かと思えば「次、口の前に持ってきて、これからいちごを食べる感じで」と指示が飛んで来た。
 そんなこんなで、カメラマン優佳の指示で何パターンか写真を撮り終えると、いちご狩りの残り時間はもうわずかだった。
 そろそろ戻るべきだろうか、と思い始めたところで、後ろからぽんぽん、と肩を叩かれた。
 さて今度は誰かな、と振り返ると、なんだか嬉しそうな笑顔の芽依がこちらを見上げていた。
「何ですか?めいめいさん」
「なおちゃん、これあげる」そう言うと、菜緒の手にぽんといちごを置いた。菜緒が今日見た中で一番大きく、甘みが詰まっていそうな、濃い紅色のいちごだ。
「いいんですか?」
 芽依はえへへっ、と笑うと、何も答えずに走って行ってしまった。
「あ!すごいそれ!めっちゃ大きい!」突然耳元で声がした。愛萌が、菜緒の肩に顎を乗せて後ろから覗き込んでいる。「菜緒が見つけたの?」
「いや、今めいめいさんがくれた」
「そうなんだ」愛萌がこちらを見上げて、微笑む。「どうだった?」
「どうって、これから食べるんだけど」
「そうじゃなくて、久しぶりにみんなと過ごして」
 ああ、そっちか、と気づく。「すっごく疲れた。いちご狩りだけでこんなに疲れるなんて」
「菜緒、大人気だったもんねー」からかうように愛萌が笑う。
「でも」菜緒は続ける。「でも、それ以上に、すっごく楽しかった」
「さあみなさーん、そろそろ帰って温泉ですよー!」久美の声が聞こえた。

  ◇ 彩花

 最初にこの旅館に着いたのが13時頃、そこからいちご狩りに行ってスタートしたのが14時、30分間のいちご狩りを終えて再び旅館に戻ってきたのは15時半。これから準備する時間を考えても、16時台の内には温泉に入ることになる。
「早すぎない?もう少しなんかしようよ」最初彩花は久美に抗議したが、「18時には夕飯が用意されるし、その後には卓球大会もあるし。それに、冬のこの時間帯って、ちょうど日没と同じくらいだから、空がすっごい綺麗なんだって」と教えられ、引き下がった。すっごい綺麗な空、というのが気になったのもある。というより、それが主な理由だ。
「じゃあ、18時までには食堂に来るように。それまではずっと入っているも良し、上がってお土産を買うも良し、マッサージチェアを楽しむも良し、インスタを更新するも良し。各自自由に楽しんでください。それでは今日はひとまず、解散!」久美の掛け声で、皆がわっと部屋に戻っていく。
「すごーい!夕焼けめっちゃ綺麗!」
 部屋で準備を終えてやってきた時の、誰もいない脱衣場に射し込む夕陽の光が、既に綺麗だった。これは一刻も早く露天風呂に向かわねば、と彩花は颯爽と服を脱ぎ捨てたのだが、右隣の芽依はまだ入って来たときの格好のままだった。
「なにやってんのめい。早く行かないと夕焼け見れないよ」
「としちゃん、先行ってるよ」声がした左を向くと、早くも久美が中へと入っていく。続いて、後輩たちも何人かが入って行った。
「としちゃん行かないの?」
「私、裸を見られるのが一番怖いの」史帆は拗ねたように言う。
「そういえば、さっき言ってたの何だったの?」気になっていたことを聞いた。
「何だっけ」
「最初にここに着いた時だって。集合写真撮ったあも」
「ああ、あれね。あれは」そこまで言うと、突然史帆は彩花の耳元に口を寄せた。
「河田さん見て、河田さん」
 言われた通り陽菜に視線をやる。ちょうど、服を脱ぐところだ。
「えっ!」思わず大声を出してしまい、慌てて目を逸らす。
「ね?やばいでしょ!」史帆が背中を叩いてくる。
「嘘でしょ……河田さんいつからあんなに胸大きくなったの……」下着姿の陽菜の胸は、彩花がこれまで抱いていたイメージよりも遥かに大きかった。「私追い越された……?」
「いや、おたけは元から」
「なんか言った?」
「なんか聞こえた?」
「えー、でもほんとびっくり。軽くショックなんだけど」
「下手したらここにいる中で一番大きいんじゃない?」
 そんな話をしているうちに、陽菜も風呂場へ入って行く。
「ねえめいまだ?」芽依に視線を戻すと、芽依は下着姿の身体を隠すようにタオルを掛けていた。
「タオルとか掛けてるから遅いんだって。あー、服いちいち畳まなくていいから」
 芽依の服をロッカーに、最低限皺にならないように気を配りながら、入れる。
 そこで風が起こったのか、タオルがふわっと舞い、芽依の穿いているピンク色の下着が見えた。
「え、めいのパンツ、マイメロじゃん!かわいー!」
 思わず大声を出してしまった。尻の部分にピンク色のうさぎのキャラクターがプリントされている。
「え、こんなの大人用であるわけ?あ、もしかして子供用?めいなら入りそうだし」
「みないでー!」突然芽依が叫んだ。
「……ごめんって」さすがに謝ったが、芽依は聞こえているのかいないのか、返事もせずまたタオルを掛け直した。
 それから少しして、ようやく揃って風呂場へ入ることが出来た。辛うじてまだ夕陽は射しており、急がなきゃ、と手近なシャワーの前に座る。
 脱衣場に目をやると、奥で史帆がようやく服を脱ぎ始め、菜緒と愛萌が連れ立って風呂場に入ってくるところだった。彩花たちより遅いとなると、一体何をしてたのだろう、と疑問に思い、愛萌が鼻の上の方を押さえているのが気にかかる。

  ◇ 愛萌

 続々と皆が風呂場へ入って行くのを見ながら、愛萌は菜緒を必死に説得していた。
「やっぱり菜緒、部屋のお風呂入る」菜緒がそんなことを言い出したせいで、既に服を脱いでいた愛萌は裸のままで説得をする羽目になった。
「個室じゃ空も何も見えないじゃん!私、菜緒と一緒に露天風呂入るのがこの旅行の一番の楽しみなのに!」
「いや、でも」
「だいたい、この旅館がいいって言ったの菜緒じゃん!せっかくこんなに素敵な旅館選んでくれたのに、本人がそれを堪能しないなんてことがあってたまるもんですか!ほら、早く脱いで!」
 有無を言わさずシャツのボタンを外そうとするが、振り払われる。
「ちょっと、何してん!」
「だって早くしないと、日が沈んじゃうよ?せっかくなら夕焼けも星空も楽しもうよ!」
「あのさ」菜緒がわずかに目を細める。「なんでそんなに必死で説得するの?」
「それはもちろん、その、みんなとの団結力を高めるため、と言いますか」慌てて言い訳を考える。「こういう裸の付き合いが、きっと強固な絆に繋がるんだって。うん、きっとそうだよ」
 正直な所、邪な思いがないわけではなかった。同性とはいえ菜緒に恋愛感情に近いものを抱いている自覚はあったし、それを見て見ぬふりをするつもりもなかった。
 菜緒の身体に興味がないと言えば嘘になる。ただ、それをストレートに言っても余計に引かれるだけだとわかっているため、それらしい理由を繕う必要があった。そんな状態だから我ながら説得力に乏しく、それを誤魔化すためにカウンターを狙った。
「菜緒の方こそ、なんでそんなに嫌がるわけ?」
 菜緒が目を見開き、そして俯いた。追い打ちのつもりで「恥ずかしいんでしょ」と言うと、顔がさっと赤らんだ。
「わからないでもないけどさ」菜緒の肩に手を置く。「せっかく仲間の元に戻って来たんだし、ここは心を開いてさ、全部さらけ出しちゃいなって」その時、奥で史帆やら芽依やらが着替えを渋っているのが見え、あれを見た菜緒に「あれはどうなのか」と問い詰められたら困る、と思い、あやちゃん早くどうにかして!と心の内で祈る。
「菜緒は一人で何でも背負い込んじゃうから。何でもさらけ出せる仲間が出来れば、きっともっと強くなるし、菜緒自身も楽になる」愛萌はずっと本を読んで育ってきたからか、はたまたそもそも本から生まれたからか、言葉を扱うのは得意だった。先程のデタラメを上手く利用しつつ、それらしい言葉を連ねていく。それに、言っていることは全くの嘘ではなくて、本音も混じっていた。そして、ここからさらに本音を強めに出していく。
「それに、さっきも言ったけど、私、菜緒と一緒に露天風呂で景色眺めるの、ずっと楽しみにしてたんだから。大好きな人と静かに空を眺めるなんて、こんなにロマンチックなことないじゃん?」
 菜緒は俯いたままだったが、そろそろ反対しきれなくなるだろうと予想していた。これでトドメが刺せれば、と思いながら口を開く。
「でも、菜緒がどうしても嫌っていうなら仕方ないか。菜緒が喜んでくれなきゃ意味ないし。一人寂しく入ってくるかなあ」
「もう、わかったよ!入ればいいんでしょ!」
「いや、無理にとは言ってないよ?」
「そこまで言われて入らなかったらこっちが駄々こねてるだけみたいやん。準備するから待っとって」
 愛萌は内心でガッツポーズを取って飛び跳ねていた。いそいそと準備を始める菜緒をじっと見つめる。
「えっなんでそこにいるの?まなは先入っててもいいよ」視線に気づいた菜緒が言う。
「待っとってって言ったやん」
「露天風呂入るのは待っとってってことやん。それに、中途半端な関西弁使うと怒るで」
「はあい。でも私はここで待ってるよ。出来るだけ長く一緒にいたいから」
「……勝手にしいや」
 菜緒がタオルやら何やらを取り出すのを、すぐそばにしゃがんで見守る。
「だから、なんでそんなに近いんだって」服に手を掛けた菜緒が呆れたように言う。「今から着替えるんだから、あっち向いてて」
「え?なんで?」
「なんでって……人の着替えなんて普通見いひんやろ!恥ずかしいやん」
「菜緒、そういうところだよ」意味深な笑みを菜緒に見せると、菜緒は諦めたような顔で着ていた上着を脱いだ。
 とうとう菜緒の上半身が下着のみになった。胸と下着の間にわずかながら隙間があるのが目に入る。
「菜緒、ちゃんとご飯食べてるの?」
「なんで?」
「痩せたでしょ。それに、下着との間に隙間できてるよ。胸もちょっと萎んじゃったんじゃ」
「どこ見てん、ほんまに」スカートに手を掛けた菜緒が動きを止めて口を尖らせる。恥ずかしさからか、いつも以上に関西弁が強く出ているのがかわいらしい。
「ごめんって。続けて続けて」
 渋々といった様子で菜緒がスカートを下ろす。
 全身下着姿になった菜緒の身体をざっと眺める。上下とも無地で真っ白の下着が、いかにも菜緒らしかった。
 いよいよ、などと言うと下心丸出しになってしまうが、菜緒がブラジャーを外した。特別大きくはないが、綺麗な形で程よい大きさの乳房がぷるんっ、と揺れた。
 その下に目をやると、きゅっとくびれたウエストが見える。そこから腰にかけて徐々にふくらむ女性的で官能的な曲線はそのまま脚へと繋がる。山の稜線を描くようなヒップラインをなぞるように、菜緒がショーツを下ろしていく。適度な太さと肉感を備えつつ、決して弛みのない締まった脚を、純白の布が滑り落ちた。
 一糸まとわぬ菜緒の裸体は本当に美しく、射し込む夕陽も相まって神々しさすら感じさせた。
 愛萌は初めて見る菜緒の裸に興奮を抑えるのに必死で、まともに口が聞けなくなった。
「まな?どうかした?」怪訝そうに菜緒が顔を覗き込んで来るので、「ううん、なんでもないよ!さあ、入ろう入ろう」と菜緒の背中を押していく。その時見た真っ白な背中も美しく、愛萌の興奮はさらに増した。
 温泉を出るまでは絶対に粗相をしてはならぬ、と鼻を押さえながら、どうにか興奮も抑えてシャワーの前まで歩く。

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