江戸絵画の華
行ってたんだけれど、レビューを書いていなかった展覧会シリーズ、第2弾。もう一年経ってしまいましたが、去年(2023年)出光美術館で開催されていた『江戸絵画の華』展です。
プライスコレクションの受け入れ
タイトルだけだと、その有難さがよくわからないんですけど、2019年に出光美術館が購入した故エツコ&ジョー・プライス(Joe D. Price)夫妻(当時は存命)旧蔵の江戸絵画から約90点を厳選して公開したものです。本当は受入直後に展覧会を予定していたようですが、コロナの感染拡大で開催中止、ようやく2023年1月に出光美術館所蔵品としてまとめて公開されました。
世界一の伊藤若冲コレクターであるだけでなく、それ以外の同時期の画家による素晴らしい作品を所有していたプライス夫妻から、まとめて190点もの作品を受け入れた出光、さすがです(経緯を知ることができる記事を見つけましたが、ちょっと感動もの)。
有楽町のビルにある小さな美術館で、一気に90点の絵画展示は不可能で、会期の前半は「若冲と江戸絵画」、後半に「京都画壇と江戸琳派」という二部構成で公開されました。
実は私、プライスコレクション自体は以前に見たことがあります。東日本大震災復興支援のために貸し出されて東北三県の博物館で公開されたのを、東京から見に行ったんです。今回の展覧会の第一部でも展示された伊藤若冲の『鳥獣花木図屏風』の、日本画のイメージを覆すポップさに、会場で屏風の前にいる人達が、世代・性別を問わず嬉々として見入っていたのが今でも印象に残っています。
この展覧会で出品された作品は、その時に公開された作品群に比べて印象としては少し控えめです。有楽町の出光美術館自体も出光の所蔵品も、派手な方ではなく、素朴で品が良いものが多いので、場所にしっくり馴染んでいて、好感が持てました。
企画側からすれば、この展覧会の構成を考えるのはとても難しかっただろうと想像します。江戸絵画とはいっても多種多様で、そんなコレクションを秩序立てて展示するには、ある程度のストーリーというか、流れのようなものを作る必要があったと思うので。
若冲と江戸絵画
私が思うに、第一部はモチーフつながり。伊藤若冲を中心に据えて、そのモチーフに動植物が多いことから、コレクションの中で動植物を描いた他の画家の作品を紹介、後半では出光美術館の従来コレクションの充実をアピールする肉筆浮世絵が展示されていました。
どれが印象に残ったか答えるならば、若冲の『鶴図押絵貼屏風』でしょうか。六曲それぞれの屏風に鶴が墨で描かれているんですが、空白が多くてあまり描き込んでいないところに、微妙な構図でサラッと描かれた鶴が印象的。
迷いがあったら、こんなの、絶対描けないかと。筆致が潔さに感動しました。
京都画壇と江戸琳派
後日改めて訪れた第二部は円山応挙と円山派、酒井抱一と江戸琳派というのがテーマでした。地域比較なんですかね。
写生を重視するという円山派ですが、私にとっては応挙の作品で印象に残っているのって、この展覧会で展示されていた『虎図』のトラのような可愛らしく癒し系な動物画です。
この展覧会でのお気に入りは応挙の息子、円山応瑞の『鳥魚図巻』。博物図譜を見るの、結構好きなんですけれど、この作品はそういう雰囲気もありつつ、水の中をゆったりと泳ぐ魚の感じがよく出ていて、絵の中にのんびりとした空気を感じたんですよね。
江戸琳派も素敵でした。琳派の作品を見始めた頃は尾形光琳が鮮烈すぎて、酒井抱一とか鈴木其一とかの作品は、それに比べると精彩に欠けるような気がしたものですが、いくつも作品を見ているうちに自分も年を取ったせいか、今は展示されていた抱一の『十二か月花鳥図』くらいが丁度良いというか。
出光の所蔵品として
出光興産の創業者、出光佐三の個人コレクション、作品の種類や時代・様式に大きな偏りがなく、サイズ感も身近なものが多い気がします。アクセスも良くて、広すぎないので日本美術にどっぷりとハマれない私のような鑑賞者にも優しい美術館です。そんな出光美術館に加わったプライスコレクションの江戸の絵画。
次の機会には、勝川春草の肉筆画コーナーとか、酒井抱一中心の琳派展とか、元々の所蔵品と今回見た作品を一緒に見れたらいいな。
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