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京都の八百万の神よ、モモコのことは見ていますか 【0円生活6日目】

"Saturday"
(退屈そうに。死んだ魚の目をして)

もう6日目にもなると、英数字か漢数字かで迷っていたことすら忘れてしまう。そもそも、なぜそんなことで迷っていたんのか、そちらの謎が深まる。

(朝起きて、おにぎり屋さんの制服に着替えるモモコ)
「なんで〇円生活する先々、寒いトコロばっかりなんやろ」
モモコは寝起きのガラガラ声ガラガラヘビで、ぼそっと呟いた。

(おにぎり屋さんでの仕事を終え、家に帰ってくるモモコ)
モモコは明日のOpen Houseに向けて準備をし始めた。ベッドを動かしたり、ドアを取り付けたりと、案外人を迎え入れる準備は忙しいのだと実感した。

神戸の友人からLINEが来た。
「日本に住んでいるアイスランド人を知らない?」
一人も知らなかったモモコは悔しさにした唇を噛む。Instagramで見つけた、義肢会社で働いているムキムキのアイスランド人しか知らなかった(ちなみに、アイスランドにはÖssur社というとても有名は義肢を作る会社があり、日本にも支社があるのだ)。
「君のアイスランド熱を過大評価していたよ」
その友人は皮肉たっぷりにそう言った。

(2時になり、家を出るモモコ)
(場面変わって、東山湯温泉。開店の準備をする東山シロー。小さな小さなフロントに座り、腿がぎりぎり入るか入らないかの縦のスペースに身を収めるモモコ)

フロントの向かいの壁の上の方に、スイッチがいくつも並んでいた。東山シローは傘の柄で一つ一つ入れ、
「ん、まだ暗いな。ライトはどれや」
と悪戦苦闘していた。
「いっつもお母さんがこれやってるからな、オレ分からんねん」

東山シローはどのスイッチがどれか、まったく把握していなかった。

永遠の若大将・東山シローは、満身創痍の身であった。親戚のご不幸のため外出の用ができたお母さんの代わりにフロントの仕事を頼まれたとき、たしかお母さんは「2時半から3時半まで」と言っていた。しかし東山シローは
「ちょっと、オレがストレッチ終わるまでそこに座っとってくれるかー」
と言った。
東山シローは男湯の脱衣所で、立ったり座ったり横になったりして、入念に足腰のストレッチを行う。途中、やってきたお客さんが東山シローに話しかけ始めた。
「○○通りのな、まんなんクリニックゆうとこがな、ええらしいわ。でも最後の手段や、まんなんは」
ひとしきり喋り終えると、そのお客さんも東山シローのストレッチに加わった。
脱衣所内に流れるシローが大好きなビートルズ、脱衣所でストレッチする二人のおじいちゃん、フロントに座るモモコ、と、これを神はどんな面持ちで見ているのだろうとモモコは思った。京都は八百万の神の地だから、ひと言に神といってもいろいろな見解があることだろう、とすぐに思い直した。

(暗転)
(東山湯温泉を後にし、てくてくと歩くモモコ)

良い温泉だからもっと続いてほしい、そのためにも、東山シローにはストレッチを頑張ってもらわないといけないのだった。夕方、日が傾いた帰り道でそう思ったモモコだった。


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