〇円女、昭和は知らないけど昭和に想いを馳せる 【0円生活5日目】
"Friday"
(退屈そうに。死んだ魚の目をして)
(おにぎり屋さんでの仕事後、左京区の定食屋『大銀』にて)
(モモコとおにぎり屋社長、広々とした店内に入りレジカウンターに向かう。社長、カウンターにいるおばちゃんに話しかける)
「日替わりのセットと、アジフライのセットね、お願いします」
社長は日替わり定食を頼み、モモコはアジフライ定食を頼んだ。おばちゃんに空いているテーブルを指さされ、二人は席に着いた。野菜炒めの大皿と焼き魚の大皿が乗った日替わり定食の盆が先に社長の前に置かれ、その数分後、どんぶりの器ほどもあるお茶碗に盛られた白米とアジフライが三枚も乗った大皿がモモコの前に置かれた。
(もくもくと食べるモモコ。もぐもぐと)
社長は食べるのが非常に早かった。焼き魚の身がみるみるとそぎ落とされるのを見ながら、モモコはアジフライを噛んだ。この前大分県臼杵市に行ったとき入った居酒屋さんのアジフライが思い出した、あのアジフライはやはり格別だったのだと舌が言うのが聞こえた。胃袋や小腸、大腸までもが賛同した。これは不公平だ、とモモコは思った。社長は〇円生活の暮らしぶりについて質問するが、食べるのも話すのも一つの口では両立できないため、モモコはますます完食への道のりが長くなり、社長との差は広がった。
(社長とおにぎり屋さんで別れ、帰路に就くモモコ)
物々交換ボックス、近所の小学生曰く「物置」を少し作る。
(午後4時。夕闇が迫る)
(ビニール袋の中に入ったおにぎりを手に、荒神橋へと歩き始めるモモコ)
モモコは午後5時に荒神橋に行きたかった。SNSで皮下組織を露わにしたスマートフォンの充電器を見たオクダさんが、充電器を持ってきてくれることになっていた。
コンセントにさすところを持ってない、と言うと「オヨヨ」と言われた。〇円生活、オヨヨなことばかりのモモコは、オヨヨ抗体が体内にできてしまっていた。荒神橋、というバス停に行って待ったが、バスを待っている中学生しか人間がいなかった。もしや、とモモコは思った。
(道中通り越した橋のところへ行くモモコ。オクダさんは道路に向かって立っている)
メガネをかけた長い影が伸びていた。
「オクダサンダッ!」
思わずモモコは叫んだ。バス停じゃなくて、本当の橋。モモコはそれが嬉しかった。
おにぎりと充電器を交換した。充電器が入っていた紙袋には眼鏡をかけたトラネコがいて、まるでオクダさんだと思った。神戸に残してきたネコのクマ(仮)(今年8月に来てからというものずっと仮名)がモモコは恋しかった。紙袋のネコがまた、モモコは嬉しかった。ALWAYS三丁目の夕日、とか、二階堂大分麦焼酎のCMとか、そんな世界にこの日、モモコはいたのだと思った。
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