令和2年版「防衛白書」の中国についての記述を読む


 今年の防衛白書が出たので、中国についての部分(第Ⅰ部第2章第2節)を読んでみました。気になったところを引用して、少しコメントを書きます。

中国の核戦力について

中国は、核戦力及びその運搬手段としてのミサイルについて、1950年代半ば頃から独自の開発努力を続けており、抑止力の確保、通常戦力の補完及び国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。核戦略に関して、中国は、核攻撃を受けた場合に、相手国の都市などの少数の目標に対して核による報復攻撃を行える能力を維持することにより、自国への核攻撃を抑止するとの戦略をとっているとみられている。その上で、中国は、核兵器の「無条件の先行(第一)不使用」、非核兵器国及び非核兵器地帯に対しては無条件で核兵器の使用及び使用の威嚇を行わないとする「無条件の消極的安全保証」、自らの核戦力を国家の安全保障に必要となる最低限のレベルに維持するといった核戦略を堅持すると表明しているが、一方で、近年はこうした説明に疑問を呈する指摘もある。

 とにかく抑止力を重視しているようです。同時に、核戦力を保有していることで、国際社会において自国の発言力が高まる、とも考えている。
 使用に関しては、中国側から先に使うことは絶対にないと表明している、とのこと。核攻撃を受けた場合にやり返すだけ。だから、核攻撃の能力を持たない国、つまり非核兵器国に対しては、中国が核攻撃をすることはないし、核攻撃するぞと脅すこともない、という方針になっているそうです。本当ならいいのですが。

海洋における動き

中国は、特に海洋において利害が対立する問題をめぐり、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みやその既成事実化など高圧的とも言える対応を推し進めつつ、自らの一方的主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示している。
中国は、尖閣諸島周辺において力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗に継続しており、強く懸念される状況となっている。

 新たな国際秩序をつくっていく。その一環として、「執拗に継続して」係争海域での活動を行う。そして、それが常態化して、普通のこと、当然のこと、当たり前のことになるようにしていく。いつの間にか「既成事実化」してしまうようにする。
 常識とかトレンドとか世論とかは、時とともに、少しずつ変化していきます。中国は、その変化を人為的に生じさせることが得意な国だと思います。「力を背景とした現状変更の試み」は一種の宣伝工作なのかもしれません。

さらに、海警の体制強化も確認されている。中国の海上における監視活動などは、従来、国土資源部国家海洋局「海監」、農業部漁業局「漁政」、海関総署海上密輸取締警察などを統合した「中国海警局」が中国国務院公安部の指導のもとで実施してきた。「中国海警局」は18(平成30)年7月、武警隷下に「武警海警総隊」として移管され、中央軍事委員会による一元的な指導及び指揮を受ける武警のもとで運用されている。

 「中国海警局」は、もともと国務院(政府)の管理下にありました。それが、2018年の省庁再編によって、中央軍事委員会の指揮下にある人民武装警察部隊(武警)の一部となりました。政府ではなく、軍の指揮で動くようになったわけです。
 これに合わせるために、今年5月下旬に開催された全人代では、「人民武装警察法」が改正されました。法律に則って動けるようになったため、今後、活動がより活発になることも考えられます。

さらに、軍以外の武装力の一つである民兵の中でも、いわゆる海上民兵が中国の海洋権益擁護のための尖兵的役割を果たしているとの指摘がある。海上民兵については、南シナ海での活動などが指摘され、漁民や離島住民などにより組織されているとされているが、その実態は明らかにされていない。
なお、中国の武装力の一つである民兵の中には、サイバー領域における能力に秀でた「サイバー民兵」も存在すると指摘されている。

 そうなんです。中国には「民兵」が存在するんです。中国の「武装力」は、三つからなります。人民解放軍、人民武装警察部隊、そして民兵。
 民兵って何なのか、よくわからなかったのですが、この防衛白書の記述をみる限りでは、海上の場合は「漁民や離島住民など」がときに何か指示を受けて実行する、ということなんでしょうか。
 「サイバー民兵」には「五毛党」も含まれるんでしょうか。まあ、世論誘導の大役を担ってるわけですから、当然含まれますよねえ。

中国は、18(平成30)年1月に北極政策に関する白書「中国の北極政策」を発出し、そのなかで、北極海航路の開発を通じて「氷上シルクロード」の建設を進めることとしているなど、北極事業への積極的な関与も打ち出している。科学調査活動や商業活動を足がかりとして、北極海において軍事活動を含むプレゼンスを拡大させる可能性も指摘されている。

 北極海もそうですが、中国はとにかくいろんなところに影響力を拡大しようとしています。宇宙空間やサイバースペース(インターネット空間)。最先端の技術開発の分野。「健康シルクロード」なんてのも。デジタル通貨でも一歩先を行こうとしています。

外交など

同時に、中国は、持続的な経済発展を維持し、総合国力を向上させるためには、平和で安定した国際環境が必要であるとの認識に基づき、「人類運命共同体」の構築を提唱しつつ、「相互尊重、公平正義、協力、ウィン・ウィンの新型国際関係」の建設推進について言及している。

 確かに、国際的な行事などでの演説で、毎度のように言及していますね。「人類運命共同体」。でも、実際には国際環境はどうなってしまったでしょうか。なんか、どう考えても、自分を窮地に追い込んでるとしか思えないのですが。中国にとっての「平和で安定した国際環境」とはいったいどんなものなんでしょうか。疑問だらけです。

中国は朝鮮半島問題に関して「3つの堅持」(①朝鮮半島の非核化実現、②朝鮮半島の平和と安定の維持、③対話と協議を通じた問題解決)と呼ばれる基本原則を掲げているとされ、非核化のみならず従来の安定維持や対話も同等に重要との立場を採っていると考えられる。

 中国の肩をもつ国がどんどん減ってきていますから、北朝鮮にとっては中国に取り入るチャンスですよね。
 ここ何年かの外交的駆け引きをみてると、北朝鮮のほうが上手のような気がするのですが、どうなんでしょうか。中国は、外交が全然うまくいってませんよね。どうしちゃったんでしょうか。以前はもっと狡猾にうまいことやってたように思うのですが。

※『令和2年版防衛白書』(防衛省、PDFの閲覧)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?