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立浪和義監督の「戦う顔」を考える

野球好きとして、今年のバズワードは、中日ドラゴンズ 立浪和義監督の発した、「戦う顔をしていない」発言だ。打撃に悩み、得意の守備までガタが来てしまった京田選手を懲罰降格した時に出た発言。

私は根本的に、立浪監督の世界観が間違えている、と思っている。

戦う顔してないのは、選手が甘ちゃんだから。なのか?

立浪監督は、就任前から、彼の世界観が溢れでる発言を多々していた。象徴的なのは、「(前年5位に終わった中日の選手が)負けてる時に笑っている選手がいる」と選手の気構えを問題視する発言をTVでしていたものだ。

この発言から見えるのは、負けてるのにヘラヘラ笑っているとは、「選手が悪い」、ぶっ弛んでる、舐めてる、という世界観だ。悪いのは選手。悪いのは選手の甘ったれた根性。曲がった根性は叩き直してやる、というわけだ。「強制的な矯正」の視線で、選手を眺めている。

この世界観は、昭和では当たり前だった。私のような中年おじさんは、こういう発言を聞くと、自分たちの青春時代を思い出して懐かしい気分になる。僕らの部活の頃、まさにこんな指導者・先輩に溢れておったな、と思う。

ただ、このような「強制的矯正」の方針は非常に脆いし持続性も無い。調教師のムチが飛んでこないように、調教師に都合の悪いことを調教師の目から隠しにかかるからだ。衆人環視の中でプレイするプロ野球選手には難しいことだが、見てないところでサボる、都合が悪そうなことを隠す、無理をして取り繕う、矯正のムチを恐れて大胆さを失い自分で考えることがなくなる、相手と戦うより調教師の目と戦うようになる。

そう考えたら、京田選手が「戦う顔をしていない」のも、別の何かと戦ってしまっていたからなのかもしれない。

「状況が整えば、自然と戦う顔になる」という考え方

立浪監督的な調教世界観と異なる世界観に、「状況が整えば、自然と戦う顔になるよ」という世界観がある。これは言い換えると、「状況を整えてないから、選手の顔が戦う顔にならないんだよ」である。

喩え話を使おう。仲間のいる部屋に入ったら、机の上にあと1分で爆発する時限爆弾が置いてある。ところが、仲間はみなお喋りやスマホに夢中で呑気なものである。これは、仲間がみんなアホで間抜けだからなのだろうか?

仲間がアホで間抜けなんだ、たるんだ根性を叩き直す!というのが調教師の考え方。ところが状況整備世界観で言うと、「これは、机の上にあるものが、あと1分で爆発してしまう時限爆弾だと仲間が認識できてないんだ」と言う見え方になる。

状況整備派は、「おい、机の上にあるのは、1分で爆発する時限爆弾だぞ!」と仲間に知らせるだろう。知らないから呑気なんであって、知れば皆急いで対処するはずだ、と思っているからだ。

話を「戦う顔」に戻す。選手が負けているのにヘラヘラしているのを見た時、状況整備派と言うのは、「選手がヘラヘラしているのは、自分の惨めな状況が客観的に認識できてないか、目標すら失って惨めさすら感じなくなっているか、もはや自分たちに勝てるわけないと絶望しているからだ」と捉える。

そうするとやるべきことは、選手に、正しい自己認識と目標と希望を与えようと行動するだろう。同じ選手でも、持つべきものを見失った時と、しっかり持っている時では、パフォーマンスが雲泥の差を示すものだ。

で、立浪監督は、与えるべきものは与えてるのか?

立浪監督は、故・星野仙一監督を模倣している、とはよく言われる。ただ、星野さんのような家族的近親コンタクトを立浪監督が模倣できているようには見聞きされない。一方で、星野監督の2面の1面である、表の厳しさの方は模倣しているように確かに見える。

星野さんはおそらく、表の厳しさと裏の温かさのセットがあって、チームにファミリー的団結をもたらしていたように思う。煩わしさとか負の側面も含めて、良くも悪くも、ファミリー的な濃い凝集力は、裏の顔もあってこそだろうと思う。表の顔を模倣しているように見える立浪監督は、果たして裏の顔も模倣できているのだろうか。

一方で、状況整備派の観点で言うと、立浪監督は選手の技術とか気構えとかそういった現在状態の問題指摘の前に、果たして客観的状況のシェアや、目標設定の伴走や、希望の伝授をできてるのか問いたい。客観的状況が見えてなければ、目標とのギャップもわからない。目標を持っていない人間は、エネルギーを正しく注げない。希望を持っていない人間は、エネルギーが生まれない。

エネルギー感、言い換えると「勢い」が出てない人間・集団は、何をやってもうまくいく訳がない。逆に多少荒削りだろうが計算外だろうが、勢いが継続的に全開になっていれば、どうあれ事は動く。中日の場合、長い沈滞が問題にみえ、それはちょっと前のオリックスバッファローズに似ていると思う。まず勢いを出すためにどうするか、を考えることが、若いチームの成長力を引き出し、今の予想・計画とは違うかも知れないが予想外・計画外な成長をも生み出してチーム力を伸ばすんではないか、と思ったりする。

中日ドラゴンズを建て直したら、それは凄いことだと思う。私は、外から見てる限り、今のやり方は沈滞ムードを一層沈滞させかねないと危惧するが、そんな素人予想を裏切る結果を期待したい。

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