見出し画像

やっぱり嵐を呼ぶ斎藤陥落のカオスが大成功なワケ

フェザー級王者の額に大きな傷が刻まれ、血が滴り落ちる。チェックの末、ドクターストップ。勝ち名乗りをあげる牛久選手。斎藤選手は自ら賭けに差し出したベルトを失い、RIZINフェザー級は日本のメジャーMMA団体史上に類をみない混沌を迎えることになりました。

今回のRIZINは「2022年への布石」

RIZINには時折戦略的に「種まきの大会」と位置付けが明確な大会があります。例えばRIZIN17(2019.7)です。堀口一強のバンタム級で上位日本人を「四天王」として売り出し、メインも矢地vs朝倉未来の遺恨試合に託しました。今振り返ると違和感はありませんが当初、世界VS世界 日本VS世界 だったRIZINの世界観では異質なマッチメイクでした。

コロナ禍を迎える前の投資だったのですが、今思えばこの大会での種まきがなければ2020年でRIZINはつぶれていたかもしれません。外国人が呼べない、日本人選手にも注目が集まっていないという状況では大会に熱が生まれるはずがありません。

さて、今日おこなわれたRIZIN31は同様に明らかに「種まき」を目的にした大会でした。

斎藤選手をメインに据え単独ポスターに仕上げつつ、フェザー級は全4試合をマッチアップ。「朝倉未来級」とも揶揄された同階級を「朝倉未来抜き」でも成り立つものに仕上げる意志がハッキリと打ち出されました。

これはRIZIN17で行われた「四天王」の売り出しと同じ流れです。「バンタム級」を「堀口の階級」から、独立した商品へ。あのとき撒いた種が2021年、堀口不在の日本人GPの盛り上がりにつながっています。

まさかの王者陥落は成功か失敗か

自らタイトルマッチを志願し、試合も優勢に進めた斎藤チャンプが膝の一撃でまさかの陥落。せっかくRIZINが売り出したのに残念・・と思う向きもあるかもしれません。でも筆者としては、おそらく運営は全然がっかりしていないと思うのです。

というのも、今回の大会の目的は「斎藤選手の売り出し」でななく「フェザー級の確立」が目的だったと思うからです。

「正直横一線だと思う」煽りVで金原選手が放った言葉が印象的です。

堀口一強のバンタム級とは明確に異なる点です。

絶対王者主義だった日本MMA

これは筆者の持論ですが、実は日本のメジャーMMAは「チャンピオンベルトと人気の継承」が上手に連綿と続いた経験があまりありません。

というのもかつて隆盛ほこったPRIDEは桜庭、ヒョードル、シウバなどの活躍で人気が爆発してから実質5年ほどで活動停止、DREAMも短命に終わったため中心選手はキャリアのピークでベルトを守り続けることが多かったためです。

このためヘビーといえばヒョードルは、ミドルといえばシウバ、ライトといえば五味 というように「1階級1アイコン」の絶対王者が人気、実力ともに象徴的に君臨した印象が強くあります。実はシウバはダンヘンにタイトルを譲り、五味にも青木という次世代エースが迫っていたのですがいずれもPRIDE崩壊の境で有耶無耶になってしまいました。

階級は「スター」が創造するものです。ミドルは桜庭が創造し絶対王者シウバに渡しました。ライトは五味が創造しました。スター不在のウェルターは実はとても面白かったのですが余り人気は集まりませんでした。

絶対王者不在のRIZINバンタム、フェザー、2022年のキーワードは「群像劇」

堀口恭司の活躍で、いち早く商品価値を磨いたバンタム級。「絶対王者かつ一番人気」だった堀口選手のBellator移籍により岐路を迎えています。フェザーには「一番人気」の朝倉未来が創造しましたが、いまのところ圧倒的な実力NO1は存在していません。

こう考えると異なる道をたどってきた両階級ですが、実は2022年の課題は共通しています。

「絶対王者不在」

です。

那須川天心は卒業し堀口恭司が離脱、RENAもキャリア終盤を迎え女子アトムは停滞。

実は磨き上げてきたスターが不在になる2022年は今後RIZINが持続的に成長していくうえで明らかな「危機」を迎えています。しかし、チャンスもあります。

「絶対的なエース」は不在の中でも成り立つ興行・コンテンツに必要な要素はなんでしょうか。筆者は「群像劇」だと思います。

つまり1つの強い「個」のストーリーがない以上、「複数の選手それぞれの物語」を複層的に描き、束ねていくアプローチをとる、ということです。

王者陥落でようやく始まった「斎藤裕の物語」

その中で、斎藤選手はその肝のすわったキャラクターこそ浸透し一定の人気を得てきました。ただ、実は朝倉未来のスターパワーのお裾分けを膨らませてきた側面が強く、いまいち「斎藤裕のストーリー」に欠けていました。

もしかしたら今回の王者陥落で「斎藤裕は終わった」という声も出てくるかもしれません。

筆者は全くそうは思いません。むしろ彼の物語は、今日始まったのです。

「まさかの王者陥落から這い上がる斎藤裕」の物語です。

他にも今日は本当に様々な物語の1ページ目が生まれました。

・裏番長、金原の階級あげてのフェザー級への宣戦布告

・フライ級という未開の階級で伊藤裕樹、伊藤盛一郎、橋本が躍動

・浅倉カンナ「永遠の2番手」ポジションからの陥落

・女子アトムに寝業師・大島という新たなキャラクターの登場

など。これらすべてが2022年の「群像劇」を分厚くしていくに違いありません。

おもえば、今大会は「敗者」にスポットライトをあてた群像劇的なオープニングで幕を開けました。

メインとセミがいずれも、常連選手の敗北に終わり、大会内容を予期したような形になりました。

メインで敗れた二人の選手にはオープニングVの言葉を改めて贈りたいと思います。

「勝つことも、負けることも、怒ることも、泣くことも。」

「いつも、負けてから また強くなる。」








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?