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RIZIN地上波問題をマーケティング的に考える

「例の件」が報じられて以降、RIZINに地上波がなくなったら・・・という心配が各所が飛び交うようになりました。

「あるにこしたことない」のは大前提。広告業界の片隅で飯をくう立場として、ちょっと考えてみたいと思います。

「格闘技興行」マーケティングファネルのあり方

「地上波がなくなるとRIZINに新規ファンが入ってこなくなる」そんな声がよく聞こえてきます。本当にそうなのでしょうか。

マーケティングには「ファネル」という考え方があります。日本語でいうと「ろうと」。

「認知」(知ってもらうこと)から「購買」(商品を買ってもらうこと)までを逆三角形の図にしたものですね。

消費者は、知る⇒興味を持つ⇒買うかを検討する⇒購入する と段階を踏んでいくが、その過程で数は減っていきます。

なので、最終的に買ってくれる人の人数がふえるように「認知」されている数を増やしましょう!CMをバンバン打ちましょう!3億円下さい!といった感じで広告屋さんに使われたりします。

地上波CMに代表されるマス広告はこの「認知」を効率的にとれる、とされています。
デジタルシフトが進んだ今でも、一夜にしてウン千万人の目に商品名や会社名を届けられる媒体はテレビの他にありません。
要は、「名前を聞いたことがある」状態にすることが得意です。

RIZINは地上波放送していることで筆者が会社の同僚と話ていても体感で50%以上の人が「あの大晦日にやってる・・なんだっけ、RIZIN・・?」という認知を得ています。
修斗やDEEPといっても知ってるのは100万人に1人くらいでしょうから地上波の認知効果はやはり絶大ですね。

広告屋さんの言葉を借りれば「認知されてるから最終的に来場者やPPV買ってくれる人の人数がふえます!やったね!」状態です。

現実はどうでしょう。
少なくとも筆者の周りには「Youtube」きっかけでここ数年でファンになった人はいても地上波きっかけのファンは見たことがありません

なぜでしょうか。

「知っている」と「好き」「親しい」は全然違う

話はかわりますが、筆者はビジネスの立食パーティが苦手です。10人、20人と名刺交換をして5分くらいの社交辞令を繰り返す歓談。記憶力がよくないので後で顔と名前は殆ど一致したことがありません。

でも30分でも商談をした相手のことは、さすがにハッキリと覚えています。
飲みにいって砕けた話をした相手なら「好意」や「親しみ」を持つようになるでしょう。

「名前を聞いたことがある」と「好意や親しみを持っている」の間には大きなへだたりがあるということです。

「親しみや好意」を形成するための大きなポイントが「接触機会と時間」です。
言葉をかえると「相手の可処分時間のうちどれだけを占有できるか」です。

筆者はスポーツ観戦には「感情移入」が重要だと考えています。
感情移入、とはどちらかの「勝ち」を期待して応援することです。

ここまで言えばもう自明だと思います。

地上波で選手やRIZINを知った人はなぜ会場に来てくれないのでしょうか。

「名前を知ってるだけでは応援したくはならないから」です。

朝倉兄弟がくつがえした「格闘技ファン」の育ち方

格闘家は年に数回しか試合をしません。
多くて年に数回しかスポットライトを浴びるチャンスがない、ということです。
唯一の接触機会が「試合前後」なので乱闘会見や、煽りVでの選手紹介が重要だったワケです。
でも、限られた地上波放送の中で、選手単体の好意度や親しみをつくるための「接触時間」が十分に確保できるハズがありません。

朝倉兄弟はYoutubeにより格闘家の「稼ぎ方」をかえました。
実はもう1つの革命を起こしています。

それはYoutubeによる圧倒的な「接触機会と時間の確保」です。
若者の暮らしの中に動画コンテンツを軸に入り込み、毎日のように「朝倉兄弟」に触れ続ける。
その兄弟が試合をするなら、勝敗が気にならないはずがありません。

RIZINという舞台に興味がなくても、朝倉兄弟自身には親しみを感じる、そんなファンが大量に出現しました。

「箱推しからの選手個人のファンに」という入口しかなかった格闘技興行のファン育成に「選手推しからのRIZIN箱推し」という逆転減少がおこった瞬間です。

そして「素晴らしい試合を見てもらえば格闘技の魅力が伝わる」「そのためには地上波放送が必要」という定説が覆された瞬間でもありました。

考えてみれば、UFCが飛躍したきっかけはTUFというリアリティショーです。

数か月にわたり選手の人間性が伝わるドキュメンタリー。
シーズン終了後には「コーチ対決」と「生徒同士の決勝戦」が待っている。
選手を消費者の「身内」にすることに成功したワケです。

朝倉兄弟がつくったYoutube起点のブームはRIZINにとっての「TUF」でした。
そしてそれは地上波で得られる「浅くて広い認知」よりもYoutubeで得られる「狭くて深い認知」の方がよっぽど購買に近い、という革命でもありました。

いま、格闘技ファンや格闘技ファン潜在層による「格闘技由来コンテンツへの接触時間」は空前の水準にあるのではないでしょうか。

「格闘技興行」マーケティングファネルのあり方

ここまでを振り返ると「RIZINには地上波はいらない!」と結論づけてしまいそうになりますが、最初に書いたように「あるにこしたことない」と思います。
筆者の周囲にはいませんが少なからず地上波からファンになった人もいるでしょう。
「地上波で放送されている」というのは権威性・メジャー感の源泉でもあります。放映権料のほかにスポンサー料とも密接にかかわるでしょう。

ただ、いまのRIZINはPRIDE自体とは全くことなる「ファン獲得」の方程式が定着しつつあるのも事実。PPVも売上の大きな支えになっているようです。

願わくば地上波が引き続き継続することは祈りつつ、地上波一本足打法からの脱却がこのまま成功していくことを期待したいと思います。

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