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ストラングラーズ――「武器としてのロック」

 ストラングラーズ(The Stranglers)は、英国の「初期5大パンク・ロック・バンド」の一つである(ちなみにほかの4つは、セックス・ピストルズ、ダムド、クラッシュ、ザ・ジャム)。

私がいちばん好きなパンク・バンドであった。 
とくに好きな初期の3作、『夜獣の館』(1st/77年)、『ノー・モア・ヒーローズ』(2nd/77年)、『ブラック・アンド・ホワイト』(3rd/78年)を、久々に引っぱり出して聴いてみた。

「好きだった」と過去形で書いたが、ストラングラーズは一度も解散せずに現在も活動をつづけているバンドである。
ただ、途中から音楽性が変わって軟弱になってしまったし、1990年には中心メンバーの一人ヒュー・コーンウェルが脱退してしまったから、いまのストラングラーズには魅力を感じない。私にとってのストラングラーズは『ブラック・アンド・ホワイト』までである。

ストラングラーズは、パンクの中では異彩を放つバンドだった。

まず、その音楽性――。
ジャン・ジャック・バーネルによる、リード・ギターならぬ「リード・ベース」と呼びたい腰の強いベースがサウンドの核を成し、しばしばドアーズを引き合いに出された特徴的なキーボードとギターにはサイケデリックな印象すらある。要は、パンクの枠には収まりきらないバンドだったのだ。

「楽器はバンドを結成してから始めた」というバンドすらいた(ただし、そのことはむしろパンクのカッコよさの要因とされた)パンク・ムーブメントの中にあって、ストラングラーズの音楽性の高さ、演奏力は抜きん出ていた。
それもそのはず、彼らは年齢的にもほかのパンク・バンドより一世代上であり、各メンバーとも結成以前からかなりの音楽的キャリアを積んでいたのである。

また、ジャン・ジャックやヒューは、当時のパンク・バンドでは珍しい大卒のインテリで、その知性においてもほかのパンクとは異質だった。

ジャン・ジャックは三島由紀夫に心酔し、『葉隠』を行動原理とし、空手の有段者でもある“マッチョな文学青年”。ヒューに至っては医者でもあり、博士号まで持っていた。マンガ家の多くが中卒・高卒であった時代のマンガ界における手塚治虫のような存在だったのである。

ストラングラーズの音楽は、一言で言えば「文学的パンク・ロック」だ。たとえば、彼らの曲に「死と夜と血(三島由紀夫に捧ぐ)」があるが、ほかのパンク・パンドはけっしてこんな曲を作らなかった。

同じパンクでも、ニューヨーク・パンクにはテレヴィジョンやパティ・スミスのように文学的香気をもつアーティストがいた。しかし、ストラングラーズのそれとは似て非なるものである。

テレヴィジョンの音楽は内省的・耽美的・芸術至上主義的だが、ストラングラーズの音楽は社会に目を向けていた。眼前の現実と闘うための「武器としてのロック」だったのである。

たとえば、彼らのファースト・アルバム『夜獣の館』のオープニング・ナンバー「サムタイムズ」は、「いつかお前の面を張り倒してやるぜ」というフレーズで始まる。

また、サード・アルバム『ブラック・アンド・ホワイト』のオープニングを飾る「タンク」は、「俺は俺様の戦車を乗り回せるんだぜ」というリフレインをもち、砲弾をぶっ放す音がSEで使われている。


そのように、いかにもパンクらしい攻撃性を持ちながら、それが知性とストイシズムに裏打ちされているところが初期ストラングラーズの魅力であった。

最初の3枚のアルバムはどれもよいが、とくに『ブラック・アンド・ホワイト』は非の打ち所のない完璧なロック・アルバムである。タイトルどおり、すべての音が黒と白に染め上げられたような、武骨でパワフルなパンク・ロック。聴くと気持ちが引き締まり、力がわいてくる。

 「ストラングラーズの連中は、戦士のような生活をしている」
 ――1970年代末に『ロッキング・オン』に載った、ポップ・グループ(というバンド)のメンバーのコメント。これを読んだとき、「さすがはストラングラーズだ」と妙に感心したものである。

ストラングラーズはデビュー当時からドブネズミをトレードマークにしてきた(途中からカラスに変わったが)。
『夜獣の館』(この邦題はヒドイ。江戸川乱歩じゃあるまいし)の原題“Rattus Norvegicus”はドブネズミの学術名だという。ジャケット裏面にも、夕陽を背にしたドブネズミの美しい(!)シルエットが用いられていた。

「ドブネズミみたいに美しくなりたい」といえばブルーハーツの「リンダリンダ」の名高いフレーズだが、初期のストラングラーズはまさに「ドブネズミのような美しさ」に満ちていた(そもそも、ブルーハーツのあの曲はストラングラーズにインスパイアされたものなのかも)。

最後に、ヒューとジャン・ジャックについての有名なエピソードを一つずつ紹介しよう。

ツアーでアメリカに行ったとき、いかにも犯罪者臭い風体をした彼らにFBIの捜査官が目をつけ、道を歩いていたヒューに職務質問をした。そのとき、ヒューは捜査官にこう言ったという。

「お前らが俺のことをあやしいと思うより先に、俺はお前らがあやしいと見抜いていた」

ストラングラーズが初来日したとき、ジャン・ジャックは日本の若者に大いに失望したらしい。憧れの「サムライの国」に来てみたら、侍とは似ても似つかないヘラヘラした軟弱な若者ばかりだったからである。
で、ロック雑誌の取材で「日本の若者にメッセージを」と乞われたジャン・ジャックは、こんなメッセージを残していった。

 Don't smile so much, It makes you blind.
 (あんまりニコニコするなよ。何も見えなくなっちまうぜ)

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