【まふまふ】デジャヴ
「愛は有限に溢れてゆく 」
花を色つけるように丁寧に狂いなく舞う指先は五弦に命を宿し、複雑な希望的心情を吹き込み、慎重に見染められ決められた位置へピタリと当てはめられた珠玉の作品達はそのどれもがキラキラと七色の虹彩を放ち続ける。
毎日のように変化するあまりにも膨大な完成図は、命の灯火を小さなキャンドルに分けると同時に少しづつその全容を見せた。
_聴衆はその"作品"の完成を待ち侘びて、沈黙する楽園をじっと見つめ続ける。髪に結んだ花弁のリボンは果たして本物か、偽物か。
『デジャヴ』はここ数年のまふまふの楽曲の中ではかなり攻めた作品だと私は考えている。
まふまふと言えば、激昂するギターサウンドが咲き乱れる中、広い音域を自由自在に走り回るようなオリジナリティー溢れるロック、また一方で純愛を優しく語りかけるように伝えるバラードや自身の悲しい思い出を懐古する悲観な詩とエモーショナルなチューンが鍵となる作品が自身を形取っているように思う。
また、彼のポテンシャルの高さをもって編み込まれた細やかな飾りには頭が上がらない。
「僕のギターは聴かせる為じゃなくて曲作りの為のギターだから。」
そう本人は以前言っていたが、あまりにも細かなパズルピースは相当なロックバカでもないと組めないだろう。
しかし、難解かつ入り組んだインストを抱えながらもフレーズ全体がとても理解しやすく、人間の流動的な感情を描いている事から幅広い層、特に青春時代を謳歌する学生達から支持を受けている。
彼等はまふまふの切なげでやるせない気持ちを描いた作品達に自身の辛い経験や想いを馳せ、それを心の拠り所として今を生きるのだ。
そんな多彩な作品の中でこの『デジャヴ』はかなりの異端。しかし、奴もまた我々の廃れた心をそっと癒すのが宿命、、、いや、そうではないのかも。
『デジャヴ』ははっきり言って、たった数回では理解しにくい。これまでの楽曲ではコトバにして直に描き殴られていたヘイトが幾多のフレーズに遠回しに組み込まれているからだ。
かつてこんな知識を得る機会があった。
"歌詞から曲に入る人は女性的な聴き方をする人。その一方、曲調から曲に入る人は男性的な聴き方をする人。"
皆さんはどちらだっただろうか?『デジャヴ』はロックバカが多い後者をイントロの時点で既に引き入れていると考える。私もその中の1人だ。
力強くはじくベースは汚れた視界を塞ぎ、そっと不思議な世界へと誘う。
それに連なる穏やかでキメの細かいギターサウンドは藤棚が風にしゃなりと揺れてみせるようで、360度のムラサキのカーテンの隙間から様々な喜怒哀楽を見せてくれる。変容するメロディーはそのどれもが魅力的で、美しい旋律に一つづつ触りたいという気持ちを抑えきれない。しかし目先の欲求から触れた指先に感じる戦慄は"諸悪"を許さない彼なりのシュプレヒコールである。
いじめ、集団意識、SNS上にありふれた虚構。チューンの精巧さもさることながら社会を取り巻く全ての者へのアンチテーゼをたっぷりと組み込んだ今作品。誰もが背に冷や汗をかいてしまう瞬間があるはずだ。
人気者になりたい。注目されたい。仲間外れにされたくない。グループから外されたくない。流行に遅れたくない。あの子だけ目立つなんて許さない。1人になりたくない。
忘れられたくない。
そんな全ての人が必ずしも考える、マイナスで非常に人間らしい見せかけの甘い毒をまふまふは自身の花園へ願いを込めてそっと散りばめた。
見せかけの輝きを捨てた作品はどの角度からみても違う感情を含んでいるように思える。じっくりとその表情を伺う者の目にはどのようにみえるのだろうか。
やがて彼の毒に気づいた者は慌てて他の房にもないかあら捜しを始める。焦燥感溢れるメロディーは彼らの驚嘆と事実への疾走を色濃く映す。
そして奥にゆくにつれて美しさを増すこの楽曲の核心部に触れた瞬間、手と手を合わせるように共鳴するアルペジオはぶわりと花吹雪を巻き起こしその本心は隠したまま跡形もなく消えてしまった。その本心は何なのか。伝えたかったこととは。
手の平を開くと数枚の花弁が優しく匂っていた。
解釈をこれ以上語るつもりはない。何度も聴いて、聴いて、聴いて欲しい。そして自身の心に『デジャヴ』を問いかけて、考えて欲しい。
この作品は何かを変える起爆剤となるだろう。
デジャヴ/まふまふ
【MV】デジャヴ/まふまふ https://nico.ms/sm35987683?cp_webto=share_others_iosapp
____楽園に辿り着いた虚ろな目をしたいじめられっ子は、その美しいフジの花弁をどうにかして自分を誰よりも彩る"飾り"にしたいとおもった。その本質を見ようともせずに。
蔦にしとどと濡れた刃先を突きつける。
綺麗な花弁は色褪せることなく彼女の外面を彩り、劣等感を無くしてくれた。
「またこれが枯れたら友達皆で取りに行こう。今度は違う飾りを見つけよう。」
その葉脈に流れる虚ろな涙に彼女はまだ気づかない。
(writer:momosuke)
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