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【煮ル果実】キルマーを齧った話


__その果実は硝煙の如く蕩ける。


先週とんでもない曲を聴いた。

放課後、Nico Boxを開いてランキングを確認するのが日課。いつものようにアプリを開いて確認するとあるものが目に止まった。

『キルマー』

赤い背景に桃色の髪の少女のサムネイルが妙に気になる。やっぱりサムネイルって大事だな〜なんて思いながらもくるりと一回し。すると一気に世界観に引き込まれた。

物静かながらも隠しきれない情熱を込めたイントロダクションはこれから始まる物語への大いなる期待を聴衆にそっと語りかける。

場面が進むにつれてコロコロと変わる曲調は少女の激しく、時に突き刺すように揺れる感情をじっくりと感じさせられた。

繊細かつ丁寧なフレーズはふんわりと煙となって体にすんなりと染みついて行く。

なによりも、舌先にとろりと甘ったるい果実の重みを含んだflowerの号哭は私の心臓ど真ん中に突き刺さった。

こんなん好きになっちゃうじゃん。曲もいいしなによりも、、、、

とりあえず1曲リピートを押してもう一度聴いてみる。

掻きむしられるギターは激しく、時折切なげなサウンドを鳴らし続け、ベースの苦みはやがて大人の甘美となる。重くのしかかるビートは主の抑えきれない鼓動か。

うん、やっぱりそうだ。

仕掛け人はあまりにも楽しそうに楽器を操り続けているように感じるのだ。弾き方にはプレイヤーごとの個性があるとされているが、この曲の主はどうやら自らの思考から湧き出る音楽を見事に自分の心とリンクさせる才能に長けているのだろう。

目を瞑るとふわりと紫煙の匂いがして、まだ見ぬ純朴な彼は、壇上に上がった後少年のようなキラキラとした目でフロアを見渡し、眼光はそのまま、慣れた手つきでギターを重く激しく、そして丁寧に扱った。


この物語の仕掛け人の名は煮ル果実。


わたしはすっかり、たった1回でこの果実の虜になってしまった。

____

実は煮ル果実のキョクを聴いたことが今まで1度もなかった。なんとなく、食わず嫌い。

本当にイメージだけれども、黒髪マッシュの前髪で目元を隠して背が高めで古着のシャツを着た、いかにもモテそ〜な男の人がジャカジャカ曲を作っていると言うイメージがあった。

実際見たことがないから未だ確かめようがないのだけれども。

2018年2月10日『アンドリューがいったから』で鮮烈なデビューを遂げた煮ル果実は、自身の渾身の曲が詰まったマイリストを果実園と名付け沢山の飢えたリスナー達に熟した果実を送り出してきた。
果実園には『キルマー』の他にも沢山の楽曲たちが今か今かとあなたの元へと向かうのを楽しみにしてその時をじっくりと待っている。
『キルマー』の続編として以前投稿されていた、少年と囚人の揺れる純情を描く『紗痲』、生々しい苦悩や葛藤を縫い付けた『ヲズワルド』や難解かつ快活なフレーズが縦列駐車を続ける『トラフィック・ジャム』など、じっくりと愛され育てられた曲たちが軒を連ねていた。

『キルマー』は今年の4月にリリースされたソロアルバムの楽曲だった。

目の前で愛する人を撃ち殺された後、仇に"女"として扱われ、心も体もたっぷりと毒に蝕まれた少女。怒りや哀しみの感情の末、ついに華麗な敵討ちを果たした彼女に昔のような微笑みはもう残されていなかった。

MVを見直して曲を淡々と振り返ってみる。ストーリーはとても悲しいはずなのに、アップテンポで明るく、ついつい足でリズムを取ってしまうようなサウンドがそれすらも塗り替えてしまった。
しかし、ただ明るいだけではなく陰を全体にじっとりと含んだ音作りは曲全体の怒りや哀しみ、哀れみをしっかりと表しており何度も聴いて理解する楽しさを教えてくれる作品だ。

1口齧る毎に彼の作り出した果実からは生々しいほどに甘く、時には苦い果汁が溢れ出す。そして口を、手を、心をも煮ル果実色へと染め上げ、全てを味わい尽くした頃には全身を甘い毒に蝕まれてもう二度と、離れられなくなるだろう。

「触れた人たちの心に何年経っても残るものを作りたい。」

純粋に音楽を愛する気持ちで作られた果実園は沢山の感情を、感動をこれからも人々に届け続けてくれるに違いない。

キルマー/煮ル果実

∴flower『キルマー』 https://nico.ms/sm35980813?cp_webto=share_others_iosapp


(writer:momosuke)

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