見出し画像

弱さを、見せる。

 猫がお腹を見せるのはどういうときか知っているだろうか。安心している、信頼している、甘えている、注目してほしい、警戒心を解いてほしいという意思表示である。猫にとっては急所であるお腹を見せるのだから最高の安心感といってよかろう。
 ヒトには、身体の部位を使った慣用句が非常に多い。たとえば、腹を割る、顔色を窺う、間髪を容れずなどがある。おそらく新しい言葉を作り上げるより、ありふれたものを使った比喩表現の方が親しみやすかったのだろう。中華料理で使われる木耳(きくらげ)が好きだが、発見者はキノコという認識ではなく、木から生えている耳という印象の方が強かったに違いない。こんなふうに言葉を作る感性を凄いと思うが、それが定着していくのだから、言葉には魅力が溢れているなと感じる。
 人は、見た目や印象、そして行動から現れるたった一部のことだけで、他者を判断してしまうことが多い。しかし、思い込みの部分も多く、本来の姿とは食い違っていることもある。つまるところ、自分と他者などのような、あらゆる「あわい」の中で生きるしかないのが世の常である。
 私は人前で話したり、文章(とくに感想文)を書いたりするのが苦手である。教師という肩書きがあるがゆえに、無意識に体裁を気にして、こういった弱い部分(あまり人に見せたくない姿)を隠す。こんな自分を愛しつつも、変容していくためには何かきっかけが必要だと思っていた。その流れの中で、月一回オンラインで対話型勉強会に運命的に参加する機会を得た。この会は毎回テーマに即して対話し、感想文を提出する形をとる。とはいえ、参加メンバーは見ず知らずの人であり、何を語れるのか不安でしかなかった。しかも、自分に向き合い、誰に想いを伝えるのかを考えた上で書く感想文は甚だ難しい。1カ月何度も推敲しながら(熟成させて)提出するが、当初の文章は本来の姿をあまり見せず、殻に閉じこもったままで、小綺麗なタッチで仕上げていたため、心を動かすには至らなかった。しかし、後半に入り、このメンバーになら、腹を見せても大丈夫だと悟ると、ずっと隠していた弱き部分を自然とさらけ出していた。勿論、これは勇気のいることだったが、心を動かす文章というのは表現技術でどうにかなるものではない。たとえ同じ言葉であっても、そこに込められた想いはさまざまである。そういう想いは言霊となって、読み手の心に響いていく。好きな人にプレゼントを選ぶときのように、言葉を紡ぐことが大切。同じものであっても、その人の気持ちが伝わるものなのだ。
 進路実現というのは、自分にとっては一つの「変容」の機会だと思う。今のありふれた景色と違って、壁を乗り越えた先にある景色を見るためには、途轍もないエネルギーが必要となる。どんなことも、今のあなたにはなくてはならない経験なのである。生きていく中では、“強き”だけでなく、“弱き”部分を認め、見せることが、あなたの“良き”を作り上げるのではなかろうか。

끝을 모르는 지금이 영원하길
終わりを知らない今が永遠でありますように
(Infinite『New Emotions』)

🎵 人生いろいろ。人の色もいろいろ。対話を楽しもう~ 🎵
 
【Color 62】飽きっぽくて集中力がすぐ途切れてしまうのですが集中力を高めるいい方法はありますか。
【A】たとえば、趣味のような好きなことでも飽きやすいのでしょうか。小学生のときに、何時間でも継続してやっていたことはありませんか。そもそもヒトはずっと集中していることはできません。だから、小学生のように継続させるにはエネルギーが必要なのです。やりたくないことは初めから意欲がないものですが、そういうものでも何か楽しさを見出したり、少しでも好きになったりすると、やろうという気持ちが湧き出てきて、集中するかもしれません。
 
【Color 63】気分が沈んでしまったときのリフレッシュ方法はありますか。
【A】生きていれば、いいことだけでなく、イヤなこともありますよね。イヤだなと思うことがなくなればいいのですが難しいでしょう。経験上、忘れようと思うほど忘れられません。たとえば、イヤなことがあったら、「イヤだと思ったんだね」と認めてあげることが大切だと思います。その上で、何も考えなくてすむような没頭できることをやってみるのもいいですね。私なら漫画を読んで、お菓子を食べて、身体を動かします。夕日、夜空など好きな景色を眺めることもいいですね。
 
【Color 64】鶏肉と玉子を一緒に調理するから親子丼というネーミングにすごいゾッとしたのですが、同時にセンスはあるなと思いました。先生は、これはセンスがあるなと思ったものなどはありますか。
【A】私からすると、こういうことをさりげなく考えられることに“センス”を感じますね。普段何気なく生きていると、目の前にあることはすべて当たり前のように勘違いしてしまいますが、どうしてそういう名前にしたんだろうと考えると面白いですよね。名前どころか、言葉すべてがよく作られたよなと感心してしまいます。親子丼のほかにも、いとこ丼、他人丼などがありますが、大概他人ではないでしょうか。そもそも親子と名乗っていますが、おそらく鶏が産んだ卵ではほとんどないですけどね。
 私が個人的にテーマとして掲げている「いのち」という言葉は、“いきる”ための“ちから”という意味があります。因みに、ひらがな一文字一文字に意味があります。ぜひ、自分の名前も調べてみてください。親が込める想いもさることながら、名前そのものに力強さを感じますよ。
 
【Color 65】人は“自然”と人工物や人間を切り離して考えることが多いです。たとえば、熊の作った巣穴は自然ですが、人間が作った家は自然とは言いません。しかし、人間も熊などと同じ動物で、そして人が家を作るのは熊が巣穴を作るのと同じで、人間の為すことはすべて“自然”であると言えると思います。先生は“自然”とは何だと思いますか。
【A】とても素直な感性ですね。仏教には次のような教え(考え方)があります。自然(じねん)と読み、山や川、草、木など、人間と人間の手の加わったものを除いた、この世のあらゆるものを指して使われることが多い言葉です。「自分」という言葉が、自然から分かれた存在ということを示している通り、どうしても人間と他の動物は別次元で捉えているような感じがしますね。確かに、動物が知恵をつけて、家をもし作ってしまったらどうするのでしょう。逆に、自然にあるものだけで家を作っている時代はとくに問題にならなかったはずですね。私たち人間も自然の一部だと考えていますが、やっていることの何が正しくて、何が間違っているのかは分かりません。難しい問いなのです。答えにたどり着くことがなくても、問うことだけは続けていく必要がある気がします。

2023.10.20

この記事が参加している募集

オープン学級通信

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?