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ピート・ハミルのこと

 何時だったか、朝日新聞の土曜版『be』のコラムに、ピート・ハミルの写真が掲載されていた。2007年の写真で、背後にはニューヨークの『グランド・ゼロ』が写っていた。
コラムの著者は山田洋次監督だった。
彼は『オッペンハイマー』の映画を見て、ピート・ハミルを思い出したそうだ。
この映画は話題になっていたので、私もあらすじ程度に知っていた。
ただ、双方の接点がわからなかった。
ピート・ハミルとオッペンハイマー?
もっともコラムを読めば、なるほどと思わなくもないのだけれど…

山田洋次監督『幸福の黄色いハンカチ』の原作者はピート・ハミルだった。
私はこのことを、後から知った。
後からというのは、ピート・ハミルの作品を先に読んでいて『幸福の黄色いハンカチ』が後だった。
何かの記事で、原作と知って驚いた。
私には原作と映画がつながらなかった。
言われればそうなのかと、その程度の印象でしかなかった。

数年前、朝刊でピート・ハミルの訃報を知った。
ここ10年ほど、知っている人の訃報を紙面で見ることが多くなった。
作家だったり、画家だったり、音楽家だったり、写真家だったり。
その度に文字の上で目が止まったままになる。
この人もいなくなってしまったのかと…
ピート・ハミルの作品を思い出そうとした。

確か彼の文庫を何冊か持っていたような記憶があった。
彼の作品は、何かが鮮明に浮かび上がるわけでなく、どこかぼんやりと薄暗い中に灯りがともっているような印象だった。
でもその灯りは消えることがない。

本棚にあったのは『ブルックリン物語』だった。
初版1986年の古本だった。
どこで入手したのか、何時頃読んだかも覚えていなかった。
訳者のあとがきに、青インクで線が引いてあった。
最後のページに本文の一節が青インクで書き出してある。
本文を覚えている訳ではないけれど、読めば本文だとわかる。
私ではなく、前の持ち主が書き込んだのだ。
彼の本は一冊しか私の手もとになかった。
『ブルックリン物語』をひさしぶりに読んで、他も読みたくなった。
その時『ニューヨーク・スケッチブック』をネットで入手した。
彼の著作はほとんどが中古で、これだけが違ったと思う。
最後に『Going Home(黄色いハンカチ)』が載っていた。
映画の場面は、やはり浮かんでこなかった。
また映画を見る機会はあるだろうか?
この短編は折に触れ思い出し、また手に取るような気がする。



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