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WBC・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ スティーブン・フルトンvs.井上尚弥 23/07/25

日本のみならず、世界が注目する一戦。
その上で、主語が日本人である「井上尚弥」となる一戦。
日本ボクシング史上でも例を探すのが難しいビッグマッチ。ほかに思い当たる試合を探すのなら、それはやはり井上の試合になり、さらにぐっと遡るなら、「エデル・ジョフレ対ファイティング原田」の試合ぐらいになるだろう。
しかし、これも“黄金のバンタム”と呼ばれていた絶対王者ジョフレが、決して前評判が高くはなかった極東の選手に、まさかの番狂わせで敗北してしまったという構図。世界が注目する一戦で、日本人が優勢という試合を探すのは、やはり難しい(米ブックメーカーのオッズ。井上「1.25倍」、フルトン「4.1倍」)。
しかし、それでもなおフルトンが優位だと唱える記者や選手はいる。内心、それが客観評価ではなく、応援評価であったとしても——。
つまり、今回の試合は、「世界のイノウエ」対「米国のFulton」だったわけだ。
だけども、前評判はあくまで前評判。ジョフレ対原田の例もある。井上は、日本、そして世界の期待に応えられるのだろうか——。

[1R]
スピードは互角。お互い左ジャブを素早く伸ばす。
身長で4cm上回っているフルトンだが、スタンスを広く構えるので、画面越しから見える高さは変わらない。その上で、階級を上げてきた井上の方が、身体に厚みがある。
だが、まず目を見張ったのはパワーではなくスキルだ。
勝機があるとすればロングレンジと見られていたフルトンに対し、左ジャブの差し合いで井上が上回っている。
井上の右ストレートはフルトンのガードを叩くが、フルトンの右ストレートは井上に外され、逆に合わせられた左フックで、少しバランスを崩す。
リーチが長いはずのフルトンの方が距離が遠い。
終盤、密着した状態で井上がごつごつとフルトンの顔の側面から耳の裏側を、強引に叩く。
形式上チャレンジャーである井上が、文字通りその獰猛さを感じさせる。王者として受けて立つのではなく、無理矢理にでも勝利を奪い取るという気迫が滲み出る。

[2R]
井上ペースは変わらない。
むしろ、力の差がより濃く現れだす。
井上のジャブは届くのに、フルトンのジャブは届かない。異常なまでの反応速度と集中力。
これまであまり見ることのなかった、左のガードをだらりと下げたスタイルで、触れさせすらしないという次元を実践する。
ジャッジを含め、周囲に見せつけるかのように、「俺の顎はここだよ」とアピール。
ボクサーとしての完成度が違う。
パンチ力がないという前評判を受け止めれば、フルトンの勝ち筋が見えない。
まだじわりとした差でしかないが、相手になっていない。

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