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舞の海の相撲

 名古屋場所が始まる。大相撲の場所が始まるのはいつだってうれしい。
 上京して数年後、いつも観ている大相撲中継に母校の先輩が出ていた。最初は大学の後輩である遠藤のように、名字の長尾というしこ名だったと思う。
 のちに小兵力士ながら“技のデパート”“平成の牛若丸”と言われた舞の海というしこ名の力士になった。
 故郷の青森県鰺ヶ沢町の舞戸の海をしこ名に付けているのだなと、実家の菩提寺が近くにあるので馴染み深い場所ですぐに気がついた。
 舞の海が活躍していた頃の大相撲界は、若乃花と貴乃花の兄弟横綱や外国人横綱が誕生するなど空前の相撲ブームと言われて盛り上がっていた。
 家で観れる日はかならず観るし、観れない日はテレビの「大相撲ダイジェスト」やスポーツニュースなどで贔屓の力士の勝敗をチェックした。 
 舞の海は次姉と高校1年生の時のクラスメートだった。ともに全国大会に出場するのが当時は常連の厳しい部活に入っていた。その頃の相撲部は全国制覇連覇を叶えていて、とくに練習漬けの日々だったろうと思う。
 姉が卒業してから自分は入学しているので直接は舞の海を知らないけれど、実家からすぐの幼なじみで同級生の友だちのご伴侶が“わんぱく相撲”のチームで舞の海とふたりで主将と副主将でさまざまな相撲大会で活躍していたそうで、ずっと交流がある人が近くにいたのでときどき話しを聞くことがあった。姉からも思い出話しを聞いたことがある。舞の海の在籍した相撲部の雰囲気はわかるので面白かった。相撲部監督のど偉い厳しさも、習った先生なのでわかる。相撲部の同級生達は試合のときは強いだろうが、普段はからだは大きくても気の優しい人が多かった。
 今では何であんな遊びをしていたのかわからないが、休み時間になるとふざけて相撲部の友だちと蛇拳や酔拳で闘う真似をしていた。真似だけの遊びだけど、こちらがしかけて行くとかならず本気で返してくれた。(弟とカンフー映画をこどもの頃から欠かさず観に行ってたので大好きだった)現在は高校の教師をしながら、相撲部の指導者をされているそうだ。
 強豪校だった相撲部は30数年月日が流れて現在は部員が集まらず廃部になりそうだったのだが、女子相撲部が出来て全国制覇した生徒が出てきた。その子は、兄たちと共にわんぱく相撲から鍛え上げてきた生徒だと新聞の記事を読んで知った。
 相撲部の人達は、だいたいが日本大学に進学して相撲部に入部する生徒が多かったように思う。舞の海も山形県の県立高校の社会科教師の職が決まっていながら、大相撲をずっと目指していた可愛がっていた同郷の大学の後輩が急死したことで、就職を捨てて大相撲入りを決めたことは知られている。
 入門を相談した際に母の猛反対に遭い、絶縁することで入門を許されたらしい。しかし、身長が169cmで日本相撲協会の新弟子検査合格基準を満たしていなかったため(当時は172cm以上。現在はこの事があってから167㎝以上に代わり、中学卒業で入門を目指す人に関しては165㎝以上に基準が改定されている)1度は不合格を経験した後、手術でシリコンを頭に埋め身長を一時的に高くして合格を掴んだ。
 そのことを舞の海がテレビで話しているのを見たことがあるが、頭の痛みが想像を絶する痛みだったらしい。
 小兵の力士は昔から好きだった。小学校の頃から好きだった千代の富士だって最初に見たときはからだが小さかった。だけど馬のようなバネがあるというのか、天性の身体能力を相撲から感じた。
 舞の海の相撲は、強い相手に最も発揮されるように感じた。下敷きになったら力士生命が終わるようなぶっ壊されそうな相手に果敢に挑んでいく。目が覚めるような1秒たりとも目が離せなくなる相撲を取る。取り組みの一瞬に全てを懸けているのが伝わる。負けたほうがにやりと笑うくらいだった。舞の海はいつだって冷静な表情を見せる。相手に敬意を表していることと、内に熱いものを秘める無茶だ馬鹿だと言われようが貫く津軽人だなと思ってしまう。
 応援団長だと言いながら(後援会会長を引退まで確かされていた)落語家の立川談志さんが舞の海の相撲の魅力をテレビで解説したのを見たことがあるが、談志さんのいう通りだとテレビ画面の前でぶんぶん頭を振ってうなずいて観た。
 あの小さなからだから、懸命に技を繰り出す姿は胸をすく。手を抜かないことがもたらす奇跡をいくつも相撲で見せてもらった。
 “くるくる舞の海”は、ブッと吹き出してしまった。ぶっ飛んでいた。
 横綱 白鵬が格下の力士に“猫だまし”をして横綱の品位ということで批判をされたが、舞の海の過去の取り組みの映像で相撲を研究していたという白鵬が、どうしても土俵で試してみたくなる気持ちがわからないではない。やはり小兵力士だから、やれる技があると思う。
 白鵬の弟子の小兵力士である炎鵬にちゃんと舞の海イズムが伝わっていると相撲を見ると感じるときがある。他の小兵力士にも、どうしたら勝てるか本気で挑んでいる力士からはちゃんと伝わってくる。
 上京してから、さまざまな苦難が身に起きたときに舞の海の相撲にどれだけ力をもらったかわからない。不屈の魂、不屈の創造力を舞の海の相撲に教えてもらった。
 きょう初日の名古屋場所が楽しみだ。2年越しのコロナ渦だけれど皆が怪我なく無事で盛り上がる場所になりますように。




☆くるくる舞の海・・舞の海が編み出した、小兵でも勝てる48の殺人技のうちの12番目。相手の横からまわしをとって頭をつけ、相手力士を中心に回転することで相手の目を回し、体勢が揺らいだところを押し出すという超荒技。

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