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インド綿のブラウス

 この2日間、気温25度で汗ばむ一日だった。4月に7月の暑さだとテレビのニュース番組で話していて、去年の猛暑というか酷暑が思い出された。
 去年の東京は141日も続く夏日だった。梅雨らしい梅雨もなく夏が始まり、9月も夏のように暑いままで、もしかして10月もこのまま暑かったらどうしよう‥と思ったら急に秋になった。
 余談ながら、大好きな作家の庄野潤三さんに「インド綿の服」という作品がある。足柄山に家を建てて移り住んだ長女のご一家の七年間の物語が綴られている。庄野さんの奥様が離れて暮らす娘さんご夫婦と食べ盛りの孫たちが喜びそうな食べ物やさまざまな物を詰めこんだ荷物をよく送られる。
 “荷物が届きました”と娘さんからユーモアたっぷりのお礼状や、庄野さんご夫婦への荷物が届く。そのやり取りが読んでいて、ほんとうに心温まる。荷物には、夏に間に合わせるように裁縫したインド綿の服が入っていたりする。
 20代の頃、夏真っ盛りになるとインド綿のブラウスやロングワンピースを着るのが好きだった。当時よく通った代官山にあったアンティークの洋服屋さんは、ヨーロッパの国々やオーナーさんが若い頃に住んでいたアメリカのニューヨークや西海岸を中心に買い付けに行かれていた。
 アメリカの西海岸で買い付けてきたアンティークのインド綿のブラウスやロングワンピースはどれも洒落ていて他では見つからない一点ものだ。透けるようなインド綿は着ると涼しくて、日本の浴衣じゃないけれど、きっと海沿いの暑い夏にインド綿で作った洋服は風通しがよく、生地も色んな柄があって豊富だから女の子に人気があったのだろうなと思った。
 手が出ないけれど、何年か前から気になるインド綿のワンピースが人気の洋服のブランドは本拠地がアメリカの西海岸にあると知って、20代の頃に夏によく着ていたインド綿の洋服もそういえばアメリカの西海岸で見つけたものだったなと急に懐かしい記憶がよみがえった。
 お手本にした着こなしでまず思い浮かぶのは、映画「アニーホール」のダイアン・キートンの着こなし。タートルネックセーターに合わせて着るのを真似していた。
 それから、20代の頃に好きで繰りかえし本を読んでいた随筆家の武田百合子さん。富士山荘で過ごされているときに普段着でリラックスして着ているインド綿と思われるワンピースが素敵だった。脚本家で作家の向田邦子さんもインド綿というよりはインド更紗のような洋服を着ていた写真があったような気がしていたが、シャツワンピースやチュニックにパンツを合わせて着るのが自分は若い頃から好きな組み合わせだったので、向田さんのような着こなしが好きだった。
 20歳前後で落ちついて見られていたので、派手な色合いも好きだったけれど昔から渋好みだったかもしれない。
 4月で7月の暑さだと聞いて、近年の夏の異常な暑さは勘弁してほしいと思いながら、ひさしぶりに涼やかなインド綿のブラウスでも探そうかなと思ったら、ちょっとだけ夏が楽しみに感じた。

大好きな映画「アニーホール」。20代前半はウディ・アレンとダイアン・キートン、どちらの着こなしも参考にしていた。俳優ではキャサリン・ヘプバーン、それからフランス映画や色んな映画からファッションの影響を受けた。
随筆家の武田百合子さんとタマ。
武田泰淳さんと百合子さんご夫妻。娘さんの写真家の武田花さんの撮影だと思う。武田花さんの写真と随筆も好きだ。
余談ながら、もう30年近くのお付き合いになる友人のお父様が文芸雑誌の編集長をされていた。泰淳氏のご担当もされていて、「富士日記」にも登場される。自分が好きで読んでいた作家の方が、友人がこどもの頃に居候をされていたことがあったり、何気ない思い出話をされているのを聞くと平静を装いながら、20代の自分は心密かに興奮していた。
向田邦子さんは若い頃に映画雑誌の編集者をしていたとき、黒い洋服ばかり着ていて“クロちゃん”とたしか同僚から呼ばれていたらしい。ご自分で裁縫が出来る人がうらやましい。
向田さんのお料理の本は、上京した頃にレシピを真似してよく作った。官公庁などの方々が料理を食べながら会議をする虎ノ門にあったサロンの厨房でアルバイトをしていたとき、向田さんのレシピをいくつかお出しする料理のメニューにしてもらったことがある。この写真のお洋服はインド綿ではないけれど、こういう組み合わせがいい。シワも味になって何気なく着ているのに、たしかエルメスのシャツだと思う。好きだと色違いで揃えて、ずっと同じものを選んで着ていたと向田さんのファッションを取りあげた本を読んだときに知った。
緑のワンピースは、いろいろ着た。好きな感じが変わらないので、似たようなものを飽きずに選んでしまう。
インド綿のブラウスの首の開き、この開き方も好き。
こういう色合いも好きだった。
今のワンピースだけれど、20代のときに着ていたものとデザインは違えど生地までそっくりで、流行は巡るんだなと思う。
濃紺、選びがち。汗をかくとジャブジャブ洗濯するのでインド綿はけっこうひと夏で色あせる。
黒だとレースっぽいのや透けた感じも好きだった🖤歳を重ねて、スカートを履かなくなってしまった。シャツワンピースやロングワンピースは好きだけど、ジーンズやパンツと合わせることが多い。


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