見出し画像

神々の山嶺


 
 ダム湖の横の、小さな集落へ向かう道を歩いていく。しばらくすると、右手の視界が開けてきた。薄暮の空を切り裂くように浮かぶ北アルプスを背に、牧歌的な白馬の町並みが広がっている。

 そんな景色を見たくなって、今年のゴールデンウィークは大糸線を訪れた。松本駅から「あずさ5号」に乗る。以前乗ったときは振り子式車両のE351系だったが、新型のE353系に代わっていた。 

 列車は松本市街を抜けると、鹿島槍、常念などの名峰を左手に盆地を走る。晴天ではないが、霞んだ風景も清々しい。これを見るために進行方向左側の座席を取ったのだ。大糸線が北アルプスに沿って敷かれた路線なのだということを、身をもって実感する。

 単線ながらも線形のいい盆地の区間を終え、信濃大町駅から先は山がちな線区だ。仁科三湖と呼ばれる3つの山湖を避けながら、ゆっくりと峠を越える。白馬駅を過ぎると線路は姫川に沿う。関東ではまず見かけない、翡翠のような深緑色の川のなんと美しいこと。いつまでも眺めていたい。

 撮影地に着いた直後は晴れていたが、程なく曇天が広がった。アルプスの頂上は雲に隠れてしまった。列車の通過時刻がじわじわと迫る。地上の踏切が鳴り、今回はだめかなと諦めかけていたその時、山頂の雲だけがすっと抜けた。はやる心を抑え、そっとシャッターを切る。これが神々の山嶺か。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?