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豊かさとはなにか

 えちごトキめき鉄道の名立駅は、山間の小さな集落にある無人駅だ。1時間に1本の電車を降りると、構内で地元を旅立つ人々に向けた、たくさんの寄せ書きを見かけた。「またもどってきてね」「いっぱい勉強して帰ってきてね」「名立を忘れないでね」──。訪れたのは3月下旬、卒業シーズンだった。

 何年か前の2月にも降りたことがあり、そのときはバレンタインのポップに装飾されていた。調べると、地域のボランティア団体「名立駅マイ・ステーション作戦実行委員会」が、駅舎内外の飾り付けや整備を行っているらしい。紀行作家の故・宮脇俊三さんは駅について、笈を負う人、寄る辺ない人が集う場所だと記した。経済性を超えた、鉄道と地域との繋がりを見ると、いちファンとして豊かな気持ちになる。ヨソ者ながら、あるいはヨソ者だからか。ノスタルジーのような言葉だけでは片付けられない情緒やぬくもりを、名立駅から感じた。

 翻って東京都内の各駅では、ギミック溢れる広告や、鮮麗なデジタルサイネージが躍っていて面白い。電車は数分に一度やってくる。駅ナカで食料はもちろん、衣料品まで買うことができて、不便なことはなにもない。でも、地域とは隔絶している気がする。「機能」に徹している気がする。

 豊かさとはなにか。高度経済成長期からバブル期を経て、数十年と続いている問いかけだ。難しい話はわからない。だが、経済の指標には表れない豊かさも、確かにある。

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