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発祥の地、その未来

 「発祥の地」つながりでもう1本。北海道には「○○発祥の地」と呼ばれる史跡が多くある。先述した東旭川一帯の「旭川発祥の地」をはじめ、江差町上ノ国の「北海道発祥の地」、「教育発祥の地」(要は学校が初めて開かれた場所)なんて、小樽や士幌など、地域ごとに存在する。北海道は開拓が始まって150年ほどの土地で、古いものを受け継ぎながら、新しいものを受容する文化が根を張っているのだ。遠軽町にある「白滝発祥の地」も、そんな”発祥の地シリーズ”の一つである。

 史跡といっても、石碑くらいしかない白滝発祥の地を知る者は一部の歴史マニアくらいだろうが、鉄ちゃん、とりわけ撮り鉄からは他を凌いで「聖地」レベルの知名度を誇る。なにせ「白滝発祥の地」でググっても史跡として紹介しているのは遠軽町役場の公式サイトくらいで、検索結果の大半は鉄道写真。実際、発祥の地からは、湧別川に沿って峠区間を力強く進む石北本線を望むことができる。険しくも美しい、この路線のハイライトとも言える風景だ。

 誰が呼んだか、湧別川の水しぶきを白滝に例えたのが地名の由来だという。この美しい風景へは、かつて下白滝駅から徒歩10分ほどでアクセスできたが、駅が2016年に廃止になったことにより、現在の最寄りは白滝駅。道のりは約10キロ、所要1時間30分。特に冬場は、鉄路でのアクセスは現実的ではない。(駅前にハイヤーはあるが、日曜定休)私自身もこのときは、不本意ながらレンタカーで訪れた。

 “発祥”があれば、そこから始まる文化やコミュニティも存在する。かつて石北本線には「白滝」を冠す駅が5つ連続する区間があったが、いま残っているのは白滝駅だけ。白滝の街も、冬にはそのほとんどが豪雪に沈み、人跡をたどることはできない。文化を受け継ぐことはもちろん大切だが、バックボーンとなる歴史が途絶えてしまっては、その存在意義を見つけるのも容易ではないだろう。

 撮影を終えたあと、ひっきりなしに大型トラックが行き交う、並行する石北本線とは対照的なバイパス道路を走りながら、「発祥の地」の未来を案じた。

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