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街のコントラスト-根室本線(2)・山部駅

 駅前には旅館をはじめコンビニや銀行が立ち並び、一帯で市街地を形成している。それでも、駅前で犬の散歩をしていたおじいさんにしてみれば「さみしい街だよ」。山部駅の長いホームに滑り込んだ、東鹿越行き列車に乗る客はいなかった。
 
 そのおじいさんとは、2度お会いしたことがある。1度目は曇天の夏の日に、駅の写真を撮っていたら話しかけてくれた。「ピーカンだと芦別(岳)もくっきり見えるんだけどなあ」と指差す先には、厚い雲が空を灰色に塗り潰していた。「曇りの涼しい感じも個人的には好きですけどね」などと返すと、うんうんとうなりながら去っていった。

  元来、撮り鉄にしては珍しく(?)天気を選り好みする性格ではない。むしろ曇っていてくれたほうが気楽とすら言える。大ざっぱでこだわりがないとか、単に暑いのが苦手とか、そんな理由なのだが、駅舎など建築物を撮影するときに限っては「影でディテールが潰れない」ことが大きなメリットになる。目では見えるけど写真に映らない、というこの趣味の命題というべきギャップをできる限り埋めてくれるシチュエーションが曇りというわけだ。

 2度目は廃線が迫る今年3月下旬、同じように駅を撮っていたとき。夏の訪問時とは打って変わって雲一つない快晴だった。同じように柴犬を連れたおじいさんは「ここまで晴れる日はなかなかないよ、運がいいね」と笑う。構内では富良野行きの普通列車を降りた人たちが思い思いに写真を撮っている。駅舎の筋交いに浮かぶ陰影のコントラストが美しい。背中には白銀の芦別岳。いつもは役不足だったハーフティンバー様式の大きな駅舎が、この日はとても頼もしかった。



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