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ひょうひょうと-根室本線・下金山駅

 車で走っていると、うっかり通り過ぎてしまいそうになる。富良野市街から南富良野町に入ってすぐの小駅。金山駅から見て空知川の下流にあるから「下」金山だが、滝川を起点とする根室本線を基準にするとこちらが「上」…。ううむ。なんだかややこしいけれど、うだるような暑い日も、芯まで凍るようなしばれる朝も、不思議と表情を変えないこの駅には、「ひょうひょう」という言葉がどこかはまった。

 当時の東京帝国大学が付近で演習林を営むにあたって設けられた。昭和中ごろまではここを起点に専用鉄道も伸びていたいたらしく、だだっ広い構内やあちこちに残る「安全第一」「左右確認」といった注意書きが、当時の隆盛を物語った。駅舎は昭和後期築らしい三角屋根の様式で、凛と立つストーブ用の煙突がなんとも愛らしい。

 下金山駅と山部駅との間にある写真の撮影地は、周囲に遮蔽物がないからか、とにかく列車の音がよく聞こえる。

 遠くでジョイント音が止んだ。列車は山部に止まったな。汽笛一声、さあ動き出したぞ。タタン、タタンという走行音に呼応し、どこかの踏切が鳴る、もうすぐか。ヘッドライトが雪を照らすと、ほどなく列車が飛び込んできた。夢中でシャッターを切る。後ろ姿を目で追う。まだ見える、まだ見える──。

 短編映画のような臨場感と満足感があった。テーマは根室線、主演はキハ40、下金山駅はさながらエピローグ。

 富良野・新得間では唯一、裏手から様子を見渡せる駅でもあった。ある日、近くに住むという親子が三輪車で遊んでいた。根室本線は「ほとんど使わないですね」。鉄路の廃止なんてどこ吹く風。僕らの「主演」こそもうやって来ないが、この街の営みは続いていくのだろう。ひょうひょうと、今までも、これからも。

 

 


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