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センターラインにはレギュラー/控え問わず守備力の優れた選手を優先して、それ以外には打撃力のある選手を優先する編成がメッツの好調の秘訣ではないかという仮説

はじめに


ニューヨーク・メッツが好調を維持しています。120試合を消化した現時点で勝率.642(77勝43敗)はドジャースに次いで両リーグ2位の成績です。今週のブレーブス戦は負け越したものの地区優勝さらにはワールドシリーズ制覇の有力候補といって差し支えないほどの状況です。
 
メッツといえば球界No.1と目される資金力を誇るスティーブ・コーエンが筆頭オーナーになった2021年も大補強を敢行しましたが、蓋を開ければ期待外れの結果に終わりました。それ以前も優れた選手は多いもののチームとしてはプレーオフに進めない時期が続いていました。
 
そんなチームが今季は大きく飛躍を遂げました。今回の記事ではメッツ飛躍の背景についてある仮説を提示したいと思います。その仮説を提示するために、まずは今季のメッツと昨年のチームを比較して、先発投手/リリーフ投手/打撃/守備のいずれの要素が改善したのかを見ていきます。
 

メッツの各種指標比較

先発投手:91(MLB6位)→90(MLB5位)
リリーフ投手:98(MLB12位)→98(MLB13位)
*投手成績の比較にはFIP-を使用。FIP-はリーグ平均を100として低ければ低いほど良いとされる
 
打撃:96(MLB16位)→112(MLB5位)
守備:+21(MLB7位)→+10(MLB7位)
*打撃と守備の比較には、wRC+とOAAを使用。共に数字が高ければ高いほど良いとされる
 
上記の指標比較からも今季のメッツは打撃が大きく改善していることが分かります。投手に関する2つの指標に関してはほぼ前年と同じ水準で推移しています。一方で守備指標に関しては120試合消化時点で+10なので、162試合に換算すると+13.5となり昨年からは悪化ということになります(他球団との比較では今季も優秀な成績ですが)。
 
このように今季のメッツは守備指標が若干悪化しつつもそれを上回る打撃の改善で結果を出していると言えそうです。ここからが今回の記事のメインの仮説になります。その仮説こそが他ならぬ「守備を一定程度犠牲にしつつも打撃を優先したラインナップを作る」ということになります。今回はこの仮説について考えていきます。
 

守備を一定程度犠牲にするとは?


今回の仮説はある意味当たり前の話にも思えますが、メッツのユニークな点は守備をどこまで犠牲にするかを強く意識しているように思える点です。具体的には、センターラインと言われる捕手・セカンド・ショート・センターには守備指標でプラスを出せる名手を控えも含めて揃えています。
 
下記のグラフは2021年と2022年のメッツのOAAのポジション別成績を表しています。昨年はサードとレフト以外の5ポジションでプラスを記録しています。一方で今季はOAAが計測されない捕手を除いたセンターラインのセカンド・ショート・センターの3ポジションしかプラスを残していません。


これこそが守備を一定程度犠牲にするという言葉の意味するところです。つまりセンターライン以外は打撃優先の選手を配置し守備でのマイナスにも目を瞑り、打球がよく飛ぶセンターラインは守備も優秀な選手を並べて守るべきところは守るといったイメージです。
 
各ポジション別に見ていきましょう。セカンドはユーティリティ性が高く外野の両翼を守ることも多かったジェフ・マクニール出場時間を大幅に増やし、+6を残しています。控えにはルイス・ギジョルメがいて彼も+2を残しています。
 
ショートはフランシスコ・リンドーアが昨年ほどではないものの+9を残し、控えのギジョルメも昨年の-1から今季は+1に成績を改善しました。
 
そして最大の改善箇所がセンターです。昨年は控えのケビン・ピラー(-2)とキャメロン・メイビン(-1)がレギュラーのブランドン・ニモ(+3)の足を引っ張っていました。それが今季はニモ(+5)のプラスを打ち消さないマーク・カナ(0)とトラビス・ジャンコースキー(0)の2人が控えを務めています。
 
特に今季のOPSが.445であるジャンコースキーが44試合に出場しているのは、デビュー以降外野全てのポジションでOAAのマイナスを出したことがないという実績を買われているからだと思います。
 
OAAがない捕手に関してはDRSを代用します。2021年は正捕手のジェームズ・マッキャンが-5と残念な数字でしたが、今季はトーマス・ニド(+4)もマッキャン(+3)もプラスを残しています。
 
このように今季はセンターラインのポジションにおいて、レギュラーと控えの双方がプラスの選手を配置出来ており誰が出場してもプラスを出せる状態を維持できているのです。これを徹底できているのが今季のメッツの優れた所です。
 
レギュラーのマクニール・リンドーア・ニモ・ニドは昨年もプラスを出していましたので、チームに必要なのは守備重視の控えでした。そのためにチームはロビンソン・カノーのリリースやジャンコースキーの獲得を敢行しました。打撃面も考慮すれば他の選択肢はいくらでもあったはずです。しかしセンターラインの守備を重視したメッツの判断が正しかったのは今季の成績を見れば明らかでしょう。
 
余談になりますが、メッツでは先日有望株のブレット・ビーティーがMLBデビューしました。彼はIL入りしたエデュアルド・エスコバーの代わりに昇格したのですが、その前日にこちらもIL入りしたギジョルメの交代で昇格する噂もありました。
 
しかしこの噂をチームは否定しました。MLB公式サイトの記事からはチームの方針が窺えます。
 
>Mets officials consider it important to have solid defensive coverage especially at shortstop, where Guillorme was serving as Francisco Lindor’s primary backup.
 
(和訳)メッツの球団幹部はギジョルメがリンドーアの控えを務めていたショートのポジションには、一定程度の守備力を備えた選手を配置することが重要だと考えている
 
チームはこの方針を重視して、ビーティーではなく守備力に優れるデベン・マレーロを昇格させました。最終的には翌日にビーティーも昇格しましたが、このエピソードからはチームがセンターラインの守備力を重視していることが感じ取れました。
 
またギジョルメが長期離脱となり、メッツは守備に定評のあるヨルマー・サンチェスを新たに獲得しました。彼がギジョルメの穴を埋められるのかもプレーオフまで見据えるとチームの命運を左右するかもしれません。
 

打撃を優先したラインナップを作る


こちらは文字通りで、センターライン以外のポジションには、打撃力が優秀な選手を優先的に配置するというものです。実際にチームは昨年オフにスターリング・マーテ(RF)、カナ(LF)、エスコバー(3B)といずれも守備指標は平凡な打撃に優れた選手を獲得しました。
 
残念ながらエスコバーが不振に陥った3Bはチーム全体の成績も昨年より悪化しましたが、wRC+を見るとレフトとライトはいずれも大幅な改善に成功しています。
<2021年と2022年のポジション別wRC+>
3B:110→86
LF:86→123
RF:100→118
 
さらに7月末まででwRC+が86とうまく使えていなかったDHにダニエル・ボーゲルバックとダリン・ラフを獲得しました。ラフはまだ本領発揮と行かないもののボーゲルバックが移籍後にwRC+166を記録しており、ここも補強が効果てきめんとなっています。
 
このようにセンターライン以外のポジションは守備には多少目を瞑り打撃力のある選手の獲得で結果を出しています。
 

まとめ


今回はメッツ好調の秘訣をチーム編成の観点から見てきました。センターラインにはレギュラー/控え問わず守備力の優れた選手を優先して、それ以外には打撃力のある選手を優先するというアプローチです。近年守備シフトの増加などによりポジションの概念が希薄化している中で、逆にポジション別に明確な役割を与えてそれに合う選手を抜擢しているのは興味深いと感じました。

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