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「シーズンが進めば球速が上がる」は本当か?を検証

4シームの球速はシーズンが進むと上がるのか?

シーズンが開幕して間もなく3週間が経過するMLBですが、当然好調な選手もいれば不調の選手も出てきています。また成績自体は悪くないが今後の調子が心配になる選手もいます。その最たる例は昨シーズンより球速が落ちている投手でしょう。

具体的には私が先週Twitterで投稿したCLEの先発投手陣(S・ビーバー、C・クアントリル、Z・プレサック)やPHIのZ・ウィーラーといった投手は今季昨年より4シームの平均球速が低下しています。

そんな春先に球速が出ていない投手に関してよく言われることがあります。それは「シーズンが進めば球速は上がってくるだろう」ということです。実際シーズン序盤よりもシーズン後半に球速が上がりそうというのは感覚的には納得できます。今季からSEAに移籍したR・レイも開幕戦は平均球速が92マイルだったものの最新の登板では92.7マイルまで上がっています(それでも昨年より遅いですが)。

今回は上記の仮説である「シーズンが進めば球速は上がってくるだろう」について検証してみたいと思います。

検証の前に今回の検証の条件をまとめておきます。
・検証対象は2021年にMLBで1球以上4シームを投げた804人(投手として登板した野手も含む)

リーグ全体の月別平均球速から分かること

初めの検証では4月から9月までの6か月間の月別の4シームの平均球速を見てみます。まず紹介するのはリーグ全体の月別平均球速です。

球速差①


確かに開幕後5月、6月とシーズンが進むにつれて球速が上昇しています。しかし上昇は0.1マイル刻みに過ぎず、上り幅は思っていたよりも小さい印象です。

選手個人の月別平均球速から分かること

ここまではMLB全体のデータを見てきましたが、選手個人レベルではどうなっているのでしょうか。

球速差②


上のグラフは月次間で球速が増加した投手の割合を表したものです。具体的には4月5月では対象の投手が412人いました(対象になる投手は両方の月で4シームを1球以上投げている選手)。その中で1マイル以上球速が上昇した投手は36人なので、8.74%になります。

このグラフから4月から5月及び5月から6月は65%以上の投手が球速アップに成功していることが分かります。一方で6月から7月及び7月から8月は球速アップに成功した投手は半分を下回っており、球速が下がった投手の方が多かったことが分かります。

さらに興味深いのは8月9月に再び球速アップする投手が半分を超えている点(55.22%)です。この球速アップの理由に関しては①夏場に落ちた球速の反動で上昇②最後の1か月を迎えたことあるいはプレーオフが近づくことで投手のギアが上がるといった理由が考えられるかと思います。

球速アップはどれだけ続くのか

また球速アップがどれだけ継続するかについても補足しておきます。

球速差③

上のグラフの縦軸は5月6月で球速がアップした投手の人数を4月5月で球速がアップした投手の人数で割った比率になります(ややこしいですね。。) 具体的には4月から5月の間で球速がアップした投手は269人いました。その269人の中で5月から6月も球速がアップしたのは146人でした。この146を269で割った比率が54.2%になります。

このグラフを見ると、4月5月に球速がアップした投手の半分以上(54.28%)が5月6月もアップしています。したがって4月から6月は球速が継続的に伸びる投手が多いといえそうです。しかしその後は前月に球速がアップした投手の多くが翌月に球速を落としており、球速アップを2か月続けるのは難しいようです。

4月と6月の平均球速の比較

ここまで見てきたように4月から6月は多くの投手が球速アップを果たしていることが分かりました。ではその2か月の間でどれくらい球速がアップしているのかも見てみましょう。

球速差④

上のグラフは4月と6月に4シームを1球以上投げた377人の投手について6月の球速から4月の球速を引いた球速差の分布を表したものです。0.5の目盛りの92人という数字は球速が0.5マイル以上1マイル未満増加した投手の人数です。

上でも散々書いてきましたが、4月から6月にかけては球速が増加する投手が多いことが改めて分かります。また一番増加幅として多いのは0.5の目盛りであり、その次に多いのが0の目盛りです。この2つで176人と全体の半分弱を占めています。

このように4月から6月にかけて約70%の投手は4シームの平均球速がアップして、そのアップ幅は1マイル未満というのが多く2マイル以上上がるケースというのは極めて稀であることが分かりました。

今回のまとめとおまけ

以上で今回の仮説自体の検証は終わりです。おまけというか補足をつけると、2か月以上登板した投手の中で最も平均球速が速かった月はいつかを表したのが下のグラフです。

球速差⑤


やはり6月が最速月間となる投手が125人で最多となっています。今回何度も繰り返してきた球速は6月までアップするもその後は下がるという話を裏付けた形になりました。このことから既存の選手が7月以降球速を落とした際に、疲労が溜まっていないフレッシュな選手がいればチームには大きいでしょう。

昨年であればSFのC・ドバルなどその筆頭であり、今季であればLADのB・ミラーやTBのS・バズがその役割を担うことになりそうです。

今回は長くなりましたが、まとめておきます。
・投手の平均球速は4月から6月にかけて上昇するも8月までは一旦下落、9月に再上昇が多い
・4月から6月の増加幅は0.5マイル以上1マイル未満が多い

PHOTO BY:Eric Drost