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ホゼ・ラミレスはなぜ期待値以上の成績を残しているのかについての仮説を検証

ガーディアンズの主砲であるホゼ・ラミレスは近年でも稀なレベルの不思議なシーズンを送っています。具体的には、今季ラミレスは期待値系の指標と実際の指標に大きな乖離があるのです。7月末までの総投球数が1,000球以上の左打者93人を対象に期待値系の指標と実際の指標の差をとったランキングが以下となります。

ラミレスは打率と打率の期待値で6位。長打率とwOBAに関しては、期待値との差で両方ともに1位になっています。特にwOBAと期待値との差はスタットキャストのデータが残っている2015年以降に対象を広げても、2018年のアレン・ハンソンに続いて2位となっています。このように今季のラミレスは期待値を大きく上回る成績を残しているのです。そこで今回は①ラミレスの不思議な成績の特徴と②その発生原因について考察します。
 

まずはラミレスの成績の特徴です。

契約延長を交わした今季も例年同様高水準の成績であり、fWAR4.9はアーロン・ジャッジ(NYY)に次ぐリーグ2位。wRC+151も1年目や短縮シーズンを除けばキャリアベストの数値で今季もMVP候補に入るのは間違いありません。
 
では肝心の期待値系の指標と実際の指標の差はどうでしょうか。下記の画面キャプチャはBaseball Savantからとったものです。ラミレスの2015年以降の指標の乖離を表しています。長打打率などは2017年から18年に乖離が結構あります。ただ3指標いずれでも今季は過去最高の乖離を記録しています。
 

 
またここまで言及していませんでしたが、ラミレスは両打ちです。右打席でも指標の乖離は発生しているのでしょうかも見てみます。こちらに関しては、打率とwOBAでマイナスを記録しています。つまり期待値よりも実際の成績が悪いということであり、左打席とは真逆のことが起きているのです。また成績の乖離は例年の水準に近くなっています。


ここまでラミレスの成績の特徴を見てきました。まとめるとこんな感じです。
・今季も成績は例年通りMVP級
・左打席のみ期待値よりも実際の成績が大幅に良い
・右打席は左打席ほど乖離が発生していない

 
ここからはラミレスの左打席における成績の乖離の発生原因について分析したいと思います。いくつかの仮説を考えてみたので、それに基づいて説明します。

 

(仮説1)ラミレスのスピードがアップした説


この仮説のイメージはイチローやバイロン・バクストン(MIN)です。つまりスピードを生かして単打を2塁打にするようなイメージです。期待値では単打になると思われる所で2塁打に出来れば、その分実際の長打率やwOBAは高くなり期待と実際の乖離が発生します。
 
この仮説を検証するために、Baseball SavantのSprint Speed Leaderboardを使います。なんとラミレスのスプリントスピードは確かにアップしていました(!)。特に今季は過去6年でベストの数字を残しており、このスピードアップも乖離の一因かもしれません。ただ右打席ではマイナスの乖離が発生していることを合わせると、若干説得力に欠けます。
 

 

(仮説2)期待値指標が低すぎる説


今回の記事ではラミレスの実際の指標が期待値指標よりも上振れていると説明してきました。ではそもそもの期待値指標が低すぎるのでは?というのがこの仮説です。期待値指標は打球速度と打球角度に基づき計算されるので、その2つについて調べました。
 
まず打球速度からです。こちらは読み通り昨年より打球速度が落ちています。

続いて打球角度です。こちらは逆に今季上昇しています。

つまり打球速度は落ちているが、打球角度は上がっており期待値指標が大きく低いというのは考えにくいように思えます。
 

(仮説3)ラッキーな打球が多い説


これが最後の説です。私は今回の説の検証過程で、ラミレスの期待と実際の指標の乖離が大きい打球のビデオを様々確認しました。そのような乖離が大きい打球に多かったのが外野のフェアゾーンのギリギリに落ちる打球です。
 
フェアゾーンのギリギリに落ちる打球の中にはいわゆる芯を外されたような打球もあり、それらは打球速度が遅いので期待値が低く出ます。一方でギリギリに落ちるので守備の反応が遅れ長打になることも見られました。これらの要因が重なって期待と実際の乖離が発生しているのではないかと思います。
 
下記の画像は今季のラミレスの全打球を表したスプレーチャートです。その下の2021年のものと比較するとレフト・ライト共にゾーンギリギリの打球が多くなっているのが分かります。
 
 

2022年の左打席
2021年の左打席

試しに2022年の右打席も見ましたが、こちらは左打席ほどギリギリに飛んだボールは多くありません。

2022年の右打席

もちろんこれらのギリギリに落ちている打球をラミレスが意図的に飛ばしているのならば現状のような期待と実際の乖離が続くと思います。ただそれには相当な技術が必要であることを鑑みると、かなり難しいのではないかと思います。その意味では今後はより期待値系の指標が示すような成績に収束していくのではないでしょうか。
 
今回はホゼ・ラミレスの期待と実際の乖離について書いてきました。数年前まではBABIPの高低で打者の運の良さを見ていました。しかし現在は様々なデータから打者の運の良さを見ることが出来ると思いますし、今回出した結論以外の仮説があれば是非コメント欄からお願いします。
 
Photo BY: Erik Drost