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レイズとジャイアンツのブルペンが強力な理由ーFIPとK/9の間の相関が弱くなっていること及びその理由についての仮説ー

レイズの歴史的な地区優勝

9月25日のマーリンズ戦に勝利を収めたレイズが2年連続の地区優勝を飾りました。レイズといえばブルペンデーやオープナーといった独創的な戦略を他球団よりも早く導入した事でも知られていますが、今年はなんと規定投球回に到達している投手が1人もいません。現在チーム最多投球回はR・ヤーブローの150.1イニングですが、残り試合数を考えると規定投球回に到達する可能性は低いでしょう。

実は昨年もレイズは規定投球回に到達した投手がいませんでした。しかし昨年はシーズンが60試合という異例の状況だったので、ブルペンの踏ん張りで乗り切るのもそこまでハードルが高くありませんでした。また規定投球回に到達した投手こそ不在でしたが、B・スネル(現SD)やC・モートン(現ATL)といった実力派の先発投手が在籍していました。

ところが今季はそのスネルとモートンがチームを去り、序盤に好投を見せたT・グラスノーも離脱しました。それでもレイズ投手陣はチーム防御率とチームFIPのいずれもリーグトップの成績を残しています。この好成績の最大の要因は何でしょうか?そうです、強力なブルペンです。

レイズブルペンは東京五輪にも出場していたD・ロバートソンやC・マクヒューといったベテランから、昨年オフのスネルのトレードで獲得したL・パティーニョといった新進気鋭の若手まで多彩な人材が揃っています。

レイズと同じくブルペンに個性豊かなメンバーが集まっているのがジャイアンツです。ジャイアンツは8月終盤に先発投手のJ・クエトとA・ウッドが離脱しました。この2人の穴を埋めるために彼らは5日のうち2日をブルペンデーにしました。この秘策が奏功した背景にはリリーフ陣に対する首脳陣からの信頼があるのは間違いありません。

ここまで今季絶好調のレイズとジャイアンツのブルペンを絶賛してきました。そこで気になるのはこの2チームのブルペンには何か共通点があるのかという事です。そしてその共通点こそが今回の記事のメインテーマです。

レイズとジャイアンツのブルペンの共通点

その共通点とはズバリ2チームのブルペンは「三振率がそれほど高いわけではなく四死球率が低い」点です。

2010年代を代表するリリーフ投手といえば、C・キンブレル(CWS)、A・チャップマン(NYY)、K・ジャンセン(LAD)が浮かぶ人も多いでしょう。彼らは皆三振奪取能力に優れていました。そしてその三振奪取能力は強力なブルペンに不可欠な要素として認識されてきました。その背景にあるのは「三振は(野手の守備力等の)運に左右されない」という考え方があります。

実際2018年のFIP上位4チームはいずれもK/9が10.00を超えており、ある意味どれだけ多く三振を奪えるか対決になっている感すらありました。同様に2019年もFIP上位のチームは軒並みK/9が9.00を超えており例外は8.87のジャイアンツだけでした。

ところが今年2021年のFIP上位チームのK/9を見ると、2位のMIAは8.39(27位)、3位のSEAも8.89(22位)とK/9が高くないチームが目立ちます。逆にK/9が高いCIN(10.48)やCHC(10.39)のFIPがそれぞれ4.52と4.48と低迷しているのも分かります。こちらのリンクから確認可能です。

K/9とFIPの相関の強さに関しては相関係数を見ても2018年や2019年と2021年で変化がありました。両者の相関係数は2018年が-0.80で2019年が-0.63で2021年は-0.19になっていて2021年は相関が弱くなっていることが分かります(K/9は高い方が良いのに対しFIPは低い方が良いので両者の相関係数はマイナスになります)。

このように今年はFIPが優秀なチームのK/9がそれほど高くないのです。ではFIPが優秀なチームは何が優れているのでしょうか?それはBB/9です。上で名前を挙げたFIPが優秀なTB,SF,MIA,SEAはいずれも今季のBB/9が30球団中上位5球団に入っています。

BB/9とFIPの相関係数についても言及しておくと、2018年が0.44で2019年が0.65そして2021年は0.59となっています。つまり3年間でそれほど大きな変化なくある程度の相関があると解釈できるかと思います。

ここまでFIPとK/9の相関が弱くなりBB/9との相関はある程度あると書いてきました。そしてTBとSFを筆頭に闇雲にK/9を追い求めるのではなく、BB/9を抑えているチームが結果的にFIPでも良い数値を出している事も紹介しました。

レイズとジャイアンツがK/9を高めるのではなくBB/9を低くする理由に関する仮説

ではなぜSFやTBではK/9を高めるのではなくBB/9が低くなっているのでしょうか。これについては私なりの仮説を2点立てたので紹介したいと思います。

【仮説1】守備シフトの普及で守備の精度が向上→インプレーをそこまで恐れる必要がなくなった?

冒頭で既に触れたように「三振は(野手の守備力等の)運に左右されない」という考え方があったからこそ三振は重視されてきました。しかし極端な話ゴロやフライになっても野手が完全にアウトにしてくれるなら三振にこだわる必要はないのです。三振とゴロやフライではアウトになる確率に差があるから三振が大事であったわけで、ゴロやフライでも確実にアウトに仕留められるなら三振とゴロ・フライに差はありません。

確かにこれは極端な話であり現実的にありえない話ではあります。しかし近年MLBでも守備シフトが多数敷かれるようになっていてその影響は凄まじいものがあります。以下はMLB全体の年間DRSの2011年から短縮シーズンの昨年を除いた10年分をグラフにしたものです。

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明らかに2016年から大幅なプラスに転じており2021年は+436で歴代最高記録を出すのがほぼ確実です。このようにMLB全体の守備力は向上しておりインプレーでアウトになる確率も上がっていると考えると、そこまで強く三振にこだわらなくてもよくなっているのかもしれません。

具体的には三振奪取能力は高いが四死球を与える事も多い選手と三振奪取能力はそこそこだが四死球を与えることが少ない選手の比較を考えてみましょう。この場合従来なら前者が間違いなく評価されたでしょう。しかし守備の改善で後者の三振が少ない選手が打たれて失点になる確率が下がり、前者の四死球から失点になる確率を下回るようになれば両者の評価は逆転するでしょう。これが仮説1です。

【仮説2】リリーフ投手の先発投手化

近年オープナーやブルペンデーといった戦略が浸透した影響で、リリーフ投手が初回や試合序盤に登板することは当たり前の景色となりました。当然ですが先制点は与えたくないものであり、どんなチームも試合序盤の大量失点は避けたいものです。

そうなると先発であれリリーフであれ試合序盤に投げる選手には試合を壊さないことが求められます。つまりリリーフ投手にも本来先発投手に要求していた能力が求められるようになっているのです。だからこそBB/9が低く試合を壊さないタイプのリリーバーをレイズやジャイアンツは求めているのではないでしょうか?これが仮説2です。

まとめ

今回は

①K/9とFIPの相関が弱くなっていること

②BB/9に優れたチームが良いFIPを残していること

③その背景にある仮説

を紹介しました。もちろんこの傾向が続くかは分かりませんが、まずはプレーオフでレイズとジャイアンツのBB/9が優秀なリリーバーがどんな活躍を見せるかに注目です。

Photo BY Charlie Lyons-Pardue