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ロッキーズがクリス・ブライアントを獲得した理由について考察

はじめに

99日間にわたったロックアウトが終わったMLBは大物選手の移籍で盛り上がっています。その中でも驚きをもって迎えられたのが、クリス・ブライアントのロッキーズ移籍です。ロッキーズがブライアントの獲得競争に名乗りを上げたのはここ数日の話で電光石火的に移籍が決まったのはもちろん、ノーラン・アレナドというスターを出した翌年にブライアントを獲得したロッキーズの変わり身の早さに驚いたファンも多いでしょう。

この移籍へのTwitter上での反応を見てもロッキーズの意図が理解できないと考えているMLBファン(他球団の関係者も)は多くいるように見えます。そこで今日は私なりに今回のロッキーズのブライアント獲得の意図を考えてみたいと思います。

アレナド放出の背景

まずアレナドの放出の背景を振り返ってみます。アレナドは2009年のドラフトでロッキーズに入団後13年にMLBデビュー。デビュー後はMLBで最高の守備と高品質な打撃を兼ね備えたスター選手に成長します。そして19年の開幕前に8年$260Mという球団史上最高額で契約延長を結びました。

この契約延長によりアレナドは17年と18年に2年連続でプレーオフ進出を果たしたチームをさらなる高みに導くことになると思われていました。ところが19年と20年に2年連続でプレーオフを逃すと、ロッキーズは20年オフにアレナドをカージナルスへと放出しました。

トレードされた頃にはアレナドとチームのフロントとの間には溝があったとされています。アレナドとしてはチームを強化するための投資が足りていないことに不満を覚えていた一方、チームはアレナドが期待されたリーダーシップを発揮していなかったことに満足していなかったようです。このような軋轢の結果球団史上最高の選手になる可能性があったアレナドは喧嘩別れのような形でコロラドを去りました。

ブライアントがロッキーズにフィットする理由

その1年後にやってくるのがクリス・ブライアントです。ブライアントは13年にプロ入りすると、15年に新人王16年にMVPを獲得と文字通りエリートなキャリアを送っています。確かにMLB2年目でMVPを獲得した選手としては若干物足りなさもありますが、それでもキャリアを通して高いレベルで安定した選手であることには疑いの余地がありません。

両者ともに30歳で若くしてチームの看板を背負った選手という共通点はありますが、対照的な部分も多くあります。その1つがアレナドは3B固定であるのに対し、ブライアントは複数ポジションを守る(そしてそれを本人が望んでいる)点です。

この複数ポジションを守るユーティリティ性こそがアレナド、そして現在FAでショートへの拘りを明かしているトレバー・ストーリーとの違いでありロッキーズがブライアント獲得に至った最大の理由だと思います。

なぜロッキーズがユーティリティプレイヤーを欲していたかは彼らのマイナー組織にヒントがあります。MLB公式サイトのロッキーズのプロスペクトを見ると、MLBデビューが近い (あるいは既にデビュー済みの) 野手が並んでいることが分かります。

COL若手

昨年AAとAAA合計でOPS.889を記録したモンテロ(4位)を筆頭にビレイド(5位)、トグリア(6位)、シュンク(9位)とそれほど有名でなくとも期待の持てる選手が揃っているのです。彼らには打撃で期待されている以外の共通点があります。

それは守備位置が1B,3B,外野の両翼のいずれかになっていることです。3B表記のモンテロも守備の評価は高くないので、1Bや両翼に移動する可能性はあり同一ポジションで選手がダブつくことも考えられます。

またマイナーから昇格した選手がすぐに活躍できる確証はなく、MLBとマイナーの往復を繰り返す選手もいます。つまりモンテロはMLBで好調でもトグリアがイマイチのようなケースは大いにあり得るわけです。このような場合にモンテロを3Bで起用しつつブライアントには外野や1Bに行ってもらうという起用ができるのはかなり魅力的でしょう。

またトグリアが調子を取り戻しモンテロが調子を落としたら、ブライアントを3Bに移すことも出来ます。一方で仮に3Bにアレナドが君臨していれば、モンテロのポジションはブロックされ不慣れなポジションでのプレーを余儀なくされます。

このようにブライアントが1人いることで、チーム全体で好調な若手の出番を確保しやすくなるというのはMLB昇格間近の若手が多いロッキーズにはプラスでしょう。好調な若手をポジションに捉われず起用できるので、チーム全体の打撃力の底上げも期待できます。

さらにクアーズフィールドでブライアントの成績の向上を期待できる部分もあり、ブライアントと若手の相乗効果でロッキーズが躍進する可能性もあると思います。

さいごに

一見不可解な動きに見える今回のブライアント獲得ですが、若手の出場機会を確保しつつチームに強打者を加えることに成功したわけで良い補強ではないかと感じます。ブライアントが13年にプロ入りした際ドラフト前の予想でカブスはジョン・グレイ(COL→TEX)を指名するとされていました。そしてそのあとの指名でロッキーズがブライアントを指名するだろうとも予想されていました。

しかしカブスはブライアントを指名して大成功を収めました。もしカブスがグレイを指名していたら過去10年のMLBの構図は変わっていたかもしれません。本来10年前に繋がるはずだったブライアントがカブスと同じくロッキーズをワールドチャンピオンに導くという物語も見てみたいと思います。


PHOTO BY: Julie Fennell