見出し画像

大谷翔平と元通訳にまつわる憶測の危険性と共感の大切さ

「スポーツは共感や思いやりを育むのだろうか、それともその逆だろうか?」

ジャーナリストのGinny Searleはそう切り出した。私は一瞬目を疑った。スポーツを見ていて、応援している人へ共感を持たないことなんてあり得るんだろうか?

しかし、あれほど大谷翔平の人格や野球の成績を見ても非の打ち所がないと称えるほど彼を神格化し国宝のように扱いながら、いざ事件に巻き込まれるとVictim blamingを始めた一部のメディア。確かに「野球界は思いやりを育もうとする努力をほとんどしていない"the baseball community is doing little to foster empathy”」と感じた。

元通訳は連邦裁判所で銀行詐欺として起訴され、罪を認めている。(ほぼ確実に)投獄され、おそらく長い期間になる。彼は大谷翔平を”兄弟のよう”と公言していたにも関わらず、大谷翔平の口座から$16M(推定24億6800万)を盗んだのだ。

こんなに「いちばんお世話になっている人」から大規模な過ちを犯してくるなんて誰が予言できただろう。Keep your friends close and enemies closerという慣用句が思い浮かんだ。

大谷翔平へのVictim blamingは止まらない。「英語を勉強しないからこんな事件が起こるんだ」などと本質から外れたことで批判する者もいるが、

それこそ元通訳の仕事では?

選手生命は一般人のように65歳まで続かない。ましてや二刀流として歴史を刻んでいくには誰よりも膨大な時間が必要だ。故に野球に没頭し、成長に励み、野球以外のことはプロにお願いして過ごしてきた。渡米が決まり、通訳が必要だった。そこで仕事先の地域に一番詳しい人を選んだ。

しかし、通訳としての業務内容の範囲を超え、事実上の管理者de facto managerという立場を悪用し、許可なく口座をアクセスして自分のものに変え、違法賭博をしたのは誰だった?貯金箱を大切に閉まっていたと思ったら勝手に開けられ、ほとんど使われたと気づいた時、悪いのは窃盗した人か、それとも被害者なのか?答えるまでもない。

大谷翔平は語学留学をしにMLBに移籍したのではない。二刀流選手として挑戦するために渡米した。その上で初めての手続きや慣れない英語を代わりに手伝ってくれたのがあの元通訳だった。

Searleはこう語る:私たちは大谷翔平と元通訳を詮索するのが仕事ではない。情報が限られている私たち部外者にとって最善な行動は
・経過を見守ること
・ギャンブルの危険性と、スポーツリーグがギャンブル業界と結びつくことの道徳的墜落moral turptitudeに関する見解を広めること
・「大谷が不正行為をしたんだ」と執拗に主張してきた人たちに対してどれほど軽率で、真相を知るべきか伝えること  
だと言う。

Searleの記事は、”部外者の分際で被害者を貶めることは倫理的欠如”というメッセージが伝わってきた。そしてそういった部外者の発言をわざわざ取り調べる意味は全くない。「ただ質問しているだけ」と陰謀論者は抜かすんだろうが、それは私たち部外者のではなく、担当している検察や弁護士の仕事だ。事件記者Investigative reporterの仕事でもあるだろう。彼らは妄想ではなく事実(証拠)を追い求める。憶測がなぜこれまで嫌われるか。依頼もしていない人に口出しされる気持ちになってみると良いかもしれない。

本音を言うと、私も当初ニュースで元通訳がストーリーをころころ変えた途端、何が事実なのかさっぱりわからなくなった。元通訳の言った「大谷選手が借金の肩代わりのために知らず違法ブックメーカーに送金を許したのかな?」が筋が通ってそうな話はしっくりきたが、やはり何事にもone side storyだけを聞いたところで、人は自分の都合が良くなるようなら簡単に嘘をつくと身をもって経験してきた。大谷選手が被害者なのにも関わらず声明発表を開いてくれた時、「話が被ってるところがない。これは元通訳がでっち上げた可能性が高い」と思ったが、個人的には、相手が私の推しであろうが個人的に知っているわけではないので、法律に全て明かしてもらえるまで待つことにした。

Searleは面白い見解も示したー「元通訳も被害者だ」と。確かに目を見張ることをしたが、そもそも事の発端は違法ブックメーカーが絡み、困窮させるために仕向けさせたのだと言う。先日カリフォルニア州の中央裁判所で提出された37ページに及ぶ訴状では、元通訳がギャンブルに依存していると認識したうえで借金が莫大に膨れ上がってもギャンブルをするための手段をどんどん提供し、より一層膨れ上がることを許した。

それでも疑問は絶えないだろう。なぜ大谷の代理人は一度も日本語が話せる部下を雇わなかったのか?なぜ銀行は声で明らかに口座名義人(大谷)とは別人とわかる人にアカウントの凍結の解除を許したのか?数千万ドル入っている口座が急に「非公開にしたい」という理由で財務チームはなぜおかしいと思わなかったのか?$325,000分の野球カードを偽名でドジャースのクラブハウスに届くようさせたことが怪しいRed flagと気付かなかったのか?それになぜ水原がクラブハウスでギャンブル依存症だと打ち明けた時、大谷に話の確認をすぐ取らず、試合後のミーティングで球団に発表したのだろうか?だからこその捜査というもので、私たち部外者がやる仕事ではない余計なお世話なのだ。

その答えをあたかも事実かのように広める輩がいちばんの厄介だ。「ただ質問しているだけ」と無害を主張したいだろうけど、憶測は途端に刃に変わり、人の心を傷つけたり、相手を自殺に追い込んだりもする。これが陰謀論の仕組みの基本であり、自分では疑問だったつもりでも、実際は誹謗中傷だと変化し得ることを理解するのが重要だと思う。ただ、これだけは報道されている。

大谷翔平は元通訳に事実上の管理者も兼ねて大きな力を与えるほどの信頼があった。そして、それをエージェンシー含め周りは信じていた。その信頼を悪用したのが元通訳だ。

ことのVictim blamingでは、二刀流選手に対して
「大谷が英語が喋れないからダメなんだ」
「代理人が大谷を守らなかったのが悪い」
「大谷が口座を確認しないのが悪い」などとあるが、
同じロジックで他のケースに当てはめると、これが如何に酷い言葉か解るだろう。
「狙われた君が悪い」
「虐められる君が悪い」
「盗まれた君が悪い」
「痴漢される君が悪い」
「〇〇プされる君が悪い」
「専門に任せる君が悪い」と言ってるのと同じ。
落ち度は犯罪者ではなく被害者に向けている。「犯罪をしてはダメ」ではなく、「犯罪に巻き込まれるお前が悪い」という世の中を作ろうとしている。メディアや陰謀論者はそこに気付かなければならない。

大谷翔平も神格化されているとはいえ実在する人物で、長年”兄弟のよう”でありながら、いちばんお世話になっていた人から裏切られた被害者だ。「ショックだけでは言い表せない」ほどのどん底を経験していたなか、彼の不幸を蜜の味のように楽しむように「世界中が疑ってた」と言う人もいる。
今まで大谷選手の取材・報道をしていたならば、「知らない人たちに対して、信頼に足る人間かどうかが一番」という考えを貫き通すため、直向きに二刀流のルーティーンをこなし、結果を残してきたことを知っているはずだ。日本代表選手として選ばれ、世界中に愛され、尊敬され、彼を日本の宝と言いつつ、憶測を広めて被害者(大谷)を貶めることが正しい”情報”番組の在り方と思っているのだろうか

誤った情報で話を始めたところで誰のためにも、何のためにもならない。大谷翔平含め野球選手は皆、このスキャンダルからすでに区切りをつけ、野球に集中している。未だしつこく「大谷(側)が悪い」と言い続けるのは、欠点の粗探しをしたいメディアと陰謀論者くらいではないだろうか。あまり共感できないところがある。

Source:


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?