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「見せる収納」を英国の暮らしから学ぶ その①


収納を「家事(現状維持)」から「趣味(暮らしを彩る生きがい)」に


生活感を感じさせないように最小限のモノでスッキリ暮らすことは、単純明快で良さそうなのですが、どうにも味気ない、うるおいのない生活になりそうです。
しかも常にモノが目につかないようにしまい込む作業は毎日の「家事」となり、ストレスの原因にもなりかねません。

いっぽう、たくさんのモノを「センスよく使い勝手よく収納」できれば、暮らしが華やぎ、楽しい空間が生まれます。こうなればその作業はもはや「家事」ではなく、「趣味」といえるものになるのではないでしょうか。しかしながら、それなりの技術が必要となります。


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19歳の時にイギリスを旅行してその美しさに魅了され、以来100回を越える渡英経験を持つ井形慶子さん(『古くて豊かなイギリスの家・便利で貧しい日本の家』等 著書多数)によれば、
「イギリスで訪れた家々ではリビングからトイレにいたるまで部屋の定位置にランプ・絵・生活道具などがルールにのっとって収納され、モノが多いのに部屋が雑然と見えない。それは整理整頓された家というより、選び抜かれた品々が大切に扱われている、丁寧な住まいのお手本のようだった」そうです。
イギリスには、どうやら日本にはない収納の知恵があるようです。
隠す収納にこだわる日本に対してイギリス人は、見せて(showing)飾って(decoration)モノを美しく収納しようとします。
今回は井形さんの多くの著書を参考に、たくさんのモノと整然と暮らすイギリスの人々のユニークな住まい方を、収納という私たちが最も頭を悩ませるポイントに絞ってまとめてみました。


第1章 見せて飾る、美しい収納

「左右対称」と「連続」という基本ワザ


日本では高価なモノは箱に入れ、物置にしまい込みますが、イギリスでは家を訪れた人に自慢の品々を見てほしいと願い、それを飾り、表に出します。
リビング・ダイニングがある1階は客を招くショールームで、寝室のある2階はプライベートスペースと、目的にそった家の住み分けを明確にするようになったのです。リビングに思い入れのあるモノを飾り、「見せる収納」に力を入れて家の顔を作り出しているのです。イギリス人が室内をスッキリと見せることができるのは、じつは子供のころから培ってきた、強力なバランス感覚とデザインのセンスがあるからです。

イギリスの住宅地には、ブリックハウスと呼ばれる16世紀のレンガ造りの建物が残っています。

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中央の玄関ドアの上部には半円形の庇があり、その両横に窓、煙突、外壁に刻まれた装飾が左右対称に配され、安定した美しさを際立たせています。

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部屋の中央には暖炉があります。ここを室内のフォーカルポイントに、左右同じ高さに棚を取りつけ、絵をかけます。こうすることで空間にバランスが生まれ、多少モノが増えてもスッキリ見えます。
イタリアが発祥といわれる、たくさんのモノを美しく見せる「左右対称の原理」と、「連続して同じモノを並べるアイデア」を使って模様替えをすれば、室内が見違えるほど整然と見えるから不思議です。


とっておきの食器は飾って収納する

イギリスの収納には重要な二つのポイントがあります。ひとつは「いかに合理的にしまえるか」。そしてもうひとつは「この家の中で何がいちばん大切か」を示すことです。
このような、見せて飾る英国式収納の代表格といえば、シェルビング(shelving)と呼ばれる絵皿などを並べた美しい食器棚です。中世から始まったこの収納法は、食器を飾ることがステータスだったイギリス人の生活習慣でした。リビングルームでよく見かけるガラス扉の付いたキャビネットもそのひとつです。これは別名「ディスプレイキャビネット」といわれ、その家の最も価値あるモノが並べられています。

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私たちは、高価なモノは押し入れなどにしまい込み、スペースがあれば、なるべくふだん使いのモノを効率よく収納しようとする傾向があります。
でも、結局のところ高価なモノを倉庫にしまい込んでも、そこでもスペースは必要となります。しまっても、見せても、モノがスペースを占領することに違いはありません。
伝統的な日本家屋ではかけ軸、床の間の花器など、きわめてシンプルに飾るうえ、自分の持っているモノを見せることは傲慢だと控える傾向にあります。
こんな発想は、イギリス人が他人に「私の妻は美人です」と誇り、日本人は「家内はたいしたことないですよ」と、卑下する態度にもあらわれています。これが収納にも通じる文化の違いです。


第2章 あふれる服に歯止めをかける方法

クローゼットに入る分だけの服を持つ
日本のように四季がはっきりせず、「衣替え」という習慣がないイギリスでは、どんな服も年中着られ、クローゼットには持っている服のすべてがかけられています。その数は日本人に比べるとはるかに少なく、井形慶子さんは、クローゼットを見せてもらうたびに「お持ちの服は本当にこれだけですか?」と何度も聞き返したそうです。

戸建て住宅で比べると、意外にも日本より狭いイギリスの家には、日本の押し入れのような大きな収納スペースがなく、クローゼットも比較的小さいことから「クローゼットに入る分だけの服」が基準になっています。

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新しい服を買ったら、何年も袖を通していないような古着はチャリティーに寄付するなどして、つねにクローゼットの中身を一定に保ちます。
日本人の多くは、新しい服の購入にあたっては「ほしい」という感覚で買っています。しかしながら、イギリス人の発想は「ほしいかどうか」ではなく、「必要かどうか」で購入を判断しようとします。

彼らは、10年以上使えるような上質のコートやセーターなど、本当にいいモノを「セール」で見つけたら、購入後タグが付いた状態で屋根裏や地下室に一旦保管します。そして今着ているモノがダメになったら、初めて袖を通すという気の長い習慣があるそうです。

靴やバッグなど小物も、こうしておくと本当に良質なモノが残り、「安物買いの銭失い」のようなムダもなくなるそうです。
イギリス人は、クローゼットの中を「持ち服のすべてを眺められるようにゆとりを持ってしまうこと」が、合理的なしまい方であると考えます。
このようにしておくと、必要な服と足りない服が一目でわかります。

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散らかるモノに振り回されず、クローゼットの中をコントロールできるゆえんは、ここにありました。


散歩を愛する人々のコートと靴の扱い方

クローゼットの中でいちばんかさばるのが冬用の厚いコート、レインコートの類ですね。
イギリスでは、日常に使用するコートは外出する時に気軽に着ることができるよう、クローゼットにしまい込まず、毎日学校に着ていく子ども用のジャケットと同様に、玄関先にかけてあります。

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家によっては、束になった家族全員のコートがセントラルヒーティングのパネル近くのコートハンガーやフックにかけられています。中には一着だけ大きめのコートをかけておいて、家族皆で同じコートを着回すケースもあるそうです。

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こうしておけば、一日に何回も雨が降るイギリスで、濡れたコートを玄関に吊るすだけで自然に乾くうえ、寝室に持ち込んでクローゼットをぬらす心配もなくなります。

17世紀以降、イギリスでは玄関を入ると「コートラック」というコートをかける場所がありました。また、大きな邸宅では「クロークルーム」と呼ばれる、コートを脱いで収納する専用部屋までありました。
今でも誰かの家を訪問すると、主人が必ずコートを受け取って適当な場所にしまってくれるのは、玄関先でコートを脱ぐ習慣が続いているからです。
この考えは、靴の収納にもあらわれています。
欧米では靴はクローゼットの中にしまうのが基本ですが、毎日の散歩に使うスポーツシューズや家の中を歩くスリッパ(イギリスでも最近は靴を脱ぐ習慣が増えてきました)、そして子どもの靴は玄関に並べます。
コートや靴に限らず、それぞれの用途や目的にそって置き場所を変えることで、使いやすさを追求しているのです。

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