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さけるチーズが落ちていた朝(妄想物語)

朝駅の改札を抜けて、少し歩いたところに、さけるチーズが一本落ちていた。

さけるチーズは、通常2本で売っている。
その真ん中のミシン目をべりぺりぺりと切り離して、一本の状態だった。

誰か落としたんだな。
きっと職場?かどこかについて、食べようとしたらなくて、
ない‼️
と、ショックを受けるんだろうな。

私もさけるチーズが大好きなので、落としたことに気がついたら、ショックだろうなあ、なんて考えていると、久しぶりに妄想が膨らみ出した。

ということで、久しぶりの妄想物語です!


千鶴子は、さけるチーズが大好きだった。

世の中には、さけるチーズを裂かずにかぶりつく人がいるようだけど、それは邪道だ。
さけるチーズは、細く細ーく裂いて食べるものだと千鶴子は思っている。

そんな千鶴子は、毎日お昼に、さけるチーズを食べていた。
と言ってもそれだけではない。
サラダに、豆腐や卵、サラダチキンなど、ちゃんと栄養を考えて食べている。

いつも千鶴子は、食事前念入りに手を洗って、休憩室の、いつもの定位置に座る。

4人がけのそのテーブルに座るメンバーはいつも決まっている。
同僚の早苗、由里子、くるみと千鶴子だ。

早苗が
千鶴ちゃんヘルシーだね。
でもチーズはカロリー高くないの?
と尋ねた。

千鶴子は、
カロリーが高いチーズでも、お昼に食べればいいじゃん!
カルシウムも取れるし、何よりも、少しづつ裂いて食べてたら、満腹感も得られるからね!

千鶴子はそう言って、さけるチーズを2〜3ミリほどに細く細く裂いて食べ始めた。
早苗も、由里子も、くるみも、毎日のこととはいえ、つい、その細かく裂かれていくチーズに目が行ってしまう。

なんだか面白そうだし、美味しそう。

私も今度買ってみようかな?
ある日早苗が言った。

うんうん、美味しいから食べてみて!
という千鶴子。

本当は、一口どうぞ、と言いたいくらいだけど、素手でつまんで裂いたチーズを、ハイっとあげるのも、ちょっとダメな気がする。

ぜひ、買って食べてみて!
と言った。

ある朝、寝坊して遅刻しそうになった千鶴子は、冷蔵庫から昨日の残っていた一本のさけるチーズだけを慌てて取り出し、リュックのポケットに突っ込んで家を飛び出した。
やばい!電車遅れる!

走りながら、リュックのポケットから定期を取り出し、改札を抜けて、なんとか電車に飛び乗った。

よかった。いつもの電車に間に合った。

そして職場に着いた千鶴子は、さけるチーズを職場の冷蔵庫に入れようと、リュックのポケットを見た。

ない!
さけるチーズがない!

その時千鶴子は、定期と同じポケットに、さけるチーズを突っ込んだことを思い出した。
走りながら定期を出した時に、ポロリと落ちたに違いない。

午前中、さけるチーズがないランチのことを考えると、仕事にも集中できなかった。

私のさけるチーズは今頃どうしているだろう。
誰かに踏まれたり蹴られたりしているんじゃないだろうか?
拾って食べる人なんていないだろうから、
掃除の人に拾われて、ポイっとゴミ箱に捨てられてしまったことだろう。

ああ、なんて勿体無い。
可哀想な、さけるチーズ。
美味しく裂いて食べてもらうつもりだっただろうに。
これというのも、私がちゃんとリュックの中に入れなかったせいだ。
寝坊したせいだ。

ああ、バカだバカだ。
今日は、ランチで、さけるチーズが食べられない。

さけるチーズがないランチは、ハンバーグが入っていないハンバーガーを食べるようなものだ。

千鶴子はその日の昼休み、職場に売りに来る弁当屋で弁当を買い、トボトボと休憩室に向かった。

そこにさけるチーズはない。
その時だった。

早苗がやってきて、ふふふと笑って、後ろに回していた手を前に出した。
その手には、さけるチーズ!

早苗は、2個くっついた、さけるチーズの真ん中のミシン目を、ピリピリピリ…と破いていく。

千鶴子は、それを息を飲んで見ていた。
もしかして…
それ…
私にくれようとしてる?

早苗は、期待通りさけるチーズの一本を、千鶴子に
はいっ
と渡した。

ありがとう、早苗!
私が、さけるチーズ忘れたって知ってたの?
と聞くと、
朝なんだか、ないない!ってリュックひっくり返して探してたし、元気なかったし、お弁当買いに行ってたからね。
たまたま昨日、私も食べてみようと思って買って、2個とも持ってきてたからさ。
早苗が笑って言った。

手、ちゃんと洗ってくる!
じゃ、私も。
千鶴子と早苗は念入りに手を洗って戻ってくると、さけるチーズを、細ーく細ーく裂きながら食べ始めた。
ふふふ、美味しいね。
美味しいね。

それをみていた由里子とくるみも、
今度私も買ってみよう♪と言った。

こうして、その後この職場の休憩室の千鶴子たちのテーブルでは、毎日4人揃って、さけるチーズを細ーく細ーく裂いて食べるようになった。

ふふふ、美味しいね。
美味しいね。

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