子供第一党
我が党は、子供の権利と自由を目指し、子供が何者にも縛られない社会を目指します!
そう声を上げたのは、12歳の少年であった。
彼は、9歳の頃から、ネットで仲間を集め、政治活動を始めた。党員はほとんど18歳以下の少年であったが、大人たちの中に彼らを支持するものも多くいた。
彼は裕福な家庭で不自由なく暮らしていたが、両親が昼間仕事で家にいない間、毎日のように塾や習い事に明け暮れ、夜は教育や生活面で厳しく躾けられた。
世間一般では優等生と言われる部類に属していた彼だったが、家庭に優しさや愛情を感じることができず、常に自由を奪われ、監視されているように感じていた。
彼にとって、親は自分にお金は与えても、自由な時間を与えない、自分を束縛するものでしかなかったのだ。
彼は、
学校に行かなくてもいい社会
教師が生徒を評価しない学校
勉強をしたくない子はしなくていい社会
子供を叱らない社会
未来ある子供に十分な援助を与える社会
子供の意思と希望を尊重する社会を作る。
望む子供には、18歳以下でも選挙権を与える
という政策を掲げ、
主にSNSや、ゲームの中で、支持を広げて行った。
国中のほとんどの子供たちが、そんな自由な生活に憧れて、この党の一員となった。
子供の権利を主張する大人たちも、そのような考えに同調し、政治に関心を持つ子供が出てきたということを喜ばしいものだとも感じていた。
現状にあきあきし、目新しい政党を求めていた中間層の人々も、この党を支持したし、野党のいくつかも、この勢いに乗って、与党を倒す為に連立を組もうとし、彼らを支援した。
面白半分に投票した人の票もかさなり、子供第一党は、連立与党の第一党となった。
そうなると、選挙公約に基づき、子供の意思と希望を第一優先にするよう、そのほかの野党の大人に求め、次々と政治を変えていった。
子供の人数は少ない。しかし今から先の未来、大人の3倍以上長く生きる。
そのような考えの下。子供の選挙権を、3倍にする。
(つまり一票を三票にする)
大人は子供を叱ってはいけない。
子供の行動を規制しない。
成績表、内申書の廃止。
大人は子供にお金の不自由をさせてはいけない。
などの規則を作った。
規則を破った大人は、子供に1〜30万の罰金を払わなければならない。
大人たちは、途端に肩身が狭くなった。
子供にものが言えなくなり、子供の言いなりになった。
子供は、ちょっと気に食わないことがあると、決まりに反している。罰金を払え!
と騒ぎ立てた。
こうして子供第一党は、自分たちが望む社会を作っていった。
子供は、
好きなものをいくらでも食べても
嫌いなものは食べなくても
全く勉強をしなくても
全く体を動かさなくても
何時間ゲームをやっていても
夜中何時まで起きていても
朝何時まで寝ていても
どんな服装をしても
何時にどこへ出かけようと
誰にも何も言われることはなくなった。
大人たちは、子供たちの言うがまま、子供のためのお金をせっせと稼ぐだけの存在になってしまった。
大人たちが、子供の将来や、身体のことを思って言うことでも、子供が気に入らないと思うと、わずかな貯金も、容赦なく罰金として取り上げた。
それに、大人のための政策、高齢者を助ける政策は、一切入れられることはなかった。
大人たちは生きる望みを失いつつあった。
一方子供たちは、さんざん好き勝手な生活をして、その生活を後悔する頃には、自分が大人になっていて、もはや、そうならないように忠告することもできなくなっていた。
次々と入れ替わる、子供第一党のメンバーは、たとえ党を作り上げた人間であっても、その人が大人になると、もはやその意見を聞こうとはしなかったのだ。
大人は、当初自分の子供は、子供第一党には入らないだろうと思っていた。
しかし、子供の方は、いつしか小学校に上がると皆子供第一党に入るものだと思うようになり、第一党に入ってこそ、楽しい子供時代が過ごせると思うようになった。
そのうち大人たちは、子供を欲しがらなくなった。
子供の人数が減ると、選挙権は4倍5倍に増えていき、子供第一党の力はさらに強まった。
そして大人たちの多くは国外へ逃亡した。
一方子供時代を子供第一党で過ごした子供たちは、大人になる頃に、身体や精神を壊すものも多くかった。
子供たちは、それは自分の生活のせいではなく大人のせいだと思っていた。
そして多くの子供が、大人になっても親になろうとは思わなかったという。
こうして、この国の人口は減少の一途をたどり、国力は地に落ちた。
その後、隣国の侵略に遭い、あっけなく国が滅びたが、子供第一党の党首は最後まで、
こうなったのは大人たちが自分達を守らなかったからだと言い続けたという。
子ども第一党の初代党首は、子供の自由を求めてこの党を立ち上げたのだが、彼が欲しかったのは、自由ではなく愛だったに違いない。
その誤りに気付かなかった為に国一つを潰してしまったのだ。
ここまで1990文字
このお話は、「2000字のホラー」の企画に参加する目的で作りました。
最初、この企画を知った時に、
別の2000字のホラーを書いていました。
しかし、よくよく読むと、
現代のホラー
ホラーの新しい形を求めているようでした。
私が書いていたのは、フツーの、
いわゆる従来のホラーでしたので、この企画に出すのはやめて、この話ができました。
読んだ人がホラーと思うかどうかわかりませんが、実際にあったら怖いな、という気持ちで書きました。
いつか、今回没にした記事(お話)も、そのうち出すつもりです😄
ちなみにこの企画、
明日までだそうです‼️