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文芸部のヒロイン

文芸部では、毎年この時期に、ミス文芸部コンテストを選ぶ大会が行われる。
エントリーできるのは、部員がこの一年の間に書いた小説の中の登場人物で、一人だけと決まっていた。

今までの小説の中で、一番魅力的な人を探してエントリーする人、
新たにミスに選ばれるようなヒロインを決めて小説を書き出す人、
みな、ミスコンに向けて、さまざまな準備をしていました。

そしていよいよ、ミス文芸部コンテストの結果発表の日。
皆自分の作品への思い入れは強い。
祈るような気持ちで、発表会場にいた。

大賞は…
ふふふ、ミス文芸部は、文芸部のヒロイン、崎元さんね。
司会の部長が発表した。

崎元は、
え?  あ、あの…
私、「文芸部のヒロイン」というお話は書いておりません。
と、戸惑って答えた。

部長は、あらごめんなさい。大賞は近藤さんの「創作部のヒロイン」の作品の中の「秋本」さんです!と言った。

近藤は、真っ赤な顔をして立ち上がった。

部員たちは、お互いの作品を読み合うのだが、近藤が書いた、「創作部のヒロイン」というお話に出てくる、主人公は近藤自身であり、片思いを続けているヒロイン秋本が崎元のことであると、崎元以外全員気がついていた。

つまり近藤は、公開告白したのだ。

「創作部のヒロイン」の主人公権藤は、2年間秋本という女性に片思いをしていた。
前半は彼女の見かけの美しさ、仕草の美しさ、性格のよさ、ちょっと天然の可愛さなど、彼女の魅力がふんだんに描かれている。
そして主人公は、遠回しに何度も気持ちを伝えるが、彼女に全く気がついてもらえない。
そして、とうとうラブレター代わりに、一つの作品を仕上げ、彼女に渡した。
彼女は、大きく目を見開いて、ありがとう!
素敵なお話だわ、と目を輝かせる。

お話の中では、こんな結末なのだが、肝心の崎元はというと…

あーあ、今年も大賞取れなかったか…
と、なぜ最初に部長が自分の名前を出したのか?なんてことを考えもしないで、落ち込んでいた。
ストーリーのようには、なかなかいかないものだ。

部長がふと
近藤さんの小説の意味することもわからないようでは、崎元さんはまたまだ入賞は遠いわね、
と言った。

近藤は、頭をうなだれて、小さくため息をついた。


♯シロクマ文芸部


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