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砂の下の世界 1

私は、昔育った家の砂場があった場所を掘っていた。
表面の土の下は、砂混じりの土で彫りやすい。

小さなスコップでどんどん掘る

サクッ サクッ サクッ サクッ

なぜ掘っているのかわからない。
何かを探しているのか…

7〜80m掘ると、急にポカッと穴が空いて、下には空間が広がっていた。

そしてその下には澄んだ水が流れていて、メダカ、フナ、ハヤ、丸くてお腹がキラッと光るタナゴ(タイリクバラタナゴというらしい)、どじょうや真っ赤なザリガニまで…
沢山の魚がスイスイ気持ちよさそうに泳いでいる。

青々とした水草は、ゆらゆらと揺れて、水面は明るい光でキラキラと輝いている。

ここにいたのね…
死んでしまったのかと思っていた。

それは昔私が川からとってきた、沢山の魚たちでした。

もっと近くで見ようと覗き込んだ時、
私の体はすーっと穴の中に落ちていって、
気づいたら、その水辺を歩いていた。

細長い池は、そのまま川に繋がっている。
私は川の方に歩いて行った。

その川は見覚えのある川。
顔を上げると、少し先に、私の生まれ育った家が見えた。
立て替える前の、瓦屋根の二階屋。
庭には、今は老木となった柿の木と、夏みかんの木が、今より低いけれど、若々しく枝を伸ばしている。
私は家に向かって駆け出した。

庭に入る小さな木でできた入り口の扉を開け、恐る恐る中に入ってみた。

目の前に大好きだったマーガレットの花が咲き乱れている。
右手には小さな小屋があり、その中でチチグサをモリモリ食べていた真っ白いウサギが一匹、ふっと食べるのを止めて赤い目でこちらを見た。

そこから左に視線を移すと、鳥小屋には五匹のチャボ。一羽は雄で4羽は雌だ。
私のお気に入りのチャコもいる。
久しぶり!元気だった?と声をかける。

柿の木と夏みかんの間には、今はもうない桃の木がある。
隣の家との境の塀沿いにはさくらんぼの木と、椿の木が並んでいる。

家の中から、お母さんが
「ご飯できたよー」と呼ぶ声がした。

思わず、はーいと返事をしそうになった。
そういえば、砂場は…

ブドウ棚の下にある大きな砂場に目をやった瞬間

私は、砂場の跡地にいた。
掘った穴は埋まっていた。

夢見てたのかな…

数日後、私は再び砂場の跡地にやってきた。

サクッ サクッ サクッ サクッ
穴を掘っていく

その日も同じように、美しい水の中で、たくさんな魚が泳いでいた。

私は、再び水辺に降り立ち、その後家の周りの、一面のレンゲ畑を眺めたり、横の小川沿い一体にうわっている紫陽花を眺めていた。
すると、ワンワンと私を呼ぶ声がする。

秋田県のムクが、私を見て嬉しそうに尻尾を振る。
ムク、ごめんね…
私最後までちゃんと世話できなかった…

ムクは、私に飛びついてきて、ペロペロ舐め回してくる。

軒先には、カゴがぶら下がっていて、その中にはインコが2羽いる。
水色の綺麗なインコだ。
1羽いない、と思ったら、木箱の中で卵を温めている様子。

家の中から、大好きだった、母の手作りグラタンを焼く匂いがする。
やったあ!
今日はグラタンだ❣️

しかし、庭の中央にある砂場が目に入り、又元の砂場の跡地に戻ってきてしまった。
グラタン食べたかったな…


それから何度も、私はその砂場の跡地を訪れ、穴を掘った。

いつもたくさんの魚たちが迎えてくれて、
その先の我が家は、

ある時は7段のお雛様が飾られてあて、お雛様のお膳セットに雛あられを入れたりして遊んでいる、幼い姉と私の姿があり

ある時は大きなクリスマスツリーが飾られて、部屋の中からチキンを焼く匂いと、と幼い声で歌うクリスマスソングが聞こえる。

しかしある日、いつものように、砂場の跡を掘っていくと、魚の姿が見えない。
川辺を歩いて家に向かうが、辺りがうす暗い。

なんだか嫌な予感がした。


つづく

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