13日に最高裁で判決がでた大阪医科大学事件の判決文を引用しながら自分なりの整理を試みた。
引用や言及は、注目点であったアルバイト職員に対する賞与について興味を持った点に留まるので詳細は上記URL最高裁判例集で全文を参照されたい。
賞与に関する一般論
前提として大阪医科大学事件、東京メトロコーマス事件共に労働契約法20条適用下での判決である。同じく20条下での判例である長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件は賃金名目毎の趣旨を踏まえて不合理性を判断することを示し、本件でも同じ姿勢で判断している。なお労契法20条は働き方改革の一環で、パート・有期法にまとめられた。
労働契約法20条の解釈について大阪医科大学事件最高裁判決は
とし、一般論としては賞与の支給に係るものであっても、不合理と認められるものに当たる場合はあり得るとしている。
報道などでは「賞与が不合理と認められなかった」というのが注目されているが、一概に賞与の不支給が合理的としたものでないことに注意を要する。
判断を分けたポイントー高裁、最高裁の当該賞与の性質の認定の違いとはー
大阪医科大学事件は、賞与について地裁は請求棄却、高裁は認容、最高裁は棄却と判断が分かれた。その判断を分けたポイントは当該賞与の趣旨、性質の認定の違いにある。高裁と最高裁を対比しながら検討したい。
大阪高裁判決(平成30.1.24労判1175.5)は
と賞与の一般論を述べた上で、当該賃金について
とし、当該賞与の性質について就労していたことそれ自体に対する対価と認定した。
最高裁の説示
一方、最高裁は、
として、賞与の支給基準となる基本給が勤務年数に応じて昇給することに着目し、賞与を支給した目的は、人材の確保とその定着にあるとした。この当該賞与の性質、目的の違いが判断を分けたポイントであると考える。
有為人材論?
本判決は、これまで会社側の主張として頻繁にみられ下級審判決等でも取り上げられたような、幹部候補生として会社にとって有為な存在の確保目的で賞与等の賃金に違いを設けても不合理とはいえないとするいわゆる有為人材論をとったという見方もある。しかし本判決は有為人材という言葉を避け、「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」としている。
単に有為人材であると言い張ればよいのではなく、当該賃金項目が、正社員の地位や労働条件、就業規則などの制度からして人材の確保目的と認定できるかが問われることになるのではないか。
本件でも賞与の算定方式、業務の内容、異動の程度を詳細に検討した上で、人材確保目的を認定している。
賞与は、本件と同様、基本給を算定基準とし、基本給は勤務年数に応じて昇給するのが一般的と思われる。勤務年数に応じて上がる基本給を算定基準とする賞与の性質目的は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図ることにあるとされるのであれば、本判例の射程は社会的に一般的な賞与に及ぶとも思われる。
しかし、勤務年数に応じて上がる基本給を算定基準とするだけでは本件下級審のいう「賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する」ともいえるのではないか。やはり人材確保目的といえるだけの職務内容、責任の程度、異動の有無や就業規則、賞与規定など制度的な構築が必要であろう。
登用制度を合理性を推認させる事情とすることの疑問
また最高裁は、職務の内容、変更の範囲に一定の相違があることも指摘したうえで
として、アルバイト職員から、契約社員ら正社員への登用制度があれば、合理性を推認させる事情となることをほのめかしている。
登用制度があれば、なぜ賞与について相違が合理的といえる事情になるのかについては、判決文では示されていない。そのような見解、学説があるのかは調べられていないが、論理展開に疑問がある。
追記
登用制度について本件とは別事件であるが、東京高裁平30.12.13判時2426.77は
としている。この判示からは、正社員と契約社員の地位が固定的でないから、相違があっても良いと読める。しかし、登用制度があり人材は流動的であるにしろ、賃金体系や就業規則の違いなど、制度的に正社員と契約社員という地位の違いがある以上、合理性を推認させる事情とするのは疑問である。
もうひとひねり論理構成がいるように思う。