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 テンジンの母親はテンジンを産まずに死んだ。精子提供者=テンジンの父親に言わせれば、それは一個の男子が天地人と対決し読み勝つ一世一代のギャンブルだった。つまり、まあ、そんなん大体分かっとると思うけどな、お前、あれが次の四月まで持たんと踏んでこそな、お前の卵と種を妾腹に仕込んだわけやから、だった。

 テンジンは父の見解に意見しなかった。自分が親と同じ時代の同じ立場に生きていたらきっと同じようにしただろうし、生まれた子供が自分のように15歳辺りで質問してきたら、同じようにアケスケな説明をしただろうとすら思った。実際、父から聞くまでもなく、そんなんは大体分かっとるわ、でもあった。

 その父も死んだ。40歳だった。病院のベッドに生気を吸われるように萎れた体で、全てを息子に話し、愛と許しを得たつもりで安らかに死んだ。いい気な男だった。

 テンジンは自分が例外ではないことを理解していた。

 2024年冬から2025年夏というテンジンと同時期の出生人口においても、人工授精・代理出産・デザインベイビー・生後すぐの臓器置換と生涯続く抗体投与etc…を施された新生児はごく少数に違いない。それでもテンジンはその時期その数は有意に跳ね上がっていると確信していた。何しろ小学校の時点で一人、中学の同級生には十人、テンジンは自分と似た出生経緯の持ち主を見つけていた。教室で、廊下で、登下校のすれ違いで、テンジンたちは互いの正体を直観した。それは群れをなす動物が血縁の濃さを嗅ぎ分ける様に似ていた。

 一人ずつが持つ細切れの情報と、あとは隠されてもいない報道を組み合わせれば、大体分かるには十分だった。

 問題の根幹にはテンジンの卵子提供者=遺伝子上の母親=合田華籐がいる。華籐の法名は9世ロザン・カトー・アグン。それは旧世紀に離散した流民が保持する宗教体系における高僧の名跡であり、その地位は死後の転生によって継承されていた。 【続く】

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