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【蓮ノ空感想文】花は大きく開いた/ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 2nd Live Tour~Blooming with ○○○~〈千葉公演〉Day.2


 2024年4月21日、幕張メッセ1~3ホールでラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 2nd Live Tour~Blooming with ○○○~〈千葉公演〉Day.2を見ました。



 さて訂正から入るが、当日の僕の体験は「見ました」と言えるようなものではなかった。ただでさえ座席格差の激しい幕張メッセ1~3ホールにおいて、当日の僕が存在を許された位置は『の11ブロック16列16番』。符号の意味は『後方右端ブロック後方列の右端側、右通路から三席目』、口語では「ステージは遠いし他人の後頭部しか見えないし音はズレるし席はぎゅうぎゅうだよ」ということになる。やーい、お前んち、幕張メッセ!

 実際、ステージ上の出来事は本当に何も見えなかった。キャストのご尊顔どころか立ち位置も分からなかったし、ついでに音響も甘いので歌声もちょくちょく埋もれていた。見えたのは辛うじて壇上のモニターだけで、いわゆるトロッコが客席を周回する場面ですら、今どこにいて誰が乗っているのかペンライトの反応色で察する有り様だった。

 だから見たというより、会場にいた。そういうライブである。そういうライブで僕は涙を流し、ヘロヘロに飛び跳ね、居ると信じるわけでもないスクールアイドルの神様にキャストへの加護を祈ったのだ。

 何もかも鮮明に思い出せる。M1-M6の際限ない高まり。M7 千変万華-M8 水彩世界が切り取る世界の美しさ。全員で会場を破壊しようとしたM10-M12。M13 Link to the FUTUREの壮大で果てしない想起。M9 ツバサ・ラ・リベルテ、M21 抱きしめる花びら-M22 Legatoが語る愛と月日。EN1 DEEPNES-EN2 On your markの体を使い切る衝撃。

 開演16:00頃、終演20:00。約四時間、30曲。

 ライブの幕が下り、一万人超を収容した幕張メッセのシャッターが上がる。外は小雨。傘など無い。夜露とコンビニ飯と宿に戻り、Xの感想戦をなぞる。必要悪必要悪と呟きながらサークル対抗戦をループでやっつける。献身的なユーザーではない。時間をかけてもスコアは変わらない。03:00。泥のように眠り、泥のまま目覚め、泥々と宿を出る。09:30。雨はまだ続いていた。昨日と同じコンビニでバカ高い傘を買う。店を出て数分で雨が止む。バカは誰なんだ。分からなくなってきましたね。

 ライブ後の過ごし方として完璧な展開だ。「家に帰るまでがライブ」とは出演したキャストの一人、野中ここなさんがMCで語った言葉だが、そこにはライブを反芻する時間の楽しさも含まれていると思う。一人でぼんやり考えるのは良い。人とああだこうだ言い合うのも良い。今回は前者。

 考えていたことはシンプルだ。僕は何も見えなかったはずのライブで何を見たのか。あの光と音と言葉がどう作用して、こんなにもぐちゃぐちゃな感情が溢れたのか。

 畳んだ傘を手に宿から幕張メッセまで一時間歩き、さらに球場周りと砂浜を一時間半歩いた。

幕張メッセはさ、昨日のライブどう思った?/ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 2nd Live Tour~Blooming with ○○○~〈千葉公演〉Day.3


 足を完全に終わらせてようやく理解の輪郭が見えてきた。つまり僕は、2nd Live Tour~Blooming with ○○○~の想像を超える巨大さと複雑さに圧倒された、ということらしかった。

 巨大であったことは異論もないだろう。愛憎は人の数あるとしても幕張メッセ1~3ホールは蓮ノ空単独で挑んだ最大の会場であり、四時間に及んだ公演時間も過去最長。また30曲の披露も1st Live千秋楽の30曲+ハーフサイズ1曲に次ぐもので、さらに二日間の日替わり曲を加味すれば36曲となり、この点も最多記録となる(1st Liveラストの愛知公演は同条件で32.5曲)。

 さらに付記すれば、この公演時間と曲数は各シリーズの単独ライブを並べた場合でも上位に入ってしまうはずだ。たぶん。違ったらごめん(つまり1st Liveの曲数も異例だったのだが、このときはツアーが巡る中で26曲→30曲→30.5曲と変動した影響かあまり注目されなかったように思う。や、普通に僕が気付かなかっただけですが……)。楽曲の数と体験の質は必ずしも比例しないものだが、巨大なライブであったことはやはり確かだろう。

 ではなぜここまで巨大なライブになったのか。公演曲数のトップはμ'sのファイナルライブ、二日間43曲だが、これは始動から五年の活動を経て辿り着いた数字である。一方、蓮ノ空の活動期間は2nd Liveの前週でようやく約一年。差は歴然。にもかかわらず、と考えたくなる。

 ラブライブ!シリーズのナンバリングライブには一つの基本形がある。それはアニメやゲームのストーリーを現実の歌唱でダイジェスト化する構成のことで、蓮ノ空のライブもこの"伝統"を踏襲したものである。よってテーマの設定に特殊性はない。また活動初期で半年に一度という開催ペースも、通例と比較して異常ではない。それでもこれだけの物量になった。その原因は蓮ノ空のストーリー展開に求めるべきだろう。

 既存のリアルライブがテレビアニメか劇場版アニメを主題としてきたことに対し、蓮ノ空の題材は原作のソーシャルゲーム。つまり1クールごとのアニメや劇場版一本ではなく、ゲーム内の一定期間に展開されたストーリーということになる。ここが恐ろしい問題だ。なぜなら蓮ノ空の物語はリアルタイムに進行し、ライブごとの間隔はそのまま物語内時間として換算・蓄積されていくから。1st Live(2023年10月ー11月)が劇中の2023年4月-10月を再現したように、今回の2nd Live(2024年4月ー5月)は2023年10月-2024年3月を再現するのである(誤植ではなく、披露楽曲の一部が重なっている)。

 もちろんテレビアニメとソーシャルゲームは物語の描写手法に異なる部分があり、同列に語るべきものではない。たとえば「蓮ノ空のストーリーは一ヶ月ごとの出来事が一話になってて、各話が一時間前後の会話劇と三十分~一時間のライブ映像で構成されるんだ」と説明することは簡単だが、それでは大して理解に近づかないように思える。「ふーん、長いんだ。大変だね」もしくは「おまえ誰だよ」で終わってしまう話だ。

 むしろラブライブ!としては(そして楽曲をリリースする種類のアニメとしても)、一話につき4~9曲程度のライブシーンが付くというポイントに着目する方が、蓮ノ空の独特な凄みを捉えやすいのではないだろうか。またそうすれば、ライブシーンで毎月披露される新曲が活動約一年で61曲の持ち歌を生み出し、また1st Liveと2nd Liveの間だけでも計29曲のリリースに繋がり、そこから巨大なリアルライブが実現した──という構図も見えやすくなるはずだ。

「分かった気になるのはまだ早いぞ! 曲の多さはあくまでも巨大なライブを可能にする要素であって、ライブを巨大にする必要性そのものではない!」


 とはいえ、幕張の浜にご指摘いただいたとおり、曲が多いこととライブを巨大にすることは別種の問題だ。そもそも先述したライブ間リリースの26曲にしても内4曲は1st Liveですでに披露されており、また他にも2nd Live千葉公演での披露が考えにくい楽曲が複数含まれている。やはりライブが巨大になった理由ではあっても、必要性というには不十分だ。

 ここで今一度セットリストを見たい。ただし今回は劇中のライブと強く関連する楽曲(+別の理由で外されないと思われる楽曲)をマークした版である。色付きの楽曲と、色が付いていない=再現と関連しない楽曲。これらの混載がライブを巨大で複雑なものにしたのではないか、と考えるのが僕の立場である。


 先述したとおり、蓮ノ空のリアルライブにはライブシーンの現実化によって劇中の物語をダイジェスト化するというテーマがある。そして上図のとおり今回のライブは、2023年10月-2024年3月に描かれた劇中ライブの再現を主軸に構成されたものだった。その理屈に立てば、色付きの楽曲は披露される必要があり、色無しの楽曲は要件に当てはまらないということになる。実際、色付きの21曲でもライブとしては成立する数だろうし、9曲(日替わりで15曲)を足して30曲(36曲)はやはりバカ多い。

 バカは誰なんだ。視点を変えてみよう。

 色無し15曲の内訳は、3(全体曲)+4×3(ユニット曲×ユニット数)。
 転じて、今回のライブで披露されなかった楽曲は61-36で25曲。その内訳は、5(全体曲)+8×2(ユニット曲×ユニット数)+4×1(ユニット曲×ユニット数)。なおユニット毎の差は活動開始時期のズレに起因する。

 日替わりで4曲を使用した結果、未披露が4曲しか残っていないユニットがあることを重視したい。そして次に控える神戸公演でも日替わり曲が出ると踏まえ、さらに全体曲も(たとえば千秋楽などの名目で)ざっくり増減可能な数字と見なしてみよう。するとここに一つの仮説が浮かんでくる。

 つまり、色無しの15曲という数字は、ユニットが平等に披露できる最大の曲数を求めた結果ではないか、ということである。

 こんなものは言うまでもなく妄想だが、動機はあるように思われる。リアルタイムで進行する蓮ノ空は2024年4月をもって各キャラクターが無事進級し、さらに各ユニット一名ずつの新入生を迎えた。つまり今回のライブツアーは、去年度までの体制で楽曲を披露する最後のナンバリングライブということになる。理由付けはそれで十分だろう。2nd Liveの蓮ノ空ができる限りの曲数を披露するなら、そこには確かな必要性がある。

 そしてもちろん、リアルライブの伝統として、色付きの楽曲もまた披露される必要があった。二つの必要が合わされば、巨大にならざるを得ない。

 しかも2nd Liveが描くのは、大きな目標が一時的に遠ざかり、自分たちと周りを見つめ直す再起と試行錯誤の時期だ。色付きの楽曲は「ラブライブ予選」「ラブライブ決勝」「敗退」「挫折と再起」「支えてくれた人々への感謝」「ユニット活動の模索」「大恩ある上級生の卒業」という様々な、本当に様々なベクトルの物語を想起させる。この感情の行ったり来たり乱高下は、たとえば「入学・入部・過去との和解・メンバー加入・大会にエントリー」と分かりやすい上昇志向のあった1st Liveとも大きく異なる。複雑にならざるを得ない。

 さらに言えば上図の通り、再現された物語は時系列も入れ替えられている。なんで? いや、ここに関してはライブとしてのボルテージ管理かな……程度の想像しかできないので置いておこう。もとい。

 2nd Liveの表現が複雑になったのは物語上の必然であり、リアルタイムの活動がそこに拍車をかけ、全てが巨大になった。というのが歩き疲れた一個人の理解である。何も見えないライブに涙し飛び跳ねた僕は、その空間に巨大で複雑な作品があることを確信していた。

「ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 2nd Live Tour~Blooming with ○○○~」 タイトルの最後は空欄である。ここに「あなた」や「私」あるいは目当ての「推し」を代入することは可能で、蓮ノ空がアイドルコンテンツである以上、その自由はリップサービスでもないだろう。また「○○○」自体をこじつけることも無限にできる。「○」が3つで80、さらに3倍の「○」9つで240! つまり四時間のライブと9人編成が予言されていたんだよ! とかどうですか。


 だが巨大で複雑に現れるしかなかった、あのライブを経た今では違う考えも浮かぶ。空欄もまた、空欄のままにする必要があったのだ。代入の余地こそが必要だったのだ。「ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 2nd Live Tour~Blooming with ○○○~」は、様々な時期と理由で咲いた花を現実に描くライブなのだから。





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