レボノルゲストレルによる緊急避妊の効果

はじめに

レボノルゲストレルを用いた緊急避妊薬(代表的なものはノルレボ錠1.5mg(製造販売元/あすか製薬株式会社、販売元/武田薬品工業株式会社、提携/LABORATOIREHRAPHARMA)だと思う)のスイッチOTC化の検討が厚生労働省にて2021年6月7日から始まっている。


レボノルゲストレルを用いた緊急避妊薬のスイッチOTC化の呼びかけは古くは2014年10月に「ピルとのつきあい方」管理人 (twitter: @ruriko_pillton) によってブログ「ピルとその周辺」にて始められ、

ピルとその周辺、私たちにノルレボを! ドラッグストアで買える緊急避妊薬を実現させよう、2014年10月18日
http://finedayspill.blogspot.com/2014/10/blog-post_18.html
その後独立したブログ「すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に!」を設置 http://ec-otc.blogspot.com/

それ以来、緊急避妊薬市販化を求める声がネットに広がり、2017年に医療用医薬品のOTC化を検討する会議が行われた際にレボノルゲストレルによる緊急避妊薬も候補として検討されたが、2017年11月に見送りが決定された。

その後、2018年9月にNPOピルコン (twitter: @pilc0n )代表の染矢明日香氏 (twitter: @asukasuca) が#なんでないの。 (twitter: @nandenaino_) 代表の福田和子氏 (twitter: @kazukof12 )と共にCHANGE.ORGにてオンライン署名キャンペーンを開始、

アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい!
https://www.change.org/afterpill

2020年6月に「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト(略称:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)」のWebサイトが公開された。

そして、遂に2020年10月に「第5次男女共同参画基本計画の策定に当たっての基本的な考え方(案)」で緊急避妊薬を処方箋なしに利用できることを検討することが盛り込まれ、

男女共同参画局 第5次基本計画策定専門調査会(第7回)資料 https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/5th/sidai/5th-7-s.html
資料1-1 p.80 および 資料1-2 pp. 71--72

2020年12月25日閣議決定した第5次男女共同参画基本計画でも緊急避妊薬を処方箋なしに利用できることを検討することが盛り込まれた。

男女共同参画局、第5次男女共同参画基本計画
https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/5th/index.html
第2部II第7分野または一括印刷用PDF p. 91

そして、2021年6月7日から厚生労働省にてレボノルゲストレルを用いた緊急避妊薬のスイッチOTC化の検討が開始したのである。

緊急避妊に限らず、避妊に関する選択は自身の身体に関する自己決定の一部として広く尊重されるべきであり、緊急避妊薬のアクセス改善は一刻も早く行うべきものだと考える。OTC化に伴って、入手経路が増えると共に市場において高価格が改善することが望まれる。

緊急避妊薬の避妊効果について

さて、本記事では、レボノルゲストレルを用いた緊急避妊薬の避妊効果について語りたい。そもそもレボノルゲストレルによる緊急避妊は確実ではなく、ほぼ確実とも言えない。しかし、避妊効果については様々な数値が報告されているため、ここではどのような数値が報告されているかを紹介したい。

ノルレボ添付文書の記述

ノルレボ錠1.5mg(製造販売元/あすか製薬株式会社、販売元/武田薬品工業株式会社、提携/LABORATOIREHRAPHARMA)の添付文書では臨床成績に国内第III相試験の結果として、性交後72時間以内に0.75mg製剤2錠(レボノルゲストレルとして1.5mg)を1回経口投与した結果、解析対象例63例のうち、妊娠例は1例で、妊娠阻止率は81.0%であったと記述されている。また、海外第III相試験の結果については後述のWHOの2002年の報告に基づいて「性交後72時間以内に他のレボノルゲストレル製剤1.5mgを1回経口投与した際の」妊娠率(妊娠例数/評価症例数)は1.34%(16/1198)、妊娠阻止率は84%という数値を挙げている。

インタビューフォームの臨床成績には前述と同様の国内第III相臨床試験結果を挙げ、さらにWHOの1998年の試験結果として後述のWHOの1998年の報告から「0.75mgを12時間間隔で2錠処方した場合」の妊娠例数/評価例数は11/976、妊娠率(95%CI)は1.1%(0.6~2.0)、妊娠阻止率(95%CI)は85%(74~93)という数値を挙げている。

一方、「用法及び用量に関連する注意」の解説ではWHOの2002年の報告に基づいて、性交後72時間以内にレボノルゲストレル1.5mgを1回投与した際の妊娠阻止率は84%であるが、72時間を超えて本剤を服用した場合には63%に減弱する傾向があると報告されていることを記述している。

WHO報告の記述

では、WHOの報告ではどのように記述されているか。

WHOの1998年の試験結果の報告では、

Task Force on Postovulatory Methods of Fertility Regulation; D. Grimes, H. von Hertzen, G. Piaggio, P. F. A. Van Look, Randomised controlled trial of levonorgestrel versus the Yuzpe regimen of combined oral contraceptives for emergency contraception, Lancet 1998;352 (9126), 428--433, https://doi.org/10.1016/S0140-6736(98)05145-9

レボノルゲストレル0.75mgを12時間間隔で2錠処方した1001例の場合に、25例の結果不明のケース(服用しなかったケースが2例、髄膜炎で死亡したケースが1例、報告取り下げが1例、追跡不能のケースが21例)を除き、性行為から1回目の服用までの時間に対して妊娠率を求めている(() 内は95%信頼区間である。以下、レボノルゲストレル0.75mgを2錠服用した場合、12時間間隔での服用、服用までの時間は性行為から1回目の服用までの時間を指す)。

時間 妊娠例数/母数 妊娠率 (95% CI)

 1-24   2/450        0.4% (0.1-1.6%)
25-48   4/338        1.2% (0.3-3.0%)
49-72   5/187        2.7% (0.9-6.1%)
 1-72  11/976        1.1% (0.6-2.0%)

(Table 3 より)

緊急避妊を行わなかった場合、予測される妊娠数は75.3人であったことから、妊娠阻止率は1回目の服用が24時間以内の場合からそれぞれ95%、85%、58%、全体では85% (95% CI: 74-93%) となる(p. 431左)。前述のノルレボのインタビューフォームではこの、976人中11人、妊娠阻止率85%(95% CI: 74-93%)という数値が引用されていることになる。

なお同論文はヤッペ法による妊娠率も計上しており、997例の処方に対して18例の結果不明のケース(髄膜炎で死亡したケースが1例、報告取り下げが2例、追跡不能のケースが14例)を除き、妊娠率を求めている。

時間 妊娠例数/全体 妊娠率 (95% CI)

 1-24   9/459        2.0% (0.9-3.7%)
25-48  15/370        4.1% (2.3-6.6%)
49-72   7/150        4.7% (1.9-9.4%)
 1-72  31/979        3.2% (2.2-4.5%)

(Table 3 より)

妊娠阻止率は1回目の服用が24時間以内の場合からそれぞれ77%、36%、31%、全体では57% (95% CI: 39-71%) となる(p. 431左)。

2002年のWHOの試験結果の報告では

WHO Research Group on Post-ovulatory Methods of Fertility Regulation;
Helena von Hertzen; Gilda Piaggio, Juhong Ding, Junling Chen, Si Song, Gyorgy Bartfai, Ernest Ng, et. al, Low dose mifepristone and two regimens of levonorgestrel for emergency contraception: A WHO multicentre randomised trial, Lancet 2002; 360 (9348), 1803--1810, https://doi.org/10.1016/S0140-6736(02)11767-3

ミフェプリストン(海外では経口中絶薬として用いられている他、緊急避妊薬としても用いられている)を服用した1380例(20例は追跡不能、1例は月経停止後の性行為)、レボノルゲストレル 1.5mg1錠を服用した1379例(22例は追跡不能、1例は月経停止後の性行為)、レボノルゲストレル 0.75mg2錠を12時間間隔で服用した1356例(19例は追跡不能、2例は月経停止後の性行為)について分析している。

避妊法               妊娠数/予想妊娠数/全体 妊娠阻止率 (95% CI)
ミフェプリストン            21/108/1359         81% (69.2-87.8%)
レボノルゲストレル 1.5mg1錠   20/111/1356         82% (70.9-88.7%)
レボノルゲストレル 0.75mg2錠  24/106/1356         77% (64.9-85.4%)
レボノルゲストレル 計         44/216/2712         80% (71.2-85.6%)
(Table 3 より)
時間   避妊法           妊娠数/全体 妊娠阻止率 (95% CI)
1-3日 ミフェプリストン           18/1215 82% (70.5-89.0%)
     レボノルゲストレル 1.5mg1錠  16/1198 84% (73.0-90.5%)
     レボノルゲストレル 0.75mg2錠 20/1183 79% (66.2-86.8%)
4-5日 ミフェプリストン            3/ 137 58% (-23.8-86.0%)
     レボノルゲストレル 1.5mg1錠   4/ 150 63% (1.5-85.7%)
     レボノルゲストレル 0.75mg2錠  4/ 164 60% (-5.9-84.6%)

(Table 4 より)

前述のノルレボの添付文書ではこの、1198人中16人、妊娠阻止率84%という数値が引用されていることになる。72時間超120時間以内の服用の効果については、全体数も妊娠事例数も少ない為、正確性にはかなりの疑問が残る数値である。

1999年のWHOの報告では性行為から服用までの時間に対して、12時間単位での妊娠率を上げており、12時間以内では0.5%、60時間超72時間以内では4.1%としているが、ヤッペ法と合わせた数値であり、レボノルゲストレルの避妊効果を示したものではない。

G. Piaggio, H. von Hertzen, D. A. Grimes, P. F. A. Van Look, on behalf of the Task Force on Postovulatory Methods of Fertility Regulation, Timing of emergency contraception with levonorgestrel or the Yuzpe regimen,
Lancet 1999; 353 (9154), 721, https://doi.org/10.1016/S0140-6736(98)05718-3

「すぐに必要な時がある。緊急避妊薬ノルレボを市販薬に!」のキャンペーンの趣旨説明ではこの論文のグラフを引用して図表化しているが、ヤッペ法と合わせた数値であるからここでレボノルゲストレルによる緊急避妊の失敗の数値としては適当でない。一方で別の箇所でドイツ政府機関のパンフレットから1998年のWHOの報告に基づいた「95%、85%、58%」の数値を引用している。染矢明日香氏と福田和子氏のCHANGE.ORGの方の署名活動も、この「95%、85%、58%」の数値を引用している。1998年の報告によれば、1日毎に妊娠リスクは2~3倍に上昇すると考えられる。もっとも、2002年の報告や、以下に示す他の報告など、研究ごとに妊娠阻止率は異なる数値を示しているから、「95%、85%、58%」にしても国際的な権威ある機関による分析結果ではあっても、確立した数値ではない。

ナイジェリアにおける服用結果の分析

ナイジェリアにおける服用結果を分析した研究では妊娠阻止率 (95% CI)は0.75mgを2錠服用した場合、72時間以内の服用で妊娠が確認されたのは 1235人中4人で妊娠阻止率 (95% CI) は97.4% (93.2-99.3%)、72時間超120時間以内の服用では159人中3人で妊娠阻止率 (95% CI) は78.4% (36.9-95.6%)、103人が不明であった。一方1.5mgを1錠服用した場合、72時間以内の服用で1257人中5人の妊娠が確認され妊娠阻止率 (95% CI) は96.7% (92.4-98.9%)、72時間超120時間以内の服用では142人中4人で妊娠阻止率 (95% CI) は72.5%(29.6-92.5%)、96人が不明と報告されている(Table 3)。

Olukayode A. Dada, Emily M. Godfrey, Gilda Piaggio, Helena von Hertzen,
On behalf of the Nigerian Network for Reproductive Health Research and Training, A randomized, double-blind, noninferiority study to compare two regimens of levonorgestrel for emergency contraception in Nigeria Contraception 82 (2010), 373--378, https://doi.org/10.1016/j.contraception.2010.06.004
筆者の環境では上記のリンク先からダウンロードできなかったため、ScienceDirect https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010782410003574 からダウンロードした。

他の研究結果と比べて非常に高い妊娠阻止率を示しているが、不明となった件数が多いため、単純に比較することはできないと思われる。

酢酸ウリプリスタールによる緊急避妊との比較

近年、海外では酢酸ウリプリスタール(17α-アセトキシ-11β-(4-N, N-ジメチルアミノフェニル)-19-ノルプレグナ-4,9-ジエン-3,20-ジオン、別名CDB-2914、略称UPA)による緊急避妊薬が開発・承認され、酢酸ウリプリスタールの避妊効果の試験・研究においてはレボノルゲストレルの避妊効果との比較も行われている。

2006年の報告では酢酸ウリプリスタール50mg服用例とレボノルゲストレル0.75mg2錠服用例の分析が行われた。

Mitchell D. Creinin, William Schlaff, David F. Archer, Livia Wan, Ron Frezieres, Michael Thomas, Michael Rosenberg, and James Higgins, Progesterone Receptor Modulator for Emergency Contraception: A Randomized Controlled Trial, Obstet Gynecol. 108 (2006), 1089--1097, https://doi.org/10.1097/01.AOG.0000239440.02284.45

酢酸ウリプリスタール服用例832例から追跡不能または妊娠状況不明29例、緊急避妊前の妊娠4例、調査後再度緊急避妊を行った事例13例を除いた775例中、妊娠した事例は12例あるが4例は調査開始前に妊娠していたことが判明し、1例はさらに性行為を行い、レボノルゲストレル(Plan B)による避妊を行っていたことが判明しており、これらを除外した(母数からは除外していない)妊娠事例は7例となる。

日数の短い順に妊娠数/緊急避妊を行わなかった場合の予想妊娠数/全体数は 0/19/273, 6/14/268, 1/14/234、妊娠阻止率は100% (95% CI 評価不能)、57% (6-81%)、93% (52-99%) となる。全体では妊娠数、緊急避妊を行わなかった場合の予想妊娠数は7/47/775、妊娠阻止率は85% (68-93%) となる(Table 2)。

レボノルゲストレル服用例840例から追跡不能または妊娠状況不明54例、緊急避妊前の妊娠1例、調査後再度緊急避妊を行った事例11例を除いた774例中、妊娠した事例は14例あるが1例は調査開始前に妊娠していたことが判明しており、これを除外した(母数からは除外していない)妊娠事例は13例となる。

日数の短い順に妊娠数/緊急避妊を行わなかった場合の予想妊娠数/全体数は4/14/263, 3/16/298, 6/12/213、妊娠阻止率は71% (95% CI 28-89%)、81% (42-94%)、50% (0-77%) となる。全体では妊娠数、緊急避妊を行わなかった場合の予想妊娠数は13/42/774、妊娠阻止率は69% (46-82%)となる(Table 2)。

いずれも予想妊娠率を従来の研究よりも低く評価しているため、妊娠阻止率も低く出る傾向にある。

酢酸ウリプリスタールがアメリカで承認された2010年に現れた報告では

Anna F Glasier, Sharon T Cameron, Paul M Fine, Susan J S Logan, William Casale, Jennifer Van Horn, Laszlo Sogor, Diana L Blithe, Bruno Scherrer, Henri Mathe, Amelie Jaspart, Andre Ulmann, Erin Gainer, Ulipristal acetate versus levonorgestrel for emergency contraception: a randomised non-inferiority trial and meta-analysis, Lancet 2010; 375 (9714), 555--562, https://doi.org/10.1016/S0140-6736(10)60101-8

酢酸ウリプリスタール30mg服用例1104例から追跡不能48例、35歳以上69例、妊娠状況不明29例、再登録14例、緊急避妊前の妊娠2例、緊急避妊後10日以上の妊娠のため緊急避妊の成否との関連付けが不可能な事例1例を除いた941例中、妊娠数は緊急避妊までの日数の短い順に5/312, 7/329, 3/203, 0/63, 0/34(Figure 2)、72時間以内の服用例844例のうち妊娠数は15、妊娠率は1.8% (95% CI 1.0-3.0%) と報告された(p. 558右)。

一方、レボノルゲストレル1.5mg服用例1117例から追跡不能40例、35歳以上76例、妊娠状況不明17例、再登録22例、緊急避妊前の妊娠2例、緊急避妊後日以上の妊娠のため緊急避妊の成否との関連付けが不可能な事例2例を除いた958例では、妊娠数は緊急避妊までの日数の短い順に10/337, 7/319, 5/196, 2/73, 1/33(Figure 2)、72時間以内の服用例852例のうち妊娠数は22、妊娠率は2.6% (95% CI 1.7-3.9%) と報告された(p. 558右)。

この論文も緊急避妊を行わなかった場合の予想妊娠率を従来の論文よりかなり低く評価しており、酢酸ウリプリスタール服用群では5.5%、レボノルゲストレル服用群では5.4%と評価しているため(p. 558右)妊娠阻止率はそれぞれ2/3強、1/2強となる。

終わりに

レボノルゲストレルによる緊急避妊の効果の評価はばらつきがあるものの、性行為から服用前の時間が短いほど高い避妊効果が得られることは間違いないと思われるので、迅速な入手が可能となるよう、OTC化などのアクセス状況の改善は重要であると言える。

また、酢酸ウリプリスタールによる緊急避妊はより避妊効果が高いと考えられ、日本においても早い承認を望む。

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