新潮45 2018年8月号記事 『放射能不安を煽って生まれた福島「甲状腺がん災害」』という特集のご紹介
元首相5人が欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会に送った書簡問題をきっかけに、福島の子どもたちを対象に行われている甲状腺検査の問題点について広く日本中の方に知られるようになりました。
実はこの問題は、ずっと前から知る人ぞ知る深刻な状態だったのですが、福島の人でもなければ、すっかり忘れ去られていたように思います。
ジャーナリストの上條昌史氏が2018年に新潮45でこの問題の本質に深く切り込んでおられる記事がありました。
福島の甲状腺検査が、子どもたちの被害をこれほどにまで出しながらなぜ止まらないのか、という疑問に答えた貴重な記事だと思います。しかし、残念ながらこの雑誌は廃刊になっており、一部はネットで見ることはできますが、現在容易にこの雑誌を手に入れることができません。このNoteで概略をご紹介したいと思います。
ネット記事は
福島県民必読!放射能不安を煽って生れた 福島「甲状腺がん災害」 2018年7月26日
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/07260631/?all=1
として出ています。
そこにかかれていない部分も一部加えて、皆様の理解に役立ちそうな部分をご紹介します。
現地取材・徹底検証
放射能不安を煽って生まれた福島「甲状腺がん災害」
―「過剰診断」と必要のない「がん手術」が子どもたちを苦しめている
上條昌史氏ノンフィクションライター 1961年東京生まれ。慶応義塾大学文学部中退。編集プロダクションを経てフリーに。事件、政治、ビジネスなど幅広く執筆活動を行う。
最初に、福島で甲状腺がんと診断された子どもが急増している実態について報告しています。
それをマスコミが、「放射線のせいで甲状腺がんが増えている」という構図で報道していることに疑問を投げかけ、専門家から過剰診断の被害が出ているのではないか、との懸念が呈されていることを紹介しています。
「もはや災害」(新潮45の副題より)
マスコミは甲状腺がんの患者が増えていることだけに注目して危機感をあおり、過剰診断の話が専門家から出されていることに対しては、
「読者の声」として「御用学者が被害の隠蔽のために検査を縮小しようとているのではないか」
という陰謀論を掲載している。
福島県における過剰診断の議論の現場を見るために、福島県の有識者会議に参加した。そこで見たのは、会議後の記者会見の場で記者たちがマイクを独占して参加した委員や福島県立医大の関係者を糾弾する異様な姿であった。
過剰診断に警鐘を鳴らしている大阪大学の髙野徹氏に取材をした。
「ここまで被害が拡大したらもはや災害と言っても良い。」
死亡率は変わらない(新潮45の副題より)
ここからは甲状腺がんの性質について解説しています。
福島の有識者会議と国連のUNSCEAR(アンスケア)は福島での被曝は甲状腺がんを引き起こすようなレベルではなく、現在見つかっている甲状腺がんも統計学的に放射線の影響によるものとは考えにくいとの報告を出している。
また、甲状腺がんは潜在癌が多く、過剰診断を引き起こしやすく、また子どもが過剰診断を受けると、身体的・精神的・社会的・経済的な不利益を被ることになる。
髙野氏に、甲状腺検査で過剰診断が起こっているなら、県立医大で行われている手術は過剰治療なのか、という質問した。その回答は、
「手術はガイドランに従ってされているので法律上は医療過誤ではない。しかし、ほぼ全例が過剰治療であると思う。しかし、手術をしてしまえばどの症例が過剰治療なのはわからなくなる。」
「過剰診断が起こるのは当然」(新潮45の副題より)
続いて、渋谷健司氏(東京大学)に対するインタビューの内容が書かれています。
渋谷氏は2014年に福島県の有識者会議で過剰診断の問題を指摘している。
「被曝量がこれほど少ない状況で、規模な検査を実施すれば過剰診断が起こるのは当然。対象者に検査と手術のメリット・デメリットをきちんと説明すること、学校での半強制的な検査体制を改めることが必要。」
当時まだ福島県立医科大学に在籍されて検査を担当されていた緑川早苗氏にもインタビューしています。
「甲状腺検査では将来増殖が止まってしまう甲状腺がんを発見し、診断してしまう可能性がある。」
「検査をすること自体が県民に不安をもたらす可能性がある。」
これらことを踏まえ、緑川氏は現在のような検査のあり方に疑問を表明している。
検査をやめられない構図(新潮45の副題より)
本記事の核心ともいえる部分かと思います。
福島県の検査担当者に取材しています。
県の担当者の発言は以下の通りです。
・有識者会議がやめろといってもそれで検査がやめられるわけではない。県知事あるいは県議会が判断することである。
・県民健康調査の総予算は1000億円を超えている。
県立医大の関係者には少なくとも10年間は検査を継続したいとする強い意志がある、との情報があったということで上條氏が県側に真偽を確認しました。
「そういうことは基本的にありません。あくまでも県が県立医大に委託している事業なので、県の判断で継続しているということです。」
以下上條氏の意見です。
・福島県としては既に多数の子どもたちが手術を受けてしまっている以上、いまさら過剰診断・過剰治療を認めるのは難しいだろう。
・検査の中止は原発事故の被害の隠蔽を意図するものだ、と反原発派は反対している。したがって、記者会見の場ではいかにも対立しているように見えた福島県と反原発の記者たちは、検査を継続したいという方向性では実は一致しているのである。これが検査が止まらない原因である。
県民健康調査・検討委員会座長の星北斗氏にインタビューをされています。
「現在の福島の状況は、疫学的には過剰診断と言えるかもしれない。自分は自分の娘には検査を受けるリスクが大きすぎるので受けなくていい、と言っている。」「検査をやめろと言っているわけではない。適正化していく必要がある。」
“絡みにくい”福島の問題(新潮45の副題より)
取材の後、開沼博氏(立命館大学)の意見を聞いています。
「原発危険論者は自分たちに不都合な言説を覆すのは難しいので陰謀論に走る。イデオロギーが持ち込まれることで、福島の問題に一般の人たちが絡みにくい状況が作り出されている。」
「検査が止まらないのは、関係者のそれぞれの利害関係が均衡を保ち、不本意ながらも落ち着いた状況を作ってしまっているため。お互い牽制しあって自分から降りるわけにはいかなくなってしまっている。」
以上です。
読んでいただくと、すでに2018年にわかっていた問題点がそれから4年たった現在でも状況が一向に改善していないことがおわかりいただけるかと思います。
今後何かが変わるのでしょうか、続報を期待したいと思います。