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日本甲状腺学会雑誌 甲状腺癌の過剰診断を考えるの号 2021年April Vol.12 No.1 要約を少しだけ

日本甲状腺学会雑誌出ました
Journal of the Japan Thyroid Association
『甲状腺癌の過剰診断を考える』の号

2021年April Vol.12 No.1

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Editorials


特集1 甲状腺癌の過剰診断を考える 緑川早苗先生


・甲状腺癌の死亡率の上昇を伴わない罹患率の上昇は世界的傾向で,過剰診断に警鐘が鳴らされている。
・日本では縮小手術やactive surveillanceといった治療における積極的取り組みが行われているものの,過剰診断は疫学的概念であることから,臨床家や患者・検診 対象者にとって理解が難しく,過剰診断そのものに対する対応は遅れており,日本でも甲状腺癌罹患率は上昇傾向にある。
・本特集は,甲状腺学会員の方々が過剰診断の本質や特徴をよりよく理解し,日常診療や検診の場面で過剰診断の不利益から患者や対象者をいかにして守るかを考えていただきたいと願い,企画された。
・診断治療や調査研究に不利益(害)があ ることが明らかになったとき,その事象をタブー視するのではなく,立ち止まり修正することが求められるのではないだろうか。それが医療者や研究者に求められる倫理であり行動規範であろう。
・過剰診断への理解 が深まり,福島の甲状腺検査と住民の置かれている状況の正しい理解と検査の軌道修正につながることを切に願う。


特集1 甲状腺癌の過剰診断を考える


【過剰診断とはなにか?】


p5 がん診療における過剰診断 祖父江 友孝先生

・過剰診断は,病理学的には正しく癌と診断されたもの。癌の成長速度が遅いこと,受診者の余命が限られていること2つの要因に依存。
・結果的に,手術などの治療がなされる場合が多いので,無治療であったらどうなったかの観察はできず,個々の癌について判断することは難しい。
・過剰診断は,検診の過程で間違った判断がなされたわけではないのに生じるため,受診者側も医療者側も,不利益とは認識しにくい。
・今後,過剰診断の定量的な評価研究を進めるとともに,正しい理解の普及方法についての検討も進める必要がある。


p10 甲状腺癌過剰診断抑制への病理からのアプローチ-増殖速度を指標とした甲状腺癌のリスク分類ー 覚道健一先生ほか


・甲状腺癌の過剰診断は,病理医が『良性腫瘍 / 境界腫瘍』を『癌』と誤診したことにより起こるのではない。
・治療が必要な癌と,早急な治療の必要がない増殖の遅い癌を区別することが肝要だが現在の病理診断は正確に区別できない。
・筆者が癌から境界腫瘍へ分類変更を提案し WHO 分類に取り入れられた境界腫瘍と,2015 年に 発表した Ki67 標識率(増殖速度の指標)を用いた甲状腺腫瘍分類を紹介する。
・患者が腫瘍死しない増殖の遅い癌と治療の必要な増殖の早い癌を区別する方法を紹介する。


p16 Thyroid cancer overdiagnosis: the ethical issues Wendy A Rogers, Ph.D.
( 甲状腺がんの過剰診断:倫理的問題)オーストラリア、シドニー、Macquarie大学 臨床医学部 臨床倫理学教授


・甲状腺乳頭がんの過剰診断は国際的に問題になっており、患者にかなりの害をもたらす。
・甲状腺がん手術の合併症の発生、手術後のホルモン補充の必要例などの害が種々報告されている。
・診断と介入は罹患率と死亡率を防ぐなら正当化されるが過剰診断なら正当化はない。
・心理的影響も大きく、米国では経済的に追い詰められてしまった人が癌のない人の3倍にもなる。
・米国における高分化型甲状腺がん治療の年間費用は15億米ドルを超えると推定されている。医療予算は通常限られているため、過剰診断された甲状腺がんの治療に費やされる資金は、健康を脅かす症候性疾患の予防または治療に利用できない。
・過剰診断の害は、対応する利点とバランスが取れていない。
・Strategies to address thyroid cancer overdiagnosis include risk stratification and the development of better communication resources.


【甲状腺乳頭癌の過剰診断】


p22甲状腺癌の自然史と過剰診断発生のメカニズム 髙野 徹先生

・若年者の甲状腺癌を超音波検査等で超早期に診断することは死亡率の低減やQOLの改善につながらず、対象者に過剰診断による弊害をもたらす。
・アメリカのデータでは未成年の甲状腺がんの再発率が甲状腺超音波検査導入後には大幅に跳ね上がっている。
・弊害についての十分な説明なしにスクリーニングをして偶発的に甲状腺癌が見つかった場合、医事紛争の対象となる可能性がある。
・韓国で過剰診断の被害が発生した際、超音波検査の弊害を否定して被害を拡大させたのは韓国の甲状腺の専門家達であった。
・日本の専門家たちが過剰診断問題にどう向き合うかは世界が注目している。会員各自が医療者としての自覚を持って後世の評価に耐えうるような行動をされることを切に願っている。


p28 甲状腺超音波診断装置導入の影響-偽風土病-  植野 映先生


・震災直後,福島県 の小児を見守るために甲状腺超音波検査が導入され,その結果,小児甲状腺癌の実態が明らかになるとともに,その弊害も湧出するところとなった。
・科学的にはさらなる綿密な調査が必要ではあるが過剰診断・過剰治療の弊害は大きく,ヘルシンキ宣言に則り,医学的な見地でもって今後のモニタリングが行われることを提案する。
・被曝放射線量が確定され,スクリーニングによりその甲状腺癌の発生頻度が判明してきた現時点においては一度立ち止まり,医師の Autonomy と Regulation を発揮すべきである。


p34 世界の甲状腺癌罹患率の状況  宇佐 俊郎先生


・1980年代以降,世界のほとんどの地域で,甲状腺癌の罹患率の上昇が認められている一方,罹患率の上昇があるが,死亡率は不変か低下。
・非致死性の微小な甲状腺癌を多く診断している可能性(過剰診断)が指摘されている。
・実際にサイズが1.5cm以下の甲 状腺癌と診断された症例に対してactive surveillance を行った研究では,サイズの増大や腫瘍体積の増加が認められたのは約15%だけで,約 85%の症例では腫瘍体積は不変か,減少したことが示されている。このことは1.5cm以下の甲状腺癌と診断されて手術が 行われた場合,手術症例の約 85%が増大しない癌に対して手術が行われている可能性を示している。
・癌の早期発見および治療のメリットが強調されると,誘導され,検査の増加,診断の増加 となって手術が行われることになる
・今後,過剰診断ならびに,その不利益,弊害について広く周知,啓発していく必要がある

【放射線事故後の甲状腺癌スクリーニング】


p40 原爆被爆者における甲状腺癌調査  今泉 美彩先生


・原爆被爆者は,年 1 回がん検診を受診できるが,甲状腺癌は含まれてない
・原爆被爆者の約 12 万人の70年以上の長期コホート調査で検討されている。
・超音波検査はない時代からのコホートにおいて,どのような甲状腺調査が行われてきて,何がわかったかについて概説する。
・原爆被爆者の甲状腺 被曝線量は高い人では1~ 4Gyに達しており,福島 第一原子力発電所事故後の住民の被曝線量よりはるかに高く,そのリスク評価はこれら高線量の人たちに大きく依存していることに留意が必要
・被爆後に検診や医療機関でみつかった甲状腺癌についてまとめられた。それによると,全身被曝線量 500mGy 以上の被曝で甲状腺癌有病率が有意に高かった。
・この調査では,有意な放射線被曝の影響が認められる最小線量は 200mGyであった。
・原爆被爆者の長期コホート調査において,甲状腺癌 リスクは甲状腺被曝線量が増えるにしたがって増加 し,その影響は経年的に減少しながらも生涯続くことが示唆された。また,被曝線量が低いほど影響は小さく,数十mGy では仮に影響があったとしても科学的に検出できないほど小さい。


p45 福島原発事故後の放射線被ばくと甲状腺癌:因果関係評価における過剰診断が及ぼす影響  津金 昌一郎先生


・コホート研究により得られたエビデンスが因果関係であるためには,偶然,交絡,バイアスの影響を否定する必要がある。
・ほとんどの住民においては,甲状腺癌リスクの増加は無いか,あったとしてもかなり小さいとリスクが評価される。
・「県民健康調査」甲状腺検査により検出される多くは過剰診断と思われる甲状腺癌に基づいて検証しようとすると,偶然,交絡,バイアスの影響を排除することはきわめて困難と推測する。
・30 年以上の全国がん登録との照合などに基づいた長期追跡により,放射線被ばくとの関連を検証可能かもしれないが,過剰診断が多くを占めるのであれば不可能であろう。


p52 原発事故後の甲状腺癌スクリーニングの是非~国際研究機関の提言を中心に~  大津留 晶先生ほか


・近年の超音波を用いた甲状腺癌スクリーニングは,著しい過剰診断を促し,早期発見に伴う早期治療の利益は明らかではない。
・甲状腺癌スクリーニングは,その害に比して,受診者にそれを上回る何らかの複合的利益が見込まれるのかどうかがはっきりしていなかった。
・国際がん研究機関(IARC)の専門家グループの原発事故後においても集団的なスクリーニングは行ってはいけないとされた勧告がどのような考えに基づき勧告がなされたかなどを紹介する。
・利益相反がない 16 名の委員から構成され,米国議会から承認されている米国予防医療専門委員会が10,424報の抄録から707論文をレビューし,67件の研究をメタアナリシスも 加え検討。結論は,無症状の成人に対する甲状腺癌スクリーニングは,利益よりも害が大きい。推奨グレードはD(Do not screen for thyroid cancer)。
(そもそも成人のスクリーニングが推奨グレードDで,その理由が過剰診断の害であれば,小児ではもっと行ってはいけないと考えるべきであろ う。さらに,その後の研究結果を追加し検討したレビューによれば,遺伝的背景や被ばく歴などのある高 リスク群においても,超音波を用いたスクリーニング は支持できないとされた)
・ス ウェーデンの診断用 放射性ヨウ素によるフォローアップ研究 平均940mSvの甲状腺被ばく、米国の核実験場周辺の中央値は97mSv,平均値174mSv,最高2,800mSvの多くは低~中等度の線量。避難地区の3歳未満の子どもの55%,周辺地域の子どもの 35%が,甲状腺等価線量 2,500mSv 以上であったチェルノブイリ原発事故。甲状腺等価線量650mSvのウクライナ、甲状腺等価線量560mSvのベラルーシ
それに比べ、福島第一原発事故のフォールアウトによる甲状腺内部被ばくは,線量が高い 8 つの避難区域の住民の甲状腺等価線量の中央値は0.6 ~ 16mSvであり,95パーセンタイルでも 7.5 ~ 30mSvであった。避難区域ではない地域はさらに線量は低いと推定されている。よって,放射線による甲状腺癌の発癌リスクはきわめて考えにくい。
・ IARC などの国際研究機関は,原発事故後であっても甲状腺癌集団スクリーニングは行ってはいけないと勧告した。これは過剰診断の不利益を説明すれば,モニタリングの名目で健康な人に甲状腺検査を行ってよいという意味ではない。
・福島で行われているような甲状腺検査の方法は,現在では勧められない検査と考えられていることを住民の 方々に理解してもらって,少なくともSHAMISEN や IARC の提言にあるような真のモニタリングへ早急に改善すべきであろう。


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パスワードをもらえると、いままでの学会雑誌例えば 2016年の 特集2 甲状腺スクリーニングとその問題点(7巻 1号)や2015年(6巻 2号)シリーズ [一家言]
植野映先生なども読めます。まるで学会の営業になってしまって申し訳ありません。