おじいちゃんはかっこいい。
おじいちゃんが亡くなった。彼は「ありのままを受け入れる」という意味の正寛という法名を授かった。法名とは浄土真宗における戒名のことだ。
昔からあっけらかんとしていていつも明るく、飾らず素直でいたおじいちゃんにぴったりだと思った。
船大工だったおじいちゃんは若い頃パプアニューギニアで船をつくっていた。当時はフランス語が話せたらしく、現地の大工の教育もしていたんだって。昔の写真を見せながら「こいつはいつもお喋りでよ〜」とか、一緒に写ってる人を指して懐かしそうに笑っていた。とっても貴重面なおじいちゃんは昔の写真を綺麗にとってあって、会いに行くとアルバムを広げながらよく思い出話をした。私はその時間が好きだった。
カラー写真が存在しない当時の日本で、海外に行って自分の腕っ節で仕事して生きていたおじいちゃんがめちゃくちゃかっこいいと思った。
あまり海外に関心の高い親族がいない中、おじいちゃんのこの頃の話は自分との繋がりを感じてなんだかあったかい気持ちになった。
小さい頃から家に遊びに行くたびに新しい家具があって、部屋のレイアウトが変わってるのがおもしろかった。
ベット、テレビ台、本棚、テーブル、椅子までなんでも木材とトンカチで作っちゃうおじいちゃんだった。
日曜大工が趣味でなんでもつくっていたお父さんも実はおじいちゃんから習ったらしい。
義父とのコミュニケーションとして習い始めたのかもしれないけど、きっとハマっておじいちゃんの様に家具を作り始めたんだろうな。
体調が悪化してから
おじいちゃんの部屋はいつも同じ。
おじいちゃんが自分で作った木のベットは処分され、自由に動けない身体の為に介護ベットに変わった。
薬の影響で髪が抜けたので綺麗な坊主にした
おじいちゃんはいつも手拭いや帽子を
かぶる様になった。
かっかっかっと笑いながら
「こんなはげ頭みっともねえからよ〜。」と。
そんな風に振る舞うおじいちゃんもかっこよかった。
おじいちゃんはとてもお喋りな人だった。
普段一人暮らしなのもあって、会いに行くと
息つく暇もないほど喋っていた。
呼吸器をつけるよくになってから
そうはいかなくなった。
昔のように話そうとすると
咽せてとてもとても苦しそうだった。
椅子に座っているのも苦しくなり
「ごめんな、じいちゃんちょっと休むよ。」と
弱々しく言いながら横になって休んだ。
辛かっただろうに。
昔のように沢山おしゃべりできなくなって。
悔しかっただろうに。
いつもハツラツと振る舞っていたおじいちゃんが
弱っている姿を私たちに見せるのは。
苛々が募ったろうに。
大好きだった物づくりをもうできないと
痛感したとき。
お年寄りが身体の自由が効かなくなると
弱るのは身体そのものだけでなく
脳も猛スピードで弱る。
頭の回転が早く、昔のことから最近覚えた誰かの電話番号までよく覚えていたおじいちゃんも
身体の自由が効かなくなるのに応じて
たくさんのことを忘れていった。
忘れるというより
混乱していたという方がしっくりくる。
お母さんから
大の仲良しだった近所のおばちゃんは
泥棒呼ばわりし始め、ベットの下にトンカチを隠していたという話を聞いた時には
心底悲しくなった。
昔見たフランスアニメ映画の「しわ」で
主人公の老人の認知症が少しずつ進行して
最後に友人を泥棒呼ばわりして暴れるが
全て自分でベットの下に隠していたというシーンがあるが、それを思い出して
「ああ、本当にそうなんだ。」と
映画を反芻した。
おじいちゃんはかっこいい。
当時、焦りや苛立ちに包まれて
不確かさへの不安を感じていた私におじいちゃんはあっけらかんと言った。
「人殺しと泥棒だけしなきゃ万紀子の好きなことをしなさい。万紀子の人生は万紀子のものだからよ。」
あの日おじいちゃんはいつもの調子で冗談のつもりで言ったのかもしれない。
でも、この言葉は今でも大切な言葉として
私の中できらきらしている。
自分を信じよう、とポジティブな気持ちを持つ為に背中を押してくれた。
好きなことを好きという人や自分自身を愛そうという想いはおじいちゃんから受け継いだのだと思う。
おじいちゃんはかっこいい。
会うたびに「じいちゃん、いつ死ぬかわかんねえからよ〜」と冗談半分で昔から言っていた。
冗談じゃなくなる日がくるとは
思っていなかった。
死に対して良し悪しはない。
ただ正直いって「良かったね、おじいちゃん。」と思った。
もうこれ以上呼吸器のチューブがひっかからないように用心しながら苛々と家の中を動く必要もない。
もうこれ以上話したいことを話せないまま
肺の苦しさに煩わされることもない。
もうこれ以上上手く働かない脳のせいで
愛する人のことを勘違いすることもない。
良かったね。
おじいちゃんのように生きたいとと思う。
ありのままを受け入れて。
ありのままを愛して。
あっけらかんと、明るくハツラツと。
おじいちゃんはかっこいい。
生きていた時も。
今も。
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